彼にとって、世界を救うより大切なこと(神城結友の場合)

パンPキン

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「うわぁああああああああァァァッ!!」

 痛みの支配から逃れたくて、結友は全力で叫んだ。それしかやれることがなかった。外から結友を押さえつけようとする力を感じる。その事実が恐ろしくて堪らない。全力で抗う。腕を振り回し、足を跳ね上げ、体を激しくよじり、頭を振り動かす!

 ーーぱんッ!

 左頬に、鋭い衝撃。強烈な熱がほとばしる。首が右に振れて、熱がジワジワと痛みになった。
 ……そう、痛かった。全身を襲っていた痛苦の嵐は、錯覚であった。本当の痛みが、禅の警策けいさくのように、自分を思い出させてくれた。ちょっと腫れてきているけども。ちとばかし、力を込め過ぎではなかろうか。

「……………どこだ? ここ。つか、何?」

 しばし放心していた結友は、ようやく自身がベッドの上で寝かされていたと気づいた。見慣れない木造の大部屋だ。病院などではない。ログハウスに近い造りである。大部屋には同じベッドがいくつも並んでいた。寝ている人が多数いる。その傍らには、現代では絶対に見ない騎士鎧が転がっていた。紅く汚れている。ベッドに横たわる彼らは、皆、怪我人のようだ。並ぶベッドの間を衛生兵と思しき人たちが救護道具を持って慌ただしく行き来している。皆、一様に強い疲労が顔色に現れていた。まるで、中世時代の看護室のような景観だ。

(俺、何してたんだっけ? なんで映画のセットの中で寝てたの? そんなバイトした覚えはないぞ? てか、頬痛い……)

 自分が置かれた状況が呑み込めず、ベッドから体を起こしたまま、混乱する結友。そこにーー。

「お礼は?」

 淡々と、まるで氷冷な雪解け水を彷彿とさせる、透明度の高い声が耳に届いた。
 今までとは反対方向に首を向ける。そこには長い黒髪の淡麗な少女が結友のベッドサイドに座っていた。
 切れ長の目元は冷ややかに感じるが、つい見惚れるほど流麗で、少女が持つ淡麗な美貌を際立たせている。鼻梁が高く、顎は小さい。小顔だ。見れば見るほど透き通るようにキレイな顔立ちである。整い過ぎて、冷たくて近寄り難い印象さえ与えてしまっていた。
 そんな淡麗美人な少女が、右手を振り抜いた姿勢で、こちらを冷然と見ている。

「………お礼は?」

 氷の乙女は圧を強めて、再び問うた。

「あ、ありがとう……?」

 何のことか分からないながらも、目をぱちくりとさせて、素直に礼を述べる結友。根っこが善良なのだ。

「ございました、は?」
「ございました……」

 結友の顔を見れば、彼が理解していないなど一目瞭然だろうに、氷の乙女はそれだけ聞き届けると、長い黒髪を翻し、颯爽と立ち去ってしまった。結友は遠ざかる細い後姿に首を傾げる。

(誰だったんだ? 背中に翼があるけど、俺、A.W.sで寝落ちしたのか? それで全ロスしそうになったとこを助けられたとか? でもそんな記憶、ないんだよなあ。俺、何してたんだっけ? 今、何日の何時頃だ? ……あれ? メニューが表示されない……)

 A.W.sではゲーム内で視線で左上、右上、左下、右下と動かすと、メニューが表示される仕組みだ。それを実行したのに、メニューが表示されない。まれに速く動かしすぎて、メニュー表示されないケースもある。もう一度、ゆっくりとやってみたが、結果は変わらなかった。
 おかしいぞ、と思いつつも、ジンジンと頬が痛み出して顔をしかめる。今になって、氷の乙女にビンタされたことに気付いた。なぜ?

