5 / 6
3
しおりを挟む「なんでって、笑える! なんでもクソも、なあ?」
下品な笑い声を上げながらヒーヒーとソファで腹を抑えるアーデルハイトに、ジルは憎らし気な顔をした。
テーブルに突っ伏したトゥールもよく見たら肩が震えているし、ロイド先輩はせっかくの貴重なお茶を吹き出してゴホゴホとむせている。
「何をそんなに笑うことがあるんだ。だいたい女性に対して失礼だろう」
「ゴホっ、いやいや、ごもっとも。ここじゃ毎年恒例の事だし毎回ひとしきり笑うけど、何も知らないのが入ってくるとまた新鮮で可笑しいねえ」
「ロイド先輩……ほんといい加減にしないと……我が社との契約を白紙に戻しますからね……」
「えええ、ちょっとおそれはズルくないジルちゃん~。それに僕も毎回毎回一生懸命やってんのにさあ~」
「ジルは今年4回目の卒業試験を受けて落ちてんだよ」
「よ、4回…………、ジル嬢はとても運がないのだろうか。それか病弱で、だからヴィレに」
…………まあ、なんというか、とてもそうは見えないが。
顎に手を当てて考える俺に男三人は揃って吹き出し、ジルからは殺気が立ちのぼる。
その様子にやはり違ったのか、とさらに訳が分からなくなったところでアーデルハイトが大きく息をついた。
「はーーー、笑いすぎて死ぬわ、ほんと。やめてくれよ。まあ気持ちは分かるよ。4回も落ちるなんて普通じゃねえ。1、2回はたまーーに聞くけどな。たまーーーにな? 」
「この学園は成績次第では学費も国の補助が受けられるし、帝国一の学舎でありながら身分に関わらず入学ができる。しかし代わりに入学試験が非常に難解だ」
「ああ、しかもわざわざ魔法契約で不正行為と裏口入学にペナルティが課されている。不正や裏口入学をしようとして、目が溶けた人間が昔は結構いたってな」
つまり、実力で入るしかない。
伝説の魔術師であり、この学園の創立者のひとりであるオーガンによって、強力な魔法契約が交わされているため、いかに身分が高くとも皇族であっても不正が不可能なのだ。
確かに卒業試験も簡単では無いが入学試験に比べたら遥かに難易度は低いと聞く。
その難解な入学試験をパスして卒業試験に4回も落ちた人間など多分未だ嘗ていない。
だからよっぽど運が悪くて試験の日に何かがあったとか、体調を毎回崩すだとか、そういうことだと思ったのだが……。
「ジルちゃんは裏口入学だからね~」
「ロイド先輩?」
いつの間にか短剣を持ったジルがくらい瞳でじーっとロイド先輩を見ていた。
「う、嘘でーす!間違えました~!ごめんごめん、ジルちゃーん冗談じゃん~。女の子がそんなもの持ち歩くもんじゃないよ?」
「これは護身用です。ちなみにナイフではありません。我が社の新商品です。試してみます? 丁度人体実け……人で試してみたかったんですよね。ウォーンドフでの実験では木っ端微塵になって効果がちょっと大きすぎるかなって思ってて」
「え、遠慮しとこっかな~? そんな大型魔獣で試して木っ端微塵なら人間で試すなんて有り得ないよね? ね、ていうかどう考えても製品化していいものじゃないでしょ」
「ヴィレには丁度いいかなって」
「あの脳みそに筋肉詰まってる体力バカだけにしときな?」
ロイド先輩は青い顔をしながらアーデルハイトを横目で見てウインクを投げた。
そしてアーデルハイトはいつの間にか笑いを引っ込めて何も知りませんみたいな顔で虚空を見ていた。
「あの、ジルさんはつまり、ダメ元で受けた入学試験で解答欄を全部ずらして記入してしまったところ、ものすっごいミラクルを起こして合格してしまったお馬鹿さんなんですよ」
「え」
「だから、卒業試験で合格出来ないんです。本当はすぐにでも卒業したいのに」
……そんな奇跡、あるのか??
ロイド先輩とジルがやいやいと言い合っているすきに、そろりと近づいてきたトゥールはそう言って笑いをこらえるように目を閉じた。
「そんな奇跡、信じられないですよね」
「ああ、本当に」
「ちなみに今年の卒業試験は4点でした」
「は??」
「50点満点中です」
多分俺は酷い目をしていたのだろう。
ぐるりとこちらを向いた菫色の瞳に害意がありありと見えたから。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる