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澄花と司 編
獅童司と鷹司雅
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エントランスを向け、建物に囲まれた中庭に足を踏み入れる。
中央には小さな丘があり、その上で談笑する生徒や楽器の演奏練習をしている生徒が何人か見えるが、それを横目に通り過ぎると、次第に二つの校舎が姿を現す。
「ここまで、だな」
「そうですね」
名残惜しむように司と澄花は向かい合う。
二人が今立っている場所は新校舎の昇降口。貴族層の生徒が通っている方の校舎であった。
「(あぁ、せっかくいい雰囲気だったのに……)」
頭を掻きながら、司はそんな不満を顔に出すが、既に存在する規則を無策に否定するわけにはいかないと理性が働く。
春聖館学院では貴族層と平民層とで校舎が別々に用意されている。
何十年か前までは、生徒数が今よりも少なかったのも相まって、同じ校舎で授業を受けるのが普通だったのだが、年々悪化する両者の対立とそれに伴う学院出資者らの意向に基づき、新たに新校舎が設立されることになった。
当時全体の七八割が貴族層であったため、新校舎に移った後の旧校舎の形骸化防止や新校舎建設費用の回収を目的とした一般階層からの入学者数拡大によって、今のような大規模な生徒数を確保したとかの資料を生徒会室で閲覧した記憶がある。
まあ、その結果として、さらなる対立を生じさせたのはどうなのかと穿ってしまうが。
「どうしましたか? 呆けていては、すれ違う方々に苦笑されてしまいますよ?」
「え? あ、ああ。ちょっと考え事を……」
周囲を気にしてか、澄花は使用人としての姿勢を被って注意してくる。
事実、この間にも複数人と顔を合わせているため、注意するに越したことはないのだが。
しかし、司としてはどうしても譲れないものがあった。
「……やっぱり、二人だけの時じゃないと敬語は解いてくれないの?」
「駄目ですよ。そうやって気が抜けてしまった結果どうなったかは、既に学んでいるでしょう?」
「むうぅ……、そりゃあ分かってはいるけどさ……」
「あのようなやり直しがもう一度起こる保証はないのですから、ここはひとつ矛をお納めくださいませ」
「……分かった」
もう二度と澄花を手放さないと誓った身である以上、自分勝手な主張は慎むべきだとは理解している。
とはいえ、今のいい感じの雰囲気をもっと味わいたいと願ってしまうのもまた事実であった。
「それに……離れ離れになるのは今だけですから。放課後になれば、生徒会室でまた会えますよ」
それを見越したように、澄花は甘く囁く。
耳元に息が届く距離。右手を添えて、小悪魔のようにニヒルな笑みを浮かべるものだから、司は思わずドキッとしてしまった。
「ふふっ、ではまた放課後に」
そんな姿を見て満足したのか、澄花は小さく笑いながら旧校舎へと歩いて行った。
エントランスでの苦い記憶はどこへやら、えらく上機嫌な後ろ姿を見届けると、俺はようやく一人になる。
周りに人がいないことを確認して、ゆっくりと息を吸い、そしてこう叫んだ。
「あぁああああ―――ッ!? 可愛すぎるだろおぉおおおおおお――――――ッ!!?」
その声に驚愕した子鳥が翼を広げて飛んでいく。
広く澄み渡る空を羽ばたき、やまびこの如くこだまする声と共に遠くへと消えていった。
「……危ない、少々取り乱してしまった」
悶々とする心の内をさらけ出し、ようやく司は一息つく。
初めて告白した以前の距離感増しましな関係であれば到底有り得なかった状況、それも春聖館学院という規律が重んじられるこの場所で、あの澄花が随分と大胆なことをしてきたものだと感心してしまった。
先程、澄花の身体を抱き寄せたことに対するやり返しだろうか、その仮説通りであればなんともまあ、若気の至りとも言える。
なるほどなるほど、ここまで羞恥をかき立てる行動をした彼女に敬意を払わなければ……
「(あ、やばい……やっぱり恥ずかしくなってきた)」
