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第一楽章 出会いと気づき
もう遅い
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スマホから音楽が流れる。
「……ん」
無視してしまいたいが、理性がそれを許さなかった。
仕方なく身体を起こし、画面をタップする。
すると、再び静寂が訪れた。
「……」
部屋を見渡す。
カーテンの隙間から差し込む月光が、目の前に広がる空間を神秘的に演出していた。
余韻に浸っていたかったが、私にはやることがある。
立ち上がり、部屋の電気を点ける。
それを起点に、出発前の荷物確認を始める。
予め前日に用意しておいた着替えがカバンにあることを確認し、誰もいない部屋で一人頷く。
着替えを忘れて恥ずかしい思いをして以来、就寝前と起床後の二回確認するようにしてる。
デオドラントスプレーも常備するようになった。
それが終わると、ようやく自らの身だしなみを整える番だ。
扉を開けて、階段を下りる。
そのまま階下の洗面室に入り、鏡と睨めっこする。
「寝癖すごい……」
いつも使っている寝癖直しを取り出し、丁寧に端正していく。
幾分かマシになると、ヘアードライヤーを使用して是正する。
最後の仕上げにブラシで隈なく解いていく。
……大丈夫
肩まで伸びてしまった髪は、正直鬱陶しいと思った。
今みたいに時間がかかるし、運動していると、いちいちまとわりついて離れない。
近いうちに美容院に行く必要がある。
でも、今日はこのまま散髪に行くことは出来ない。
なので、小箱から取り出したヘアゴムで後ろを束ねる。
なるべくゴム跡がつかないようにゆったり目に。
次に前髪をヘアバンドで固定する。
そして、髪が当たらないように、貯めておいたお湯で洗顔をしていく。
優しく当てるように、これが基本だという。
忠実に守り、時間の許す限り、丁寧に化粧水をつけていく。
数種類あるものを順番通りに当てていき、鏡で確認する。
「よし」
起床時とは違い、顔色がよく見える。
きめ細やかな肌を余すことなく全面に押し出せている。
それを確認して、ようやく私の私による身だしなみチェックが終了するのだ。
洗面台を後にして、リビングに移る。
テレビ横に置かれた時計を見ると、時刻は五時を指していた。
いつも通りだ。
身体を反転させて、キッチンに向かう。
そして私は、朝食をとるために冷蔵庫を開けた。
昨晩の残り物がラップに包まれている。
それを取り出すと、電子レンジにセットして、開始ボタンを押した。
音が鳴り、光を発しながら、中央に置かれた目的物を温めていく。
機械が正常に働いている証拠だ。
それが終わる間に、私はテレビの電源をつける。
丁度ニュース番組が始まる時間だった。
アナウンサーが一礼を机に置かれた原稿を読み上げる。
「……」
早朝のニュースは、驚きもなく、感動もない。
ただ、自身と関係のない出来事が流れては消えていく。
だから、正直好きではない。
天気予報の確認が目的なのだから、甘んじて受け入れているだけ。
画面上に表示された太陽のマークを確認すると、電源を切ってキッチンに戻った。
温め終わった食事をテーブルに運び、席に着く。
食事は、前日の夕食と同じ、白菜と豚肉の焼きうどん。
味はどうでもいい。
とにかくお腹を満たせればそれでいいのだ。
大した量のないそれを食べ切ると、落ち着く間もなくすぐに席を立つ。
空になった皿をシンクに置き、リビングを出ると、そのまま階段を上って部屋に戻る。
クローゼットを開いて、着替えを済ませると、隅に置いておいた荷物を持ってすぐに部屋を出た。
スマホの画面を見ると、まだ十分しか経っていない。
階段を下りて、玄関で靴を履く。
そして、扉を開けて、誰もいない家の鍵を閉める。
ここまでが早朝のルーティンだ。
「……今日もいつも通り」
振り返り、空を見上げると、まだ薄っすらと月が見える。
何処からか鳥のさえずりが聞こえ、もうすぐ日の光を浴びる時間なのだと分かる。
柵を開けて路面に立つと、右からジョギング中の中年男性がこちらに向かってきていた。
少し身構えてしまったが、イヤホンをして音楽に夢中だったのか、こちらを見ることなくすれ違っていった。
「……」
滅多にこんなことはないので、朝から動揺してしまった。
眼鏡もしていたし、あちらも気付いている様子はなかった。
少し落ち着いて、冷静に分析する。
そもそも、私のような新人声優を知っている人は少ない。
何万といる同業人の中の一人。
砂場の砂を一つずつ数えるに等しい作業、誰が好んでやるだろうか。
……ううん、違う
だからこそ、私は上に行きたい。
誰の目にも止まるような、みんなに認められる声優になりたい。
それこそ、あの人のような……
「あ、やば」
電車の時間に間に合わなくなる。