「ぶぐふっ! もうッ……限界! ぶっわはははははは! いーひひひひ!」

 左隣のベッドから遠慮のない大笑いが爆発した。鼓膜を貫通し、痛い。思わず左耳を押さえて仰け反る。

「ぐひひひ! いや、ああ、これは失敬、失敬。君を笑ったわけじゃあ……なくもないか。いやあ、でもサ? あのCOOLなユノ君にあんな一面があるなんてサ、誰が思うというかネ? これは意外や意外。これを知った隊員たちにまた隠れファンができてしまうヨ。そしてそんな一面を引き出したのだから、嫉妬されるだろうねちみィ~」

 突然、涙を浮かべて大笑いした隣人は、ベッドから身を起こすと一方的に喋り始めた。内容はほぼ理解できない。しかも何やらヤケにフレンドリーだ。もちろん初対面である。「ニクイ奴め!」とウィンクされてもチッとも嬉しかない。ほんと誰だろこの人は。

 イタズラ小僧のように笑っている隣人は、白亜の軍服を着用した30代ほどの男性だった。身なりが良いので、おそらく高官だろう。ダークブラウンの髪はクセ毛で、パーマをかけたみたいになっている。天然だろう。左目にかけたモノクルの影響か、髭もキチンと剃られているので、清潔で知性的な印象を受けた。ただ知的に過ぎず、どことなく抜けている雰囲気もあり、とっつきやすい。自然とこちらも肩の力が抜けてしまう。彼の笑顔も人が良さそうで、どうにも憎めない。他人の懐に入るのが早そうだ。要は人たらしの才能があるだろう。この人は油断できないかもしれない。

 隣人がベッドから降りて立ち上がる。思ったより背丈があった。180はあろう。そして、これまたゴツい手を差し出してくる。握手かと思って結友も差し出したら、急に隣人の手に2枚のビスケットが現れた。A.W.sでもありふれたスキルだが、実際に使えるとなると、現実でもできる可能性が高い。結友が貴重な手品スキルに目を丸くしていると、腹の虫が鳴った。

 余談になるが、フルダイブすると空腹・口渇感を感じにくい。そこで<ウィズ>では脳波で体の空腹を検知すると、健康面への配慮から、腹の音を鳴らしてユーザーにお知らせをしている。自分にしか聞こえない設定にもできた。結友もそう設定したはずだったが……。
 
「急に笑ってすまなかったネ。体はどこも痛くないかイ? あぁ、右頬は除いてネ?」
「あ、それは、はい」
「それは良かった。はい、これは挨拶代わりのお詫びだヨ。空腹はこころにだって良くないからネ。何事もネガティヴに捉えてしまう。ホントはそんなことないのにネ」
「ありがとう……ございます。頂きます」
「わっはっはっは! そうビクビクしなくても大丈夫サ! ボクは寛大だからネ! 敬語をつけないくらいで圧をかけるほど物騒じゃないサ! 安心してくれたまえ!」
「は、はぁ……(さっきのキレイな黒髪のと仲がいいのかな? 不思議な人だ。嫌味に感じない)」

 ビスケットを頬張る。A.W.sでは多少、空腹感が紛れる仕様だ。本当に血糖値が上がったりはしない。だがリアルな作りで、口の中がパサパサになった。モノクル天然パーマが、水筒を差し出してくれる。ありがたく頂戴した。

「ボクはカロン・ウィードニスだ。見ての通り、軍属だヨ。一応、この船を預かっている。偉いんだボクは。あぁ、ソウソウ、ここは船の救護室だ。軍艦ね。フフン、畏まってくれていいんだゼ? ボクのおかげではベッドの上で休めているのだからネ。偉いんだボクは。ここ、重要だから2回言ったヨ? でもだからこそ、気苦労が絶えないんだァ。聞くも涙、語るも涙でネぇ……」
(またなんか一方的に喋りだしたな……軍属で艦長なんだよな? そら偉い人だと思うけど………ヒマなのか?)