博士口調で内心を取り繕ってみたものの、だんだんと羞恥心が襲ってきて、再び悶々とした気持ちが押し迫ってくる。
自分でも分かるほどに顔が熱くなり、躊躇わずにその場にうずまりたいと切実に思うと同時、もう抑えきれない心の叫びを解放してしまう。
「(うぅあぁあああッ!! マジで無理だってもおぉおおおお―――ッ!!?)」
今朝のキス三連発に加え、先程の澄花の大胆過ぎる行動を受け、司の理性はもう限界を迎えていた。
が、その場所から数百メートル先の旧校舎敷地内でもまた一人、木々の下に身を隠し、声を押し殺して悶える者がいたのは言うまでもない。
自分だけが相手を意識し過ぎていると、互いに自らを落ち着かせようと悶える朝であった。
そんな登校途中でのやりとりを経て、司はようやく教室に赴く。
未だ治まらぬ羞恥心をなんとか誤魔化し、誰にもバレないよう祈りつつ扉を開けるが、開幕一番に視界に入った人物によってあっさりとツッコまれてしまう。
「ぷっはは! なんだその顔!? 司、お前顔真っ赤じゃねえか!」
珍しいものを見たとでも言いたげな表情で馬鹿笑いする生徒―――本郷真人にそう指摘され、司はすぐに「うるせ」と反論する。
「いけませんよ、真人。きみは政治家の息子なんですから、言葉遣いには細心の注意を払ってください」
その隣の席に腰掛ける生徒がひとり―――三条玲次が、穏やかな口調で真人を律するが、それを不服に思ったのか、真人は怪訝な態度で対抗する。
「……あのな? 俺がおちゃらけてるんじゃなくて、玲次が固すぎるだけなんだよ。なんでスポーツジム経営企業の一人息子がこんな七三分け眼鏡野郎に育っちまったんだよ? 普通はもっと筋肉マッチョに育つだろうが」
「それは偏見ですよ……ですが、少なくとも真人に比べれば、世間的には大柄と評価されます」
その発言に眉がピクつく真人。
瞬く間に顔が引き攣ると、次第に乾いた笑みを浮かべる。
「そ、れ、は、どういう意味ですかねぇ? まさか俺が小さいとでも言うつもりかい?」
「……少し語弊がありましたね。私の方が上だということです」
「さっきより直接的じゃねえかテメェッ!」
真人の激怒を皮切りに、二人が胸ぐらを掴み合う事態に。
ネクタイやブレザーを引っ張り合い、まるで猫同士の小競り合いだ。
「待て待て! いきなり喧嘩すんなよ!」
突然の取っ組み合いに混乱するものの、すぐに気を戻し、司が慌てて仲介に入る。が、一向に止めようとしない。
「チビ」だとか「ノッポ」だとか、なんとも低次元の争いを繰り広げていた。
しかし、教室内の生徒らは意に介さない。
珍しくもない光景にいい加減慣れてしまい、皆思い思いのことに勤しんでいた。
それでも司だけは放置しない。
貴族層の中での唯一気が許せる親友たち、そんな彼らを見捨ててしまうほど薄情な人間にはなりたくないからだ。
「ちょおっと一旦ストップッ!」
強引に引き剝がし、なんとか落ち着かせようとするが、先に抗議を始めたのは真人だった。
「だあっでよぁ、司ぁっ! あいつ俺のこと馬鹿にじだぁ……っ! 俺のことチビって言っだぁっ!」
「おいおい、小学生みたいに泣くなよ!? お前、高校生だろ!?」
コンプレックスを馬鹿にされ、真人は教室で泣きじゃくる。
「だあっでよぁ」と繰り返しながら、机に突っ伏してしまった。
「全く……これだから金髪野郎は困る」
対する玲次は、クイっと眼鏡を上げて決め台詞を吐いている。
が、よく見ると重大な欠点が浮き彫りになっている。それを認めると、司はため息をつきながら教えてあげた。
「玲次、かっこつけてるとこ悪いけどさ……眼鏡上下逆だぞ」
「なあ……ッ!? ふ、不覚ッ!?」
指摘すると、玲次は慌てて眼鏡をかけ直す。
普通に考えれば耳に違和感があるだろうに、どうして気づかなかったのだろうかと疑問に思うのは当然の権利だ。
天然、または抜けていると表現した方が適切か。そんな性格を有している玲次は、みるみるうちに顔を赤くすると、相方と同じく机に突っ伏して恥を隠してしまった。
「コントやってんじゃねえんだぞ、お前ら……」
教室に入り早々の出来事をようやく呑み込み、司はそう結論付ける。