私は遠くなる人影に背を向けて、一人歩き出す。
自転車の方が早く着くが、髪が崩れてしまうので好きではない。
歩いて行った方が、まだ寝ぼけている身体を覚ますことが出来る。
それに、日が昇る直前、町が呼吸を始める瞬間を目の当たりにしながら一人闊歩する、その瞬間が好きだ。
まるで自分が主役になっている気分になる。
一日の始まりを噛み締めるように、私は歩いた。
いつも乗っている電車に乗車することが出来た。
普段は五分前にホームに立つことが出来るように余裕を持って行動していたが、今日は少し危なかった。
それでも、ホームに降り立つと同時に電車が入っていたので、些か問題ではない。
そのまま乗車して今に至る。
「……?」
後ろから話し声が聞こえる。
ちらっと横目で見やると、私と同じような年齢だろうか、複数人の男女が朝から盛り上がっていた。
キャラクターのイメージを汲み取ったカチューシャを身につけ、肩からポップコーンを入れるカゴを掛けている。
始発に乗っていると、たまにこういうグループを見かける。
始発で向かっても行列の後方に滑り込める程の距離。
スーツを着ている人が多い中、私服で上り線を乗車する人たちは、たいていこういう人達だ。
私のように、遊びと違う目的で都内に向かう人はいないだろう。
停車するたびに人混みが増しているが、増えていくのは仕事場に向かう人だけだ。
私服を着て目的地に向かう私は異端だと分かる。
でも、それを気にするほど私は余裕がない。
これから始まるレッスンに向けて、脳内で予行演習をする。
電車内の待機時間を無駄にするわけにはいかないのだ。
ーーー
目的の駅に着き、私はホームへ降り立つ。
電子板に表示された数字を確認すると、時刻は七時を示していた。
この時間帯は通勤ラッシュなので、次から次へと電車が駅に入ってくる。
ここにいても邪魔になるので、流れに乗ってエスカレーターに乗る。
続けて改札を通ると、そこで流れから外れる。
群衆が右手のビジネス街に姿を消していく。
それを見送ると、私は反対口に向かう。
駅から一時間弱歩き続ける。
繁華街を抜けて、段々と建物が低くなっていく。
その過程を経て、私はある建物の中に入る。
階段を登って四階のフロアに移動すると、左手に扉が聳え立っている。
私は臆する事なく扉を押して開けた。
開けると同時にベルが高らかに鳴る。
すると、呼応するように受付の奥から人が出て来た。
「あ、みなちゃん! 時間通りだよ!」
「おはようございます、伊予さん」
元気いっぱいにハキハキと声を出して、私を出迎えてくれた。
それに吊られて、私も声を出す。
「うん、朝からしっかり声が出てるね!」
さりげなくボイスチェックも行われる。
伊予さんは私が声優を志してからずっと教えを受けているボイス講師だ。
始め、右左の分からなかった私に、声の出し方、鍛え方、そして体の使い方をレクチャーしてくれた。
そのお陰で、今やっと努力が芽吹こうとしているのだから、この人には頭が上がらない。
「じゃあ、奥の部屋で待っててね!」
受付の裏に回って、道具を準備しながら次の指示を出す伊予さん。
それに従って、私は奥に進む。
部屋の扉を開けて中に入ると、暖色のライトで照らされた内装が目に入る。
電子ピアノやギター、アフレコ用のマイクが置かれている。
普段は音楽のレコーディング用に貸し切る事が出来るスタジオだが、それは午後から夜にかけてである。
営業時間外である午前中に限って、私が無理を言って週に何回か貸し切り状態にしてもらっている。
誰の邪魔も入らずに、信頼出来る師との対面練習が出来る素晴らしい環境。
今後、同じようなスタジオを探すように言われたら、私は絶対に見つかりっこないと断言出来る。
「お待たせー。時間も勿体無いから、もう始めよっか!」
少し時間を置いて、伊予さんが入って来た。
「はい、お願いします」
貴重な時間を無碍にしたくない。
私は荷物を置いて、準備をする。
先週渡されていた資料を手に取って、マイクの前に立つ。
電源を入れて、レコーディングの準備をする。
本番を想定した、実践的なレッスン。
これが、私の一日だ。
ーーー
資料に載っている文章に、感情を込めて言葉を発する。
対話式に話が進んでいる小説の一部を抜き取ったもので、伊予さんと私で声を当てていく。
全てを読み終えると、レコーディングしていたボタンを押して、録音を終了する。
終了後、録音した音声を再生して、客観的に分析する。
そして、疑問に思ったり、気になる部分があると、伊予さんが私に質問をする。
演技をする上で意識したことや意味を持って行ったことを答えていき、改善点があればアドバイスをくれる。
それを基に、再びレコーディングをして、評論会を開く。
これを繰り返していくのが、伊予さん式のレッスンだ。
「ここのシーンは他のシーンに比べて、少し内面を見せるように演技してみると良いよ。 一割増で前屈みになってやってみようか」