 水で一息つけたところで、自己紹介を受けた。気苦労が耐えないエピソードをこまかく伝えてくれるが、なぜだろう、全く同情できそうにない。のらりくらりと厄介事から逃れるのが得意そうな気配を感じる。なんとなく、さっきの氷の黒髪乙女のほうが、はるかに気苦労が多そうに思えた。主に、この天然モノクロパーマーーカロン艦長のせいで。

「ーーと言うことなんだ! 分かるかい? ボクはネ、色々と忙しいんだヨ! 愛猫のミィちゃんに最高級の牛乳を手に入れる必要もあってだネ、事務仕事などしている場合じゃないんだヨ! それからそれからーー」
「俺ーー私は神城結友です。カロンさん、ごめんなさい、あの、ここってどこのサーバーです? お恥ずかしながら、寝落ちしちゃったみたいで、なんでか寝る前の記憶もなくて……」
「ん? ああ、そうか、そうだよネ。なるほどなるほど。ヨシ、ちょっと状況を説明しよう。なかなかに刺激的だ。驚かないでくれたまえヨ?」

 熱い自分語りを止めたカロンが、モノクルをかけ直し、手近にあった椅子を引き寄せて座った。軍人らしく、背筋が伸びていた。

「まずは、そうだね……ちょっとした確認なんだけど、君は日本人だね? それも海都の」

 開口一番、声量を落として、カロンはそう尋ねてきた。
 正直に言って「何を当たり前のことを」と結友は思った。A.W.sは世界でも代表的なフルダイブ型のゲームであるが、それを可能にしているのが、仮想電子世界<ウィズ>と次世代型情報端末機CUBEといった最先端技術である。人工島においてのみ、という条件付きで、様々な制約が取り払われた技術開発は、日本国内だけを見ても、海都と本土とでは隔世の感がある。本土から見れば近未来予想図だ。このゲーム内にプレイヤーとして存在している時点で、海都在住は確定である。

「いいかい? 君は勘違いをしている。これはゲームじゃない。A.W.sではないんだ。ましてや夢でもない。端的に言えば、異世界さ」

 三十路すぎの男の口から、大真面目な雰囲気で〝ここは異世界だ〟と聞かされると、咄嗟にどんな顔をしてイイのか分からない。返答に窮していると、

「ウン、そう可哀想なモノを見る目をしないでくれたまえ。ボクだって人間だ。とっても繊細な傷つく心がんだヨ? ユノ君なんて『胡散臭いのを自覚しろ』って冷たい目でみてくるんだ。ソレが良いって言う部下もいるけど、若いのに業が深すぎると思うんだボクは。どう思う?」

 カロン艦長はやれやれと困った顔でかぶりを振るが、どことなく芝居がかって見えた。やはり胡散臭い。

「おっと、話が脱線したね。ま、目が覚めたら海に浮かぶ戦艦の一室で、知らない大人から『君は異世界に来た』と言われても、いくらその人がダンディーでカッコいいからとて、信じられるものではないネ。だからここで言葉を尽くしはしないサ。百聞は一見に如かず。イヤでも君の……神城君の五感と魂はこの異世界を現実だと告げてくるだろう……現実ほど目を背けられないモノはないからね」

 ひょうひょうと、まるで世間話をするくらいの軽さで話していた艦長だが、最後のところから、少し前かがみになり、太ももの上で手を組んで、声のトーンを落とす。忙しない空間で、ふたりの会話など一向に見向きもされない状況においてなお、万一にも聞かれてはならないように……。

「ただね、注意してもらいたいことがある。今の君の境遇サ。この戦艦での立場と言っても良い。神城君。君は今、魔物に襲われた島村とうそんの生き残りとして保護されている。ユノ君がね、見つけてくれたんだ。君たちは村の近くの浜辺に倒れていたんだよ。ホントはなぜそこにいたのか事情聴取しなくちゃいけないところだけど、事情があってね。あと、こちらにもそこまでの余裕がないのサ。というのも、ボクたちはこちらの世界の、とある国の軍属になっていてね。王の命で島に救援に駆けつけたんだ……いや、つもりだった、かナ? 間に合わなかったンだ。聞いてたよりも状況が悪かった。魔物……いや、アレは魔獣クラスだナ。ともかく相手も想定より遥かに脅威だっンた。我々だけではどうしようもなくてネ。援軍で到着したときにはすでに村は壊滅状態。かろうじて生き残った村人を保護して、少なくない損害を出しつつ撤退している最中だ。食料なんかも乏しくてネ……分かるかい? 要は、みんな気が立っている。精神的に追い詰められている者もいる。最初は信じられなくていい。けれど、どうかココは現実だと仮定しておいてくれたまえ。いくら艦長のボクでも、場合によっては君を庇えないかもしれない。ボクとユノ君の他は、みんな異世界こっちに生きる人たちなんだ。ゲームのNPCと思って接しないでほしい。これは君の安全のためにも言っているンだ。分かってくれるね? ……それにしても皮肉だネ。このヒドイ状況が、コレは現実だと君に強く教えてくれるだろう」

 カロンの茶色い瞳は真摯だった。いま気付いたが、目元にクマがある。声音にも人を想う切実さが聞き取れた。
 それでも、結友には信じられない。ここは異世界だと言われて、「はい、そうですか」と真に受ける人がいるだろうか。

(けど……他のベッドに寝てる人たちの雰囲気とか息遣いとか、衛生兵の顔色とか、いくらA.W.sでも真に迫りすぎているようにも……)

 カロン艦長は今すぐに信じられなくてもイイと言ってくれた。ただ、現実だと仮定しておいて欲しいとだけ。
 確かに、万一だ。億が一にも、これが現実だったとしたら、ゲーム感覚でいるのはよろしくない。トラブルになるし、心情的にも後悔するだろう。艦長の言葉は胸に留めておくべきだ。

「さて、大事な話はこれくらいかナ? ボクってサ、あんまり真面目な話ばかりしていると蕁麻疹が出ちゃうんだヨ。暗い話もキライだネ。と、言うことで。艦内を自由に見て回るといいヨ」

 話はこれでお終い、とカロン艦長は椅子から立ち上がった。だが「あ、そうそう」と話を付け加える。彼の視線は結友の衣服に向けられている。自分でも確認してみると、入院患者の病院服みたいなヤツで、それも汗でびっしょりと湿っていた。ちょっと着替えたいかも。

「神城くん。君の服は現世のモノだった。それは異世界にあってはならない技術や文化が詰まっている。だから処分しちゃったヨ。それから君はひどくうなされていた。よほど悪い夢でも見ていたのだろうネぇ……覚えているかい? 君、さっきベッドの上で錯乱して暴れたんだゼ? ユノ君が取り押さえてビンタしたのはそういう経緯いきさつがあるから、許してやってほしい……まぁ、それにしては鋭いスイングだったと思うけど。ウン、思い出したらまた笑えてきたゾ? ぶふッ!」
「……そう、だったんですか。すみません」

 薄ぼんやりとだが、覚えがあった。痛いほどの冷たさと苦しさに発狂しそうになっていた……気がする。少なくとも、正気に戻れたのは、氷の黒髪乙女の強烈ビンタのおかげだった。右頬に触れると熱くて痛みを感じる。さっきより腫れてきている気がした。正直、メッチャ痛かった。

「さ・て・と。替えの服くらいなら用意できるだろうけどーーあ、アレもあったナ」

 カロン艦長は思案げに顎に手を添え、虚空を見上げるも、すぐにニヤリ。明らかに、はた迷惑な思いつきが浮かんだ顔である。ちょっと待っててネ。そう言うなり救護室から足早に出ていったが、ものの数分にしないうちに戻ってきた、ニヤけた顔を隠そうともしていない。周囲の騎士たちは「まぁた何か企んでる」「我関せず」「こんな状況だ。面倒事だけは起こすなよ?」と遠巻きに表情で物語っていた。

