やっぱり義姉には敵わない!/天才少年パティシエのオレ、母が再婚するんで渡航して義妹に会ったら義姉だし内戦が起きてるんだが?

春倉らん

文字の大きさ
29 / 49
第5章 少年パティシエにできること

第1話 パティシエは行方不明

しおりを挟む
 午後四時現在、まだ連絡がとれない。
 秘書官は、染矢日本大使から内々にとその件を相談された顧問の顔を見て、心配になった。
「ワール国首相に、協力要請しますか。警察を出動させ、そのフランス人宅へガサ入れしてもらえば……」
「いや、放っておきなさい。住所を教えたのは私の落ち度だったが、乗り込んでいったのは、いち日本人少年の勝手にしたことだ」
「か、彼のファンではなかったので……?」
「私が動くということは、フランスの対アフリカコマンドが動くということですよ。動くことができると思うかね?」
 そうだった、と秘書官は黙った。内戦干渉、帝国主義の復活と、国際社会で非難を浴びる。
 顧問はさらに言った。
「しかも、相手は民間企業で、アメリカの巨大資本と来た。米国政府公認ではないが、黙認されていると分かっている相手に、ケンカを売ることは、今のフランスには、できない……!!」
 今、アメリカとは、中東で、共に石油権益のために、悪いことだと分かっていても共同戦線を貼っておく手だというのが、フランス外交の大筋になっている。アメリカの数地域に比べてフランスは一地域きりだが、油田の採掘開発権を持っている地域があるためだ。
「なんと、タイミングの悪い……!!」
 その声には、苦渋がにじんでいた。


「おーい、治外法権もそこまでじゃないダロ。国際問題に発展するぞ。アイシーピーオーからゼニガタのとっつぁんが攻めて来るぞ。ハーグの国際司法裁判所で裁かれるぞ!」
「ふん。アメリカ本社が、どうとでももみ消してくれる。さて、世界中のどこに、キミを売り飛ばしてくれようかな? ハッハッハ……」
 笑い声と足音が、薄暗い廊下を遠ざかっていって、何時間たったろう。
 家具もない、古い倉庫におしこめられ、タイルの割れたさむざむしい床にあぐらをかいて、京旗はがっくりと手のひらに額を押し当てていた。
――まずった~……!!
 いつか自分の毒舌で身を滅ぼすとは思っていたが。
 今度ばかりは啖呵を切ってはいけない相手だったのに、やってしまった。セザールが人を監禁までするとは考えていなかった――というのは、やはり舐めていたのだろう。状況認識が甘かった。
 明かりとりの窓は高かったが、隅の壊れた木箱に気をつけて登れば、かろうじて外が見えた。緑の芝生と、向こうの木立ち。だが、その窓には鉄格子がはまっていた。
 ドアも鉄格子。檻の扉だ。頑丈な南京錠でしっかり鍵が掛けてある。
 やがて隙間から食事が差し入れられたが、水平状態で盆ごと入れたりできない、とても上品な構造の扉だから、個々の品物が格子越しに床に放りなげられた。
 水はマルシェで売っているようにビニール袋。
 バゲットの切れ端。
 角砂糖と小さな紙包みの塩・コショウ。
 青いトマト。
 さみしい食事に、不覚にも涙が出た。
――ムサの作った日本食がくいてぇ……!!
 三度三度、みそ汁でも天ぷらでも上手に作るし、うどんは小麦粉から打っていた。恵まれてたんだなあと思ったら、よけいがっくりきた。
 と、廊下の向こうから、話し合うフランス語が聞こえてきた。
 黒人だとは分かるがムサ・フランセよりかなりまともな発音のフランス語と、もう一人はセザールの声だ。
「ムサ・ビトオ軍の小物が少し手に入りましたよ」
「よしよし」
 セザールは、上機嫌のようだった。黒人の声はへつらうように、
「これであんたのお望み通り、ヤムイモンでのムゴド氏暗殺事件は、北部のゲリラの仕業にできますな」
「シッ。声が高いよ」
「おや、聞かれたらまずいお客でも、この奥に?」
 京旗は、反射的に身を固くした。
「――いや、心配することはないんだ。無力なパティシエの小僧で、間もなく行方不明となる身さ。さあ、仕事に向いた若者を選んでくれ。出発前に訓練が必要だろう? 鉄道のチケットはこちらで手配しよう……」
 はっはっは……
 笑い声が、遠ざかっていく。
 半地下の倉庫の廊下で密会とは。部下にも聞かせたくない、今のところトップシークレットのわるだくみなのだろう。
 ムゴドって誰だ? ヤムイモンとは? ムサ・ビトオ軍に、北部のゲリラ?
 ちんぷんかんぷんだったが