「マイクに近づく感じですか?」
「そうそう。より細かい機微を伝えるには、些細な息遣いが良いアクセントになるからね」
ベテランということをあって、具体的で説得力のあるアドバイスをしてくれる。
それを基に再びレコーディングをする。
終了後に、録音した自分の声を聴く。
すると、先程よりも内側に秘めた感情が剥き出しになっているように感じられた。
「いい感じ……」
自分の演技がより洗練されていくのを目の当たりにする。
まだまだ自分が未熟なのだと実感する。
でも、それが分かったからといって落ち込んでいられるほど驕っていない。
駆け出しの私が上に行くために、一つ一つを研いでいく。
「元々気持ちが乗ってたからね。簡単なアドバイスで済んで、こちらも楽だったよ」
伊予さんは笑いながら言う。
「以前までは基本に忠実だったけど、最近はそこから自分を出せるようになってる。客観的に見ている私が言うんだから間違いないよ」
「……ありがとうございます」
珍しくべた褒めされて、当たり障りの無い返事をしてしまった。
普段から厳しいわけでは無いが、明確に称賛するのは数えるほどであった。
「演技に迷いが無かったし、自信持って出来てたからね。個人練習でもしてたのかな?」
「腹筋とか体幹は鍛えてますけど……」
「確かに基礎トレーニングは要だけど、そうじゃ無くって……」
「?」
伊予さんがニヤニヤしながら、近づいてくる。
いつもと違い、こちらをまじまじと見つめてくる。
自らの顔を引き、伊予さんと距離を取るが、あまり意味は無かった。
「手探りだった演技に深みが増してる。自分でも気づいてる?」
「え……」
ここ最近の出来事を思い浮かべる。
以前と変わらずレッスンを受け、学校の課題に取り組み、基礎トレーニングを行う。
大した変化は起こっていないはずだ。
……
いや、以前と変わった事があった。
「……友人が出来ました」
「あら! 良かったじゃない!」
「でも、本当にそれだけですよ?」
「ううん、それがきっかけなのよ」
きっかけ?
友人が出来ただけで、そう劇的に変わるものでもないだろうに。
「友人がいるかいないかで、そう変わるものじゃないと思いますけど?」
「でもね、知らない他人になりきるって結構難しいのよ? 知っている事を自分の演技に断片的に当てはめることでそれが可能になるけど、それは自分の記憶を基に形成されていくものなの」
「それはそうですけど……」
「友人が出来た事で、対話に実体が生まれているの。今までの貴方に無かったものが、今の貴方にはある。貴方がもう一つ上の舞台に上がれるチャンスをくれた友人に感謝しないとね」
感謝、か。
言われてみればそうかもしれない。
初めて出来た友人。
自分が求めていた僅かな願い。
それを叶えてくれたあいつには一言くらい礼をしないといけない。
でも、面と向かって伝えるのは恥ずかしい。
素直に感謝すればきっと伝わるはずだと思うが、プライドが邪魔する。
この数年間、今しか出来ないことを捨て去り、努力を優先させてここまでの実力を手に入れた自負。
青春にうつつを抜かしただけで実力がつくのであれば、皆がそうするだろう。
そう易々と認められるものではない。
「まあ、機会があれば……」
「そんな事言って、結局しないんだから。所詮は他人なんだから、言わなきゃ伝わらないものもあるのよ?」
「分かってますよ」
「んー、分かってるならいいけど」
伊予さんは訝しげな表情をしていたが、時計を見るや否や、思い出したように声を上げた。
「あ、もうこんな時間! ほら、次の人が来ちゃうから急いで!」
「あ、はい」
伊予さんが受付に戻ると、私は一人取り残された。
一人になると、部屋から音が無くなった。
防音だから当たり前だろう。
でも、室内の静寂に対して、心の内はさざめいていた。
理由ならもう分かっている。
「言わないと、か……」
私は言われた言葉を反芻する。
確かにその通りだと思う。
二人で遊びに行ったあの日、私はそれに気づいた。
いくら自分が求めていても、それが伝わっているとは限らない。
この気持ちを察してもらう、それを求めるのはお門違いだろう。
「……今度言わないとなあ」
自尊心ほど、くだらないものはない。
別に、言って困るものではないだろう。
だったら、問題はない。
言える時に言っておいた方がいい。
荷造りを終えて、私は部屋を出た。
防音室から出ると、一気に環境音が耳に入ってくる。
時計の針が動く音、水槽の中に空気が送り込まれる音、テレビの音、どれも意思を持たない。
「そんな事ないですよ。私もまだまだですから」
でも、いつもと違う、明確に意思を持った音が一つだけ。
次に予約をしていた人が、もう来てしまったのだろうか。
受付で伊予さんと話をしている人物に視線を向ける。
「……え?」
目を疑った。
ここに居ないはずの人物が目の前に立っている。
「あ、みーちゃんもいたの?」
「そうそう。みなちゃんね、ここでいつも練習してるの」
「そうだったんですか。引き続き伊予さんが見てくれるのなら、私も安心です」
その人は、伊予さんと楽しそうに会話している。
いつも通りの日常、私だけの安息の地。
私だけの聖域が侵されようとしていた。
「お、お姉ちゃん……」
声を絞り出す。
自分でも情けないと思うほどに声が震えていた。
それを知ってか知らずか、話を止めてこちらに近づいてくる。
笑みを浮かべながら。
「近くを通ったから、挨拶に来たの。昔からお世話になってる人だしね」
「……」
「でも、最近は泊まり込みだったから本当に久しぶりね、みーちゃん」
嬉しそうに話を振ってくる。
でも、今の私はそのような感情を持ち合わせていない。
嫌悪感、それだけが宿る。
「……私、予定があるから」
話を切り上げて、私は出口に向かう。
元々話に興じるつもりはないのだから、当然だろう。
それに、午後は学校に課題を受け取りに行かなければならない。
高校側の配慮のお陰で、私は何とか留年しないで済んでいる。
課題を提出すれば、出席日数に特別に便宜を図ってくれるのだ。
事情は伝えている以上、最低限の事に取り組む義務がある。
傍に移動し、お姉ちゃんの隣を横切る。
「え、もう? まだ話したい事いっぱいあるのに……」
お姉ちゃんは名残惜しそうにしていたが、私には無関係だ。
躊躇う事なく、この場を離れる。
「……じゃあ、一つだけ言っておかないと」
ドアに手を置いて外に出ようとした瞬間、何か意味ありげな事を口にした。
……
一瞬、無視して行こうとしたが、出来なかった。
心の内が騒ついた。
「……何?」
扉を見つめながら、取り繕いながら、私は答える。
張り詰めた空気が、肌に突き刺すように痛い。
先程まで聞こえていた音は、何処かへ消えてしまったらしい。
何も聞こえない。
ただ、喉を枯らす。
「祐介くん、だっけ? 付き纏われてるんでしょ?」
「______え」
付き纏われている?
いや、そうじゃない、それじゃない。
耳を疑った。
あり得ない言葉が聞こえた。
「何で名前を……」
あいつの名前が聞こえてきた。
この人から発せられる事のないはずの名前。
……!
とてつもなく嫌な予感がした。
「それはどうでもいいことでしょう? もう解決したんだし」
「解決……?」
「そう、もう大丈夫よ」
「大丈夫って、何を……!」
もう分かっていた。
でも、もしかしたら違うかもしれない。
淡い期待を胸に秘めて、私は振り返った。
「あ……」
お姉ちゃんは満足そうな笑みを浮かべて立っている。
真っ直ぐに私を見つめて、立っていた。
「やっと目を合わせてくれた」
微笑んで私にそう告げるお姉ちゃん。
それを見た瞬間、希望は潰えてしまった。
「ね? これで集中できるでしょう?」
目を逸らしたい。
そんな思いを嘲笑うかのように、身体が強張る。
現実を直視しなければならない、その事実が頭を支配する。
何でいつもこうなるのだろう?
お姉ちゃんの周りは輝いている。
でも、私のそばには何も残らない。
誰も私を見てくれない。
残っているのは、自分が劣っているという事実。
「あ! ちょっと______!」
強張る身体を動かして、私は外に飛び出した。
追いかけられている気配はない。
それでも、逃げるように、あの場から少しでもあの場所から距離を取る。
「あっ!」
階段を踏み外す。
ヒヤリとするが、幸いにも地上に足を着くことが出来たので、怪我することはなかった。
「……」
完全に冷静さを欠いていた。
踏み外したおかげで、視界が狭くなっていた自分に気づくことが出来た。
後ろを見る。
やはり追いかけてくる気配はない。
深呼吸をして、息を整える。
「伊予さんに謝らないと……」
伊予さんは私たちの関係を深くは知らないはずだ。
昔のまま、今現在まで関係性が変わっていないと思っているのだろう。
でも、実際には違う。
あの時の自分と今の自分は別。
お姉ちゃんも同じ。
対等ではないのだ。
時計を見ると、約束の時間まであまり時間がなかった。
時間通りに行かないと、先生に迷惑をかけてしまう。
それに、授業を終えた生徒とすれ違う可能性も高くなってしまう。
……
正直、このまま家に帰りたい。
落ち着ける場所で休みたい。
ぐちゃぐちゃになった思いを抱えて、このまま人に会うのは怖い。
でも幸いにも、学校まで一時間半ほど時間が掛かる。
それまでに落ち着いて、すぐにもらって帰宅する。
それならば大丈夫だ、大丈夫。
朝に来た道を戻るようにして歩く。
足取りは重かったが、時間は待ってくれない。
なるべく上を見るように歩いたが、見慣れた景色に心が傾くことなく、次第に地面を眺めるようになってしまった。
それでも、前に進まなければならない。
道行く人の視線なんて気にならなかった。
どうでもいい、そう思ってしまう。
いつも通りの日常が終わりを告げていた。
「……ん」
無視してしまいたいが、理性がそれを許さなかった。
仕方なく身体を起こし、画面をタップする。
すると、再び静寂が訪れた。
「……」
部屋を見渡す。
カーテンの隙間から差し込む月光が、目の前に広がる空間を神秘的に演出していた。
余韻に浸っていたかったが、私にはやることがある。
立ち上がり、部屋の電気を点ける。
それを起点に、出発前の荷物確認を始める。
予め前日に用意しておいた着替えがカバンにあることを確認し、誰もいない部屋で一人頷く。
着替えを忘れて恥ずかしい思いをして以来、就寝前と起床後の二回確認するようにしてる。
デオドラントスプレーも常備するようになった。
それが終わると、ようやく自らの身だしなみを整える番だ。
扉を開けて、階段を下りる。
そのまま階下の洗面室に入り、鏡と睨めっこする。
「寝癖すごい……」
いつも使っている寝癖直しを取り出し、丁寧に端正していく。
幾分かマシになると、ヘアードライヤーを使用して是正する。
最後の仕上げにブラシで隈なく解いていく。
……大丈夫
肩まで伸びてしまった髪は、正直鬱陶しいと思った。
今みたいに時間がかかるし、運動していると、いちいちまとわりついて離れない。
近いうちに美容院に行く必要がある。
でも、今日はこのまま散髪に行くことは出来ない。
なので、小箱から取り出したヘアゴムで後ろを束ねる。
なるべくゴム跡がつかないようにゆったり目に。
次に前髪をヘアバンドで固定する。
そして、髪が当たらないように、貯めておいたお湯で洗顔をしていく。
優しく当てるように、これが基本だという。
忠実に守り、時間の許す限り、丁寧に化粧水をつけていく。
数種類あるものを順番通りに当てていき、鏡で確認する。
「よし」
起床時とは違い、顔色がよく見える。
きめ細やかな肌を余すことなく全面に押し出せている。
それを確認して、ようやく私の私による身だしなみチェックが終了するのだ。
洗面台を後にして、リビングに移る。
テレビ横に置かれた時計を見ると、時刻は五時を指していた。
いつも通りだ。
身体を反転させて、キッチンに向かう。
そして私は、朝食をとるために冷蔵庫を開けた。
昨晩の残り物がラップに包まれている。
それを取り出すと、電子レンジにセットして、開始ボタンを押した。
音が鳴り、光を発しながら、中央に置かれた目的物を温めていく。
機械が正常に働いている証拠だ。
それが終わる間に、私はテレビの電源をつける。
丁度ニュース番組が始まる時間だった。
アナウンサーが一礼を机に置かれた原稿を読み上げる。
「……」
早朝のニュースは、驚きもなく、感動もない。
ただ、自身と関係のない出来事が流れては消えていく。
だから、正直好きではない。
天気予報の確認が目的なのだから、甘んじて受け入れているだけ。
画面上に表示された太陽のマークを確認すると、電源を切ってキッチンに戻った。
温め終わった食事をテーブルに運び、席に着く。
食事は、前日の夕食と同じ、白菜と豚肉の焼きうどん。
味はどうでもいい。
とにかくお腹を満たせればそれでいいのだ。
大した量のないそれを食べ切ると、落ち着く間もなくすぐに席を立つ。
空になった皿をシンクに置き、リビングを出ると、そのまま階段を上って部屋に戻る。
クローゼットを開いて、着替えを済ませると、隅に置いておいた荷物を持ってすぐに部屋を出た。
スマホの画面を見ると、まだ十分しか経っていない。
階段を下りて、玄関で靴を履く。
そして、扉を開けて、誰もいない家の鍵を閉める。
ここまでが早朝のルーティンだ。
「……今日もいつも通り」
振り返り、空を見上げると、まだ薄っすらと月が見える。
何処からか鳥のさえずりが聞こえ、もうすぐ日の光を浴びる時間なのだと分かる。
柵を開けて路面に立つと、右からジョギング中の中年男性がこちらに向かってきていた。
少し身構えてしまったが、イヤホンをして音楽に夢中だったのか、こちらを見ることなくすれ違っていった。
「……」
滅多にこんなことはないので、朝から動揺してしまった。
眼鏡もしていたし、あちらも気付いている様子はなかった。
少し落ち着いて、冷静に分析する。
そもそも、私のような新人声優を知っている人は少ない。
何万といる同業人の中の一人。
砂場の砂を一つずつ数えるに等しい作業、誰が好んでやるだろうか。
……ううん、違う
だからこそ、私は上に行きたい。
誰の目にも止まるような、みんなに認められる声優になりたい。
それこそ、あの人のような……
「あ、やば」
電車の時間に間に合わなくなる。
私は遠くなる人影に背を向けて、一人歩き出す。
自転車の方が早く着くが、髪が崩れてしまうので好きではない。
歩いて行った方が、まだ寝ぼけている身体を覚ますことが出来る。