余りの騒々しさに、先程までの悶々とした気持ちは流石に吹き飛んでしまった。
本当に何と言えばいいのか。政治家の息子である真人とスポーツジム等のマルチな経営を営む総合商社の息子である玲次。
外見だけで考慮すれば、出身が真逆と言われても納得しそうな二人である。
「……あ、そうだ」
物思いに耽っていると、泣き止んだ真人が顔を上げて言う。
「さっきお前のこと探し回ってる奴が廊下にいたぞ? 『生徒会長は立て籠もってないで早く出てきなさい』とかなんとか」
「ああ、私も耳にしましたよ。眼鏡のピントが合わず、その姿までは確認できませんでしたが」
「ええ……、俺、今来たばかりなのに……」
なんとも昭和を感じさせるセリフだが、生徒会長である以上、何となくで要求を無下にするわけにもいかない。
朝から忙しなさの応酬に酔ってしまいそうになるものの、それを喉奥に押し戻し、司は廊下へと顔を出す。
往来する淑女や紳士に目もくれず、該当する人物を探していく。
「……いない、よな」
つきあたりの階段まで見回るが、当然人の気配はない。
階段下も念のため確認するが、やはり生徒の影さえ見えなかった。
「(まあ、用があればまた教室に来るか)」
そう思いながら頭を掻き、無駄足を嘆こうとしたその時、ふと屋上の扉が音を立てて開かれる。
錆びた鉄がひしめき合う歪な反響を轟かせ、階段元に立っていた司は思わず振り返った。
規則に準じたスカート丈、貴族層を象徴する紫色のネクタイ、それらを可憐に着こなして威風堂々と現れたひとりの女子生徒。
長い黒髪の先を片手ですくい流し、古めかしさを覗かせる彼女はまるで大和撫子を思わせる風格だった。
「……あら?」
司の存在に気がついたのか、その少女は透き通った声で発する。
すると次第に不敵な笑みを浮かべ、それでも凛とした表情は崩さない姿は趣があった。
射光に中てられてもなお伝わってくる雅やかな雰囲気に、司は一瞬惹き込まれそうになった。
「探しましたよ、生徒会長さん?」
ニッコリと笑う彼女の瞳には陰りが映る。
司はそれに気がつくが、敢えて見て見ぬふりをする。
この学院で最も関わりたくない人物であり、司にとっての最も警戒するべき相手。
貴族層を束ねる貴族院代表―――鷹司雅。鷹司財閥の令嬢である。
中央には小さな丘があり、その上で談笑する生徒や楽器の演奏練習をしている生徒が何人か見えるが、それを横目に通り過ぎると、次第に二つの校舎が姿を現す。
「ここまで、だな」
「そうですね」
名残惜しむように司と澄花は向かい合う。
二人が今立っている場所は新校舎の昇降口。貴族層の生徒が通っている方の校舎であった。
「(あぁ、せっかくいい雰囲気だったのに……)」
頭を掻きながら、司はそんな不満を顔に出すが、既に存在する規則を無策に否定するわけにはいかないと理性が働く。
春聖館学院では貴族層と平民層とで校舎が別々に用意されている。
何十年か前までは、生徒数が今よりも少なかったのも相まって、同じ校舎で授業を受けるのが普通だったのだが、年々悪化する両者の対立とそれに伴う学院出資者らの意向に基づき、新たに新校舎が設立されることになった。
当時全体の七八割が貴族層であったため、新校舎に移った後の旧校舎の形骸化防止や新校舎建設費用の回収を目的とした一般階層からの入学者数拡大によって、今のような大規模な生徒数を確保したとかの資料を生徒会室で閲覧した記憶がある。
まあ、その結果として、さらなる対立を生じさせたのはどうなのかと穿ってしまうが。
「どうしましたか? 呆けていては、すれ違う方々に苦笑されてしまいますよ?」
「え? あ、ああ。ちょっと考え事を……」
周囲を気にしてか、澄花は使用人としての姿勢を被って注意してくる。
事実、この間にも複数人と顔を合わせているため、注意するに越したことはないのだが。
しかし、司としてはどうしても譲れないものがあった。
「……やっぱり、二人だけの時じゃないと敬語は解いてくれないの?」
「駄目ですよ。そうやって気が抜けてしまった結果どうなったかは、既に学んでいるでしょう?」
「むうぅ……、そりゃあ分かってはいるけどさ……」
