天才は笑わない

紺野

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負けず嫌い

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 最近気づいたことがある。
 多分私は負けず嫌いなのだ。


 そもそも父は、客に馬鹿にされたことがきっかけでしがない食器商から帝国一の商家へと1代で成り上がった生粋の負けず嫌いだし、母はおっとりしているようでそんな父が口で勝つことが出来ない。

 それはそうだろうというものだ。


 7つ上の兄は別に嫌な奴では無い(と思う)が、母のお腹の中にデリカシーとか遠慮とか思いやりとかそういう人間として大切なものをごっそり置いてきてしまっている。
 
 そんな兄はどう考えても商家の跡取りには向かないので、両親はとっくの昔に兄に後を継がせることを諦めているが、どうやら兄はその事を知らないようだ。

 兄はとてもデリカシーが無くて失礼でどストレートにしかものを言えない空気の読めない男だが(あれ、やっぱり嫌な奴かもしれない)勉強だけはできた。

 それは帝国一と言われる学び舎で平民出身でありながら成績優秀者として、7年間ずっと学費の補助を受ける権利をもぎ取るほどだ。




 きっかけは兄の言葉だった。

「来週はエディテュワがあるから俺がお前の結婚相手になりそうなやつを見繕ってきてやるよ」

「えー、お兄ちゃん何とつぜん」


「知ってるか? エディテュワってのはその年のオルデット卒業生だけに参加が許される特別な舞踏会なんだぞ。皇帝陛下が一人一人名前を呼んでくださるんだ。信じられるか? つまり、だ。超優秀な人間だらけなわけだよ」

「だからなに?」

「だから、お前はどうせオルデットに入学することなんて無理だし、このままこの領地にいたって大した人間は居ないわけじゃん? お前はただでさえ馬鹿なんだから結婚くらい良い相手として家を盛り立てろよな」

「は??」



 13歳の私はその時猛烈に兄を殴りたいと思った。


「たとえオルデット以外のそこらへんの学校に入れたとしてもさ、裏金とかなんかそんなんで、だけど、お前を学校に行かせたところで金をドブに捨てるようなもんだからな~」



 怒りのあまり記憶が定かでは無いが、私はその後兄に飛び蹴りを食らわした気がする。


そして決心したのだ、たとえ血反吐を吐こうとも、オルデット学園に入学し、無事卒業してみせると。

 そして、あわよくばエディテュワで兄がぎゃふんと泣き喚くほど良き結婚相手を見つけると!!


 そう決めてから1年間、まさに血反吐を吐くほど私は勉強に勉強を重ねた。

 父は泣きながら私にもうやめてくれと懇願し、母は心労で倒れ、兄は無駄な努力はもうやめなさいと、さすがに青い顔で何度もさとしに来たが、私は高熱が出ても、意識が朦朧としても勉強を辞めなかった。

 負けず嫌いというか頑固というか、自分でもどうかと思うけど。


 そして、試験当日。



 試験用紙を見て思った「あれ、全然わからないぞ」と。

 結局必死で解いたが、ほとんど自信があるものがなく、そして最後の問で全ての解答欄がズレていたことに気がついた。
 しかし、残り時間はあと僅か、私は泣いた。

 比喩などではなく。




 悔しくて部屋に2週間こもった私に届いた合格通知に、驚きすぎて気を失いそうだった。

 意味がわからなすぎて裏金を詰んだのかと父に詰め寄ったが、そんなことはどうやら不可能らしい。


 何が起こったかと言うと、ものすごいミラクルだった。

 私は頭が悪いがその代わりものすごく幸運だったのかもしれない。


 兄は目をまん丸にして1日変な顔をして何も話さなかった。

 その顔が見れただけで十分だったのに、調子に乗って入学してしまったら今度は卒業ができなくなった。

 
 卒業試験をパスしなければ卒業できないなんて聞いていない。
 







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