それに、日が昇る直前、町が呼吸を始める瞬間を目の当たりにしながら一人闊歩する、その瞬間が好きだ。
まるで自分が主役になっている気分になる。
一日の始まりを噛み締めるように、私は歩いた。
いつも乗っている電車に乗車することが出来た。
普段は五分前にホームに立つことが出来るように余裕を持って行動していたが、今日は少し危なかった。
それでも、ホームに降り立つと同時に電車が入っていたので、些か問題ではない。
そのまま乗車して今に至る。
「……?」
後ろから話し声が聞こえる。
ちらっと横目で見やると、私と同じような年齢だろうか、複数人の男女が朝から盛り上がっていた。
キャラクターのイメージを汲み取ったカチューシャを身につけ、肩からポップコーンを入れるカゴを掛けている。
始発に乗っていると、たまにこういうグループを見かける。
始発で向かっても行列の後方に滑り込める程の距離。
スーツを着ている人が多い中、私服で上り線を乗車する人たちは、たいていこういう人達だ。
私のように、遊びと違う目的で都内に向かう人はいないだろう。
停車するたびに人混みが増しているが、増えていくのは仕事場に向かう人だけだ。
私服を着て目的地に向かう私は異端だと分かる。
でも、それを気にするほど私は余裕がない。
これから始まるレッスンに向けて、脳内で予行演習をする。
電車内の待機時間を無駄にするわけにはいかないのだ。
ーーー
目的の駅に着き、私はホームへ降り立つ。
電子板に表示された数字を確認すると、時刻は七時を示していた。
この時間帯は通勤ラッシュなので、次から次へと電車が駅に入ってくる。
ここにいても邪魔になるので、流れに乗ってエスカレーターに乗る。
続けて改札を通ると、そこで流れから外れる。
群衆が右手のビジネス街に姿を消していく。
それを見送ると、私は反対口に向かう。
駅から一時間弱歩き続ける。
繁華街を抜けて、段々と建物が低くなっていく。
その過程を経て、私はある建物の中に入る。
階段を登って四階のフロアに移動すると、左手に扉が聳え立っている。
私は臆する事なく扉を押して開けた。
開けると同時にベルが高らかに鳴る。
すると、呼応するように受付の奥から人が出て来た。
「あ、みなちゃん! 時間通りだよ!」
「おはようございます、伊予さん」
元気いっぱいにハキハキと声を出して、私を出迎えてくれた。
それに吊られて、私も声を出す。
「うん、朝からしっかり声が出てるね!」
さりげなくボイスチェックも行われる。
伊予さんは私が声優を志してからずっと教えを受けているボイス講師だ。
始め、右左の分からなかった私に、声の出し方、鍛え方、そして体の使い方をレクチャーしてくれた。
そのお陰で、今やっと努力が芽吹こうとしているのだから、この人には頭が上がらない。
「じゃあ、奥の部屋で待っててね!」
受付の裏に回って、道具を準備しながら次の指示を出す伊予さん。
それに従って、私は奥に進む。
部屋の扉を開けて中に入ると、暖色のライトで照らされた内装が目に入る。
電子ピアノやギター、アフレコ用のマイクが置かれている。
普段は音楽のレコーディング用に貸し切る事が出来るスタジオだが、それは午後から夜にかけてである。
営業時間外である午前中に限って、私が無理を言って週に何回か貸し切り状態にしてもらっている。
誰の邪魔も入らずに、信頼出来る師との対面練習が出来る素晴らしい環境。
今後、同じようなスタジオを探すように言われたら、私は絶対に見つかりっこないと断言出来る。
「お待たせー。時間も勿体無いから、もう始めよっか!」
少し時間を置いて、伊予さんが入って来た。
「はい、お願いします」
貴重な時間を無碍にしたくない。
私は荷物を置いて、準備をする。
先週渡されていた資料を手に取って、マイクの前に立つ。
電源を入れて、レコーディングの準備をする。
本番を想定した、実践的なレッスン。
これが、私の一日だ。
ーーー
資料に載っている文章に、感情を込めて言葉を発する。
対話式に話が進んでいる小説の一部を抜き取ったもので、伊予さんと私で声を当てていく。
全てを読み終えると、レコーディングしていたボタンを押して、録音を終了する。
終了後、録音した音声を再生して、客観的に分析する。
そして、疑問に思ったり、気になる部分があると、伊予さんが私に質問をする。
演技をする上で意識したことや意味を持って行ったことを答えていき、改善点があればアドバイスをくれる。
それを基に、再びレコーディングをして、評論会を開く。
これを繰り返していくのが、伊予さん式のレッスンだ。
「ここのシーンは他のシーンに比べて、少し内面を見せるように演技してみると良いよ。 一割増で前屈みになってやってみようか」
「マイクに近づく感じですか?」
「そうそう。より細かい機微を伝えるには、些細な息遣いが良いアクセントになるからね」