「あのようなやり直しがもう一度起こる保証はないのですから、ここはひとつ矛をお納めくださいませ」
「……分かった」
もう二度と澄花を手放さないと誓った身である以上、自分勝手な主張は慎むべきだとは理解している。
とはいえ、今のいい感じの雰囲気をもっと味わいたいと願ってしまうのもまた事実であった。
「それに……離れ離れになるのは今だけですから。放課後になれば、生徒会室でまた会えますよ」
それを見越したように、澄花は甘く囁く。
耳元に息が届く距離。右手を添えて、小悪魔のようにニヒルな笑みを浮かべるものだから、司は思わずドキッとしてしまった。
「ふふっ、ではまた放課後に」
そんな姿を見て満足したのか、澄花は小さく笑いながら旧校舎へと歩いて行った。
エントランスでの苦い記憶はどこへやら、えらく上機嫌な後ろ姿を見届けると、俺はようやく一人になる。
周りに人がいないことを確認して、ゆっくりと息を吸い、そしてこう叫んだ。
「あぁああああ―――ッ!? 可愛すぎるだろおぉおおおおおお――――――ッ!!?」
その声に驚愕した子鳥が翼を広げて飛んでいく。
広く澄み渡る空を羽ばたき、やまびこの如くこだまする声と共に遠くへと消えていった。
「……危ない、少々取り乱してしまった」
悶々とする心の内をさらけ出し、ようやく司は一息つく。
初めて告白した以前の距離感増しましな関係であれば到底有り得なかった状況、それも春聖館学院という規律が重んじられるこの場所で、あの澄花が随分と大胆なことをしてきたものだと感心してしまった。
先程、澄花の身体を抱き寄せたことに対するやり返しだろうか、その仮説通りであればなんともまあ、若気の至りとも言える。
なるほどなるほど、ここまで羞恥をかき立てる行動をした彼女に敬意を払わなければ……
「(あ、やばい……やっぱり恥ずかしくなってきた)」
博士口調で内心を取り繕ってみたものの、だんだんと羞恥心が襲ってきて、再び悶々とした気持ちが押し迫ってくる。
自分でも分かるほどに顔が熱くなり、躊躇わずにその場にうずまりたいと切実に思うと同時、もう抑えきれない心の叫びを解放してしまう。
「(うぅあぁあああッ!! マジで無理だってもおぉおおおお―――ッ!!?)」
今朝のキス三連発に加え、先程の澄花の大胆過ぎる行動を受け、司の理性はもう限界を迎えていた。
が、その場所から数百メートル先の旧校舎敷地内でもまた一人、木々の下に身を隠し、声を押し殺して悶える者がいたのは言うまでもない。
自分だけが相手を意識し過ぎていると、互いに自らを落ち着かせようと悶える朝であった。
そんな登校途中でのやりとりを経て、司はようやく教室に赴く。
未だ治まらぬ羞恥心をなんとか誤魔化し、誰にもバレないよう祈りつつ扉を開けるが、開幕一番に視界に入った人物によってあっさりとツッコまれてしまう。
「ぷっはは! なんだその顔!? 司、お前顔真っ赤じゃねえか!」
珍しいものを見たとでも言いたげな表情で馬鹿笑いする生徒―――本郷真人にそう指摘され、司はすぐに「うるせ」と反論する。
「いけませんよ、真人。きみは政治家の息子なんですから、言葉遣いには細心の注意を払ってください」
その隣の席に腰掛ける生徒がひとり―――三条玲次が、穏やかな口調で真人を律するが、それを不服に思ったのか、真人は怪訝な態度で対抗する。
「……あのな? 俺がおちゃらけてるんじゃなくて、玲次が固すぎるだけなんだよ。なんでスポーツジム経営企業の一人息子がこんな七三分け眼鏡野郎に育っちまったんだよ? 普通はもっと筋肉マッチョに育つだろうが」
「それは偏見ですよ……ですが、少なくとも真人に比べれば、世間的には大柄と評価されます」
その発言に眉がピクつく真人。
瞬く間に顔が引き攣ると、次第に乾いた笑みを浮かべる。
「そ、れ、は、どういう意味ですかねぇ? まさか俺が小さいとでも言うつもりかい?」
「……少し語弊がありましたね。私の方が上だということです」
「さっきより直接的じゃねえかテメェッ!」
真人の激怒を皮切りに、二人が胸ぐらを掴み合う事態に。
ネクタイやブレザーを引っ張り合い、まるで猫同士の小競り合いだ。
