リノンさんは恋愛上手

そらどり

文字の大きさ
7 / 25
初めてのデート編

閑話 店長は我思う

しおりを挟む
僕の名前は寺島冬一郎てらしまとういちろう。市内の商店街で古本屋を営むしがない店主。



高校卒業後に実家である古本屋『寺島書房』を継ぎ、気がつけば今年で10年目。成り行きな気分だった初めの頃は四苦八苦したが、それだけの月日を経てようやく慣れてきた。



来る日も来る日もお客さんは優しい常連さんばかりで、居心地の良さを感じている。



店内から眺める通りの風景も変わらずだ。強いて変わったといっても、目の前の洋食屋にシャッターが閉まった程度だろう。



そんな代わり映えのしない風景を楽しみながら営む古本屋は、僕にとって天職なのかもしれない。



でも、そんな僕の風景に一つ大きな変化が訪れた。



「店長、棚の掃除終わりました」



声をかけてきたのは最近バイトで雇った高校生、周防拓海くんだ。「分かった」と言って立ち上がり、僕は彼が掃除した箇所を点検する。



「……うん、綺麗だ。隅から隅まで丁寧にできてるよ」



いつも通り、今日も丁寧に掃除をしてくれている。



「はい、ありがとうございます。次は何かありますか?」



「次? そうだな……、あ、そしたら物品の整理を頼もうかな」



「はい、分かりました」



彼はそう言うと、黙々と作業を始めた。



バイトで雇い、はや1か月。雑用作業はほとんど覚えてしまったため、作業のスピードも初めと比べて格段に上がっていた。



レジカウンターから眺めていると、段々と仕事を覚えていく彼の姿がくっきりと分かる。



「はぁ……」



でも、僕は苦い顔を浮かべてしまう。



「(勤務態度は申し分ないんだけどなぁ……)」



理由は明確。一度も会話が盛り上がったことがないからだ。



世間話も一言二言で終わってしまう。仕事の報告も必要以上に話さず義務的。ようするに他人行儀。



このまま気まずい関係が続けば、流石の僕も耐えられない。



「(とはいえ、どんな話題が良いのやら)」



今の高校生って、皆こんな感じなのだろうか。いや、僕も高校生の時はあんな感じだった気がする。



人付き合いが苦手で、いつもこの場所で本と対話する方が好きだった青春。今思えば、もっと遊んでおけばよかったと後悔してしまうほどに。



「(……そうか!)」



僕も彼も同種なんだ。きっと彼も同じように悩んでいるはず。



だったら―――――



「ねぇ、拓海くんって歴史小説好き?」



「いえ、好きではないです」



違った。



「で、でもさ……面接の時に教育系の本が好きって言ってたよね? なにか共感できるものがあったの?」



「いや、そう言っておけば受験生になった時に融通が利くかなって」



「(そっちの教育だったか……)」



確かにうちは立地的にそういった類の教材を多々扱っている。でも、ちょっと正直過ぎではないだろうか。



「そ、そうか……拓海くんは勤勉家なんだね」



「いえ、勉強は苦手です」



「(なんでだよ……!?)」



もうなにも分からない。最近の高校生って皆こんな感じなのか?



……もしかして、これが世代間格差というやつなのか。



「店長?」



「い、いや、大丈夫……。ちょっと老いを感じてしまって」



「そんなことないですよ。店長まだ若いんですから」



「そういう気遣いはできるんだ……」



「? はい」



もっと若者の価値観とかに向き合うべきなのかもしれない。拓海くんの世代で流行してるものを知らなければ。



僕がもっと若者に寄り添えば、きっと拓海くんとも分かり合えるはず。







―――よし、言うぞ。







「ねえ、拓海くんは友達いるの―――――」



「ごふぅッ!? ごほふぅッ!?」



「ええええええ~~~!!? ちょっ、拓海くん!? ど、どうしたの!?」



「だ、大丈夫です……ちょっと咳き込んだだけなんで……」



「え、でも尋常じゃない咳き込み様だったけど……!」



「いや、ほんとに、まじで、平気なんで」



「そ、そう?」



どうみても平気そうには見えないが、どうやら禁忌に触れてしまったようだ。



これ以上は踏み込んではいけないらしい。



「(結局、仲良くなれないのかな……)」



余計なことをして、余計に壁が分厚くなってしまった。



「ごめんね、拓海くん、余計なこと言って……傷つけちゃったよね」



「―――! い、いえ……友達ならいますから……!」



「……え? いるのかい?」



「いますいます……! ……と言っても隣に住んでる奴なんですけど」



「なんだぁ、いるなら言ってよ……」



「すみません」と言うと、拓海くんは思い出したように続けた。



「あの……今度そいつに社会勉強の一環でバイトさせてみようと思うんですけど、何か良い案とかありますか?」



「バイト? それはまたどうして」



「まあ……色々と危ない感じなもので……」



色々とあるらしい。これ以上の詮索は止めておこう。



「(それに、これはいい機会かも……)」



その子をきっかけに、拓海くんと仲良くなれるかもしれない。



「拓海くん、うちでその子を雇うのはどう?」



僕がそう提案すると、拓海くんは「え」と声を上げて驚いていた。



「俺を雇ってまだ1か月なのに……そんな余裕あるんですか?」



「大丈夫。雇うと言っても一時的、お試しだから。……まあ、その子次第では身を切る覚悟ではあるけどね!」



「店長、凄い覚悟ですね」



「あはは……うん…………」



ちょっとしたジョークは通じなかった。おかしいな。昔、おばあちゃんが笑ってくれたネタなのに。



「(でも、拓海くんの友達かぁ……)」



拓海くんが連れてくる日を待ち遠しく思いながら、僕はそんな変わりゆく風景を一人楽しむ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

再会した幼馴染は××オタクになっていました。

星空永遠
恋愛
小さい頃から幼なじみの黒炎(こくえん)くんのことが好きな朱里(あかり)。そんな彼は引っ越してしまい、気持ちは伝えられず。しかし、高校で再会することができ、それを喜ぶ朱里だったが、彼は以前とは変わっていて……。 だけど、黒炎くんのお家にお泊りしたり、遊園地では朱里にとっては驚くハプニングが!?二人の距離はどんどん近づいて……。イケメンの幼なじみにドキドキが止まらない!じれったい二人の恋の行方は……? この恋は本気なんです……! 表紙絵=友人作。

処理中です...