ベテランということをあって、具体的で説得力のあるアドバイスをしてくれる。
それを基に再びレコーディングをする。
終了後に、録音した自分の声を聴く。
すると、先程よりも内側に秘めた感情が剥き出しになっているように感じられた。
「いい感じ……」
自分の演技がより洗練されていくのを目の当たりにする。
まだまだ自分が未熟なのだと実感する。
でも、それが分かったからといって落ち込んでいられるほど驕っていない。
駆け出しの私が上に行くために、一つ一つを研いでいく。
「元々気持ちが乗ってたからね。簡単なアドバイスで済んで、こちらも楽だったよ」
伊予さんは笑いながら言う。
「以前までは基本に忠実だったけど、最近はそこから自分を出せるようになってる。客観的に見ている私が言うんだから間違いないよ」
「……ありがとうございます」
珍しくべた褒めされて、当たり障りの無い返事をしてしまった。
普段から厳しいわけでは無いが、明確に称賛するのは数えるほどであった。
「演技に迷いが無かったし、自信持って出来てたからね。個人練習でもしてたのかな?」
「腹筋とか体幹は鍛えてますけど……」
「確かに基礎トレーニングは要だけど、そうじゃ無くって……」
「?」
伊予さんがニヤニヤしながら、近づいてくる。
いつもと違い、こちらをまじまじと見つめてくる。
自らの顔を引き、伊予さんと距離を取るが、あまり意味は無かった。
「手探りだった演技に深みが増してる。自分でも気づいてる?」
「え……」
ここ最近の出来事を思い浮かべる。
以前と変わらずレッスンを受け、学校の課題に取り組み、基礎トレーニングを行う。
大した変化は起こっていないはずだ。
……
いや、以前と変わった事があった。
「……友人が出来ました」
「あら! 良かったじゃない!」
「でも、本当にそれだけですよ?」
「ううん、それがきっかけなのよ」
きっかけ?
友人が出来ただけで、そう劇的に変わるものでもないだろうに。
「友人がいるかいないかで、そう変わるものじゃないと思いますけど?」
「でもね、知らない他人になりきるって結構難しいのよ? 知っている事を自分の演技に断片的に当てはめることでそれが可能になるけど、それは自分の記憶を基に形成されていくものなの」
「それはそうですけど……」
「友人が出来た事で、対話に実体が生まれているの。今までの貴方に無かったものが、今の貴方にはある。貴方がもう一つ上の舞台に上がれるチャンスをくれた友人に感謝しないとね」
感謝、か。
言われてみればそうかもしれない。
初めて出来た友人。
自分が求めていた僅かな願い。
それを叶えてくれたあいつには一言くらい礼をしないといけない。
でも、面と向かって伝えるのは恥ずかしい。
素直に感謝すればきっと伝わるはずだと思うが、プライドが邪魔する。
この数年間、今しか出来ないことを捨て去り、努力を優先させてここまでの実力を手に入れた自負。
青春にうつつを抜かしただけで実力がつくのであれば、皆がそうするだろう。
そう易々と認められるものではない。
「まあ、機会があれば……」
「そんな事言って、結局しないんだから。所詮は他人なんだから、言わなきゃ伝わらないものもあるのよ?」
「分かってますよ」
「んー、分かってるならいいけど」
伊予さんは訝しげな表情をしていたが、時計を見るや否や、思い出したように声を上げた。
「あ、もうこんな時間! ほら、次の人が来ちゃうから急いで!」
「あ、はい」
伊予さんが受付に戻ると、私は一人取り残された。
一人になると、部屋から音が無くなった。
防音だから当たり前だろう。
でも、室内の静寂に対して、心の内はさざめいていた。
理由ならもう分かっている。
「言わないと、か……」
私は言われた言葉を反芻する。
確かにその通りだと思う。
二人で遊びに行ったあの日、私はそれに気づいた。
いくら自分が求めていても、それが伝わっているとは限らない。
この気持ちを察してもらう、それを求めるのはお門違いだろう。
「……今度言わないとなあ」
自尊心ほど、くだらないものはない。
別に、言って困るものではないだろう。
だったら、問題はない。
言える時に言っておいた方がいい。
荷造りを終えて、私は部屋を出た。
防音室から出ると、一気に環境音が耳に入ってくる。
時計の針が動く音、水槽の中に空気が送り込まれる音、テレビの音、どれも意思を持たない。
「そんな事ないですよ。私もまだまだですから」
でも、いつもと違う、明確に意思を持った音が一つだけ。
次に予約をしていた人が、もう来てしまったのだろうか。
受付で伊予さんと話をしている人物に視線を向ける。
「……え?」
目を疑った。
ここに居ないはずの人物が目の前に立っている。
「あ、みーちゃんもいたの?」
「そうそう。みなちゃんね、ここでいつも練習してるの」
「そうだったんですか。引き続き伊予さんが見てくれるのなら、私も安心です」
その人は、伊予さんと楽しそうに会話している。
いつも通りの日常、私だけの安息の地。
私だけの聖域が侵されようとしていた。
「お、お姉ちゃん……」
声を絞り出す。
自分でも情けないと思うほどに声が震えていた。
それを知ってか知らずか、話を止めてこちらに近づいてくる。
笑みを浮かべながら。
「近くを通ったから、挨拶に来たの。昔からお世話になってる人だしね」
「……」
「でも、最近は泊まり込みだったから本当に久しぶりね、みーちゃん」
嬉しそうに話を振ってくる。
でも、今の私はそのような感情を持ち合わせていない。
嫌悪感、それだけが宿る。
「……私、予定があるから」
話を切り上げて、私は出口に向かう。
元々話に興じるつもりはないのだから、当然だろう。
それに、午後は学校に課題を受け取りに行かなければならない。
高校側の配慮のお陰で、私は何とか留年しないで済んでいる。
課題を提出すれば、出席日数に特別に便宜を図ってくれるのだ。
事情は伝えている以上、最低限の事に取り組む義務がある。
傍に移動し、お姉ちゃんの隣を横切る。
「え、もう? まだ話したい事いっぱいあるのに……」
お姉ちゃんは名残惜しそうにしていたが、私には無関係だ。
躊躇う事なく、この場を離れる。
「……じゃあ、一つだけ言っておかないと」
ドアに手を置いて外に出ようとした瞬間、何か意味ありげな事を口にした。
……
一瞬、無視して行こうとしたが、出来なかった。
心の内が騒ついた。
「……何?」
扉を見つめながら、取り繕いながら、私は答える。
張り詰めた空気が、肌に突き刺すように痛い。
先程まで聞こえていた音は、何処かへ消えてしまったらしい。
何も聞こえない。
ただ、喉を枯らす。
「祐介くん、だっけ? 付き纏われてるんでしょ?」
「______え」
付き纏われている?
いや、そうじゃない、それじゃない。
耳を疑った。
あり得ない言葉が聞こえた。
「何で名前を……」
あいつの名前が聞こえてきた。
この人から発せられる事のないはずの名前。
……!
とてつもなく嫌な予感がした。
「それはどうでもいいことでしょう? もう解決したんだし」
「解決……?」
「そう、もう大丈夫よ」
「大丈夫って、何を……!」
もう分かっていた。
でも、もしかしたら違うかもしれない。
淡い期待を胸に秘めて、私は振り返った。
「あ……」
お姉ちゃんは満足そうな笑みを浮かべて立っている。
真っ直ぐに私を見つめて、立っていた。
「やっと目を合わせてくれた」
微笑んで私にそう告げるお姉ちゃん。
それを見た瞬間、希望は潰えてしまった。
「ね? これで集中できるでしょう?」
目を逸らしたい。
そんな思いを嘲笑うかのように、身体が強張る。
現実を直視しなければならない、その事実が頭を支配する。
何でいつもこうなるのだろう?
お姉ちゃんの周りは輝いている。
でも、私のそばには何も残らない。
誰も私を見てくれない。
残っているのは、自分が劣っているという事実。
「あ! ちょっと______!」
強張る身体を動かして、私は外に飛び出した。
追いかけられている気配はない。
それでも、逃げるように、あの場から少しでもあの場所から距離を取る。
「あっ!」
階段を踏み外す。
ヒヤリとするが、幸いにも地上に足を着くことが出来たので、怪我することはなかった。
「……」
完全に冷静さを欠いていた。
踏み外したおかげで、視界が狭くなっていた自分に気づくことが出来た。
後ろを見る。
やはり追いかけてくる気配はない。
深呼吸をして、息を整える。
「伊予さんに謝らないと……」
伊予さんは私たちの関係を深くは知らないはずだ。
昔のまま、今現在まで関係性が変わっていないと思っているのだろう。
でも、実際には違う。
あの時の自分と今の自分は別。
お姉ちゃんも同じ。
対等ではないのだ。
時計を見ると、約束の時間まであまり時間がなかった。
時間通りに行かないと、先生に迷惑をかけてしまう。
それに、授業を終えた生徒とすれ違う可能性も高くなってしまう。
……
正直、このまま家に帰りたい。
落ち着ける場所で休みたい。
ぐちゃぐちゃになった思いを抱えて、このまま人に会うのは怖い。
でも幸いにも、学校まで一時間半ほど時間が掛かる。
それまでに落ち着いて、すぐにもらって帰宅する。
それならば大丈夫だ、大丈夫。
朝に来た道を戻るようにして歩く。
足取りは重かったが、時間は待ってくれない。
なるべく上を見るように歩いたが、見慣れた景色に心が傾くことなく、次第に地面を眺めるようになってしまった。
それでも、前に進まなければならない。
道行く人の視線なんて気にならなかった。
どうでもいい、そう思ってしまう。
いつも通りの日常が終わりを告げていた。
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