 ーーカロン艦長、普段からどんな行いをしたら、部下からここまで諦めの目を向けられると言うんだ。

 そんな結友の慄然とした驚嘆などに気づく素振りもなく……いや、気づいていても無視できる太い精神をお持ちなのかもしれないが、モノクル天然パーマの艦長は白亜の外套を持ってきた。金銀などの装飾も多く、胸ポケットのあたりには勲章らしきモノがあって、軍人が式典などで使う礼服にしか見えない。背中には蒼十字アルバクロスがデカデカと描かれている。白亜のベレー帽もセットだ。厳しさを軸としつつも華やかさと洒脱を忘れない逸品である。モチロン、外套と帽子だけでなく、替えのインナーとなるシャツや下着も、ついでに用意してくれていた。

「じゃーん! ボクの提督服を貸してあげよう! なぁに、気にしないでくれたまえ! タンスの肥やしになっているモノだ! 虫食いなどにはなっていない……ハズ!」
「いや、さすがにコレは受け取れませんって。礼服じゃないですか。私が着ると色々とマズイのでは? 勲章も付いているし」
「だぁいじょうブだいじょうブ! 気にしなーい気にしなーい♪ 非常時だしネ! それに、この船の上にボク以上に偉い人はいないんだゾぉ。ただ、帽子こっちのほうは、できるだけかぶっておきたまえ」

 絶対にそうしてはいけないだろうに、だからこそ、そうするんだ! とでも言いたげなイタズラ小僧の顔で、立派な提督服を押し付けてくる。心底、楽しげな顔に「あんたがそうしたいだけだろう!」と喉元まで出かかったが、それより先に、ちょっと真面目な雰囲気になって、艦長が小声で忠告をくれる。なんで帽子に注意しなければいけないのか、その理由を。

「もう気づいているかもしれないけド、この異世界<アルマーン>は、所謂いわゆる獣人の世界でネ。ケモミミが必須だ。人族もいないこともないけど、かなり稀だネ。変な騒ぎに巻き込まれないよう帽子はかぶっておいたほうがいい……え? ボクの最推しのケモミミかい? いい質問だねェ~。ケモミミは全て尊くて1番など決められないけド、やっぱり原初にして王道のネコ耳ですなァ~」

 一言も聞いていないのに、モノクルをキランと輝かせて、カロンが熱っぽく語りだす。忙しくないのだろうか、この艦長……。いや、色々と助かるんだけどね?

「ちなみにボクは熊の獣人サ。カワイイ?」
「………日本人、なんですよね?」
「さらっと無視するなんてやるね? まぁ、その点の話は機密事項で禁則事項で放送禁止用語ってヤツさ。まぁ、触りだけ言うと、ボクたちは〝現世のままの実体〟じゃないんだヨ。でも中身は君と同じ、海都在住の日本人サ」

 信じがたいことを言っているが、ウソを付いているようには感じない。逆に全て本当のことを言っているとも、なぜか思えない。カロンの口から語られると、若干、胡散臭い。この若干というところが、彼らしいのかもしれなかった。喋り方も変だし。

「おいおい、本当だヨ! 語尾のアクセントは大人の事情サ! これも聞くも涙、語るも涙ってヤツでネ? ……って、いけない、いけない。コレ以上はユノ君にどやされてしまうナ」

 とりとめのない話を延々と聞かされそうになる手前で、艦長は自制を利かせた。懐から白亜と蒼のオシャレな懐中時計を取り出し、時刻を確認する。午前中のようだった。

「ではネ、ボクはそろそろ失礼するヨ。何か聞いておきたいことはあるかナ?」
「えっと、私はこの後どうしたら……」
「あ、そうか。話し忘れていたネ。メンゴメンゴ。ボクとユノ君はね、一応、立場的に国民を保護する権利と義務がある。ぶっちゃけ、宮仕えの人間だヨ。だから、君のことはこのままお家までお届けしようと思ってる。ちょっと時間はかかるかもしれないケド、まぁ、命あるだけマシだと思ってサ。あ、素直に助けたいって言うのもホントだよ? ウソじゃないよ? ……あの、マジでホントだからね?」
「分かってますよ。ありがとうございます」