「待て待て! いきなり喧嘩すんなよ!」
突然の取っ組み合いに混乱するものの、すぐに気を戻し、司が慌てて仲介に入る。が、一向に止めようとしない。
「チビ」だとか「ノッポ」だとか、なんとも低次元の争いを繰り広げていた。
しかし、教室内の生徒らは意に介さない。
珍しくもない光景にいい加減慣れてしまい、皆思い思いのことに勤しんでいた。
それでも司だけは放置しない。
貴族層の中での唯一気が許せる親友たち、そんな彼らを見捨ててしまうほど薄情な人間にはなりたくないからだ。
「ちょおっと一旦ストップッ!」
強引に引き剝がし、なんとか落ち着かせようとするが、先に抗議を始めたのは真人だった。
「だあっでよぁ、司ぁっ! あいつ俺のこと馬鹿にじだぁ……っ! 俺のことチビって言っだぁっ!」
「おいおい、小学生みたいに泣くなよ!? お前、高校生だろ!?」
コンプレックスを馬鹿にされ、真人は教室で泣きじゃくる。
「だあっでよぁ」と繰り返しながら、机に突っ伏してしまった。
「全く……これだから金髪野郎は困る」
対する玲次は、クイっと眼鏡を上げて決め台詞を吐いている。
が、よく見ると重大な欠点が浮き彫りになっている。それを認めると、司はため息をつきながら教えてあげた。
「玲次、かっこつけてるとこ悪いけどさ……眼鏡上下逆だぞ」
「なあ……ッ!? ふ、不覚ッ!?」
指摘すると、玲次は慌てて眼鏡をかけ直す。
普通に考えれば耳に違和感があるだろうに、どうして気づかなかったのだろうかと疑問に思うのは当然の権利だ。
天然、または抜けていると表現した方が適切か。そんな性格を有している玲次は、みるみるうちに顔を赤くすると、相方と同じく机に突っ伏して恥を隠してしまった。
「コントやってんじゃねえんだぞ、お前ら……」
教室に入り早々の出来事をようやく呑み込み、司はそう結論付ける。
余りの騒々しさに、先程までの悶々とした気持ちは流石に吹き飛んでしまった。
本当に何と言えばいいのか。政治家の息子である真人とスポーツジム等のマルチな経営を営む総合商社の息子である玲次。
外見だけで考慮すれば、出身が真逆と言われても納得しそうな二人である。
「……あ、そうだ」
物思いに耽っていると、泣き止んだ真人が顔を上げて言う。
「さっきお前のこと探し回ってる奴が廊下にいたぞ? 『生徒会長は立て籠もってないで早く出てきなさい』とかなんとか」
「ああ、私も耳にしましたよ。眼鏡のピントが合わず、その姿までは確認できませんでしたが」
「ええ……、俺、今来たばかりなのに……」
なんとも昭和を感じさせるセリフだが、生徒会長である以上、何となくで要求を無下にするわけにもいかない。
朝から忙しなさの応酬に酔ってしまいそうになるものの、それを喉奥に押し戻し、司は廊下へと顔を出す。
往来する淑女や紳士に目もくれず、該当する人物を探していく。
「……いない、よな」
つきあたりの階段まで見回るが、当然人の気配はない。
階段下も念のため確認するが、やはり生徒の影さえ見えなかった。
「(まあ、用があればまた教室に来るか)」
そう思いながら頭を掻き、無駄足を嘆こうとしたその時、ふと屋上の扉が音を立てて開かれる。
錆びた鉄がひしめき合う歪な反響を轟かせ、階段元に立っていた司は思わず振り返った。
規則に準じたスカート丈、貴族層を象徴する紫色のネクタイ、それらを可憐に着こなして威風堂々と現れたひとりの女子生徒。
長い黒髪の先を片手ですくい流し、古めかしさを覗かせる彼女はまるで大和撫子を思わせる風格だった。
「……あら?」
司の存在に気がついたのか、その少女は透き通った声で発する。
すると次第に不敵な笑みを浮かべ、それでも凛とした表情は崩さない姿は趣があった。
射光に中てられてもなお伝わってくる雅やかな雰囲気に、司は一瞬惹き込まれそうになった。
「探しましたよ、生徒会長さん?」
ニッコリと笑う彼女の瞳には陰りが映る。
司はそれに気がつくが、敢えて見て見ぬふりをする。
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