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第4章 ただのパティシエに何ができる?
第7話 セザールのロード・マップ
しおりを挟む「ないだろう。ただのお菓子バカだからねキミは。世間に疎い子供だ。もしかして、ワール国がもと植民地でフランスが元宗主国だとか、フランスには他の元帝国主義各国のどこにもないアフリカ担当大統領顧問なんて顧問が常設されている、なんてことも、知らなかったんじゃないか?」
「う」
図星である。なぜそれを、とは顔に出さないように、京旗は笑みを浮かべたが、それは明らかにひきつっていたりした。
「八五億を超える人口を支えきれずに、世界は近い将来、食糧危機に突入する。それに備え、熱帯性の植物を効率的に生産するため、ワール国を再開発する。また、現段階において、先進国の使命として、薬理的に価値の高い諸作物を効率的な流通ルートに乗せる目的もある。ゲノム新薬の開発に、未知未分類のアフリカ動植物のDNAがどれほど期待されているか、知っているかね?
もともと、キャタピラー・キャピタルというのは、投資会社だ。巨大な資金力と、経営ノウハウと情報力を蓄積したシンクタンクを強みとする。それらを、経営困難に陥った会社を安く買いたたいたところへ惜しみなく投入して、会社を効率的なものにたてなおし、資産価値をあげたのち、売却してそこで利益をあげる。その途中の会社をいくつも手中に持っている親会社だと思えばいい。手持ちの会社は世界中にあり、こんどはそこに、開発途上の小さな熱帯の国を一個、加えようとしている――というわけだ。
ゲリラに力をかしているのは何故かという質問だったが、――キミなら、再開発のために、関東大震災、阪神大震災がどれだけいいきっかけになったか、想像はつくだろうね? 日本はいい国だ――大地震が、ちょくちょく起きる」
カッと、怒り心頭に発した。
今度はスタンドが、派手な音とともに倒壊した。
「この腐れ外道ッ!! 地震ってのは、戦争のたとえのつもりかッ! 一度国を壊すつもりかッ!!」
「国土を、誰からも文句の出ない天災でリセットできる、恵まれた国の生まれのキミには、わからんよ」
狂ってる、と京旗は絶句した。
「世界のために、この国のために、完璧なシナリオを、我が社は用意している。おかげで忙しく、僕の当初する予定だった仕事は、あとまわしだ。たかだか全米程度のブランドだが、やってみたければ、キミ、どうだね? ボクの代わりに研究室に入れるよう、上にかけあってあげよう。いや、ボクがポケットマネーからお給料を出してあげてもいい。魅力ある仕事だろう? 栄誉ある人類最初の職かも知れないぞ。ゴースト・ライターならぬゴースト・パティシエなんてね」
「ふ……っざけんな!! てめえの目論みなんざ、ぶっこわしてやる!!」
啖呵を切って、京旗はきびすを返した。ドカドカと、部屋のドアへ向かう。
もう十分だ。これ以上ここにいたら、頭が腐る。悪臭ただようマルシェのほうがまだましだ。あっちは悪くても自然のにおいだ。ここに漂う異臭は、化学的に合成されたバニラやオレンジの模造香料のよう。吐き気を催すどころか、中毒で蕁麻疹まで出そうになる。神経疾患も起きかねない。
「おや。そんな口汚いことを言っていいのかな――ボクを敵に回すと、竹邑アユが、日本に帰らなければならなくなるんだよ――彼女の嫌いな祖国にね」
「は……?!」
正直、ここであゆの名前が出てくるとは思わなかった。
「動物園でアユとキミを見て、まさかと思ったが、調べてみてよかった。本当にキミがワール国に、ボクより一足先に来ていて、しかも、それがアユと兄妹になるためだったなんてね」
――兆胡サン! なんでこんなとこまで情報流出しているですかッ!
ったく、どこでどんな人に喋りまくってるんだか、あの人は……!!
「もう知っていると思うが、彼女がこの国にいるのは、父親の仕事の都合もあるが、これ幸いと中学卒業の資格をとろうとしているようだね。たまたま水があったらしい、ここの日本人学校以外では、たぶん無理だろうと、彼女の周囲は、みな、祈るような気持ちのようじゃないか――ここをのがしたら、どの学校でも適応する能力がないと諦めている、とも言えるな」
ハッハッハ、とセザールは嘲笑した。
明らかに、あゆの個性的なことを、蔑んでいた。
「僕に頼めば、なんとかしてやらんこともないのだよ? 我が社のロードマップでは、まもなく、ワール国の内乱の戦禍は、ダメジャンにも及ぶ。首都には戒厳令が出され、日本も、フランスも、企業や団体は撤退を決め、民間人は避難をよぎなくされるだろう。だが僕の指先ひとつで、もう少し日本人が居座れるロードマップに変えることもできる。ダメジャンへの飛び火があと半年も後にずれれば、アユは中学を卒業できるね。――来年の三月だ。義姉の卒業式を見るために、ワール国の日本人社会を存続させたかったら、僕に頭を下げて、雇用して下さいと頼むがいい。社員福利厚生の一環として、助けてやってもいい」
迷うところだった。あの天然ボケのバカ女のために、あのほけらっとした間抜けな笑顔を守るために、それが必要だというのなら、悩まざるを得ないのだ。
京旗の立場なら、ふつう迷うところだった。悩まざるを得ないところだった。
だが、京旗は人に借りを作るのが大嫌いな性分で、しかも相手が悪党となればなおさらだった。
「断るね。たかが半年、平和をコントロールしてもらって、この国にとって何になる」
「アユのことを考えないというのかッ!!」
「あいにく、あゆのことも、この国のこともどうでもいい」
嘘だ。だが、想ってるなんて口はばったくて言ってられるか!
しかしセザールは、複雑な人間の情など理解できる素養に欠けている男で、意のままにならない一〇以上も年下の小僧に、癇癪を起こした。顔を真っ赤に染め、次には反動で青くなった。
赤くなり青くなり、信号機のようにせわしなく明滅するのは、デブだからだろう。健康には気をつけろ。
口から嘲弄がペラペラ溢れそうになって、自制する。
ただ身を翻して、京旗は今度こそ立ち去ろうとした。もう話すことはない。
だが、セザールの方では、このクソ生意気なガキに、言って聞かせることは山ほどあった。
「ここまで知った人間を、帰らせるわけにはいかん!! 捕まえろ!!」
「い――?!」
黒人が、一斉に京旗に襲いかかった。
「ケイキ・イッシキが、失踪――?」
レミュール顧問は青ざめた。
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