 今までカロンが語った内容の真偽は不明のままだ。信じがたい点も多々あった。例えば、艦長が言うには、彼と氷の黒髪乙女は日本の公権力に属した身分だそうだ。つまりは、警察、自衛隊、公安などであろう。となると、日本の公権力が異世界に関与している、ということだ。ホントにそんなことあり得るか? そして氷の黒髪乙女だ。彼女の美貌は大人びてはいたが、同世代に見えた。こちらは有り得ないだろう。
 
 しかし、彼らが結友を騙したところで何を得するわけでもない。ウソをつく理由がなかった。少なくとも結友には分からない。ただ、カロンが先程の会話の中でと言ったのも気にかかる。ただ、ちょっと話しただけだが、艦長は昼行灯を装っているのではないか、と結友は勘ぐっていた。もしそうなら、というのも、ブラフの可能性がある。
 しかしそれも、結友を騙したり困惑させたりすることで、彼に何か利益がある場合の話。結友は特に何ら秘密めいた背景はないのだからブラフを仕掛ける意味もない。結友はちょっと他人よりエッチなだけである。

(結局、艦長の言うことを聞いて置くしかないか。別に何か不利益があるわけでもなさそうだし。ホントはゲームで、大掛かりなドッキリでも、笑えば良いだけだし)
「ところで、君って高校生だよね? ずいぶんと落ち着いているじゃないか」

 ベッドの上で今後の身の振り方を思案していると、艦長が微笑んで聞いてきた。多少、今までと異なる雰囲気を察し、緊張する。
 だが、特に何もやましいことのない結友は素直に答えた。左頬をさすりながら。

「……ビンタのおかげかと」
「ぶぅわッはははははッ!」

 カロン艦長は噴いて、大笑いした。

「あはははは! なるほどネ! そいつぁイイ答えだヨ! それもCOOL系美少女の一撃となれば効果もバツグンだ! イヒヒヒ! やっぱ面白いねぇ、ちみィ~」

 結友としては面白いことを言ったつもりはなかったが、カロンのツボに入ったらしい。
 
「イヒヒ……はぁ、はぁ。あ~、笑った笑った。お腹が痛くなるほど笑ったのは久しぶりだヨ。ありがとう。気が晴れた。じゃあね。あー、艦内を見て回るとイイって伝えたけど、別にこのままここでゆっくりしてもいいからネ? 艦内をうろつくなら、危なそうな場所だけは避けるんだヨ。その白い外套を着てれば、大抵の場所には入れると思うヨ。何かあったら近くの船員か騎士に話しかけてネ」

 カロンは涙を浮かべてまで、ひとしきり笑ったあと、息を整えながら最期に挨拶して、救護室から退出していった。嵐が去ったかのようだ。
 それから結友は麻のシャツと長ズボン。そしてかなり抵抗感があったが、言われた通り<蒼十字の白亜の外套>を身に纏う。左頬を除いて体はどこも痛くない。艦内を見て回り、ここが現実かどうか確かめたかった。少しずつ、不安にもなってきている。帰れることは確定しているので、取り乱すほどではないが。

「あの……ありがとうございました」

 みんな忙しそうで、疲れてそうなので、誰にというわけではないが、出入り口のところで一礼して、結友は救護室を後にする。数人の船員が気づき、目で送り出してくれた。
 申し訳ないがカロン艦長は胡散臭い。しかし氷の黒髪乙女をはじめ、いま自分の周りにいる人達は善良な人達であることに、結友は深く安堵して、自分の運の強さを改めて実感できたのであった。

(でも、なんで俺、記憶がないんだ? なんか、すっごい大切なこと忘れてる気がして……)

 艦内を歩き始めてすぐ、自分に正体不明の焦りがあることを自覚して、無意識に足早になる結友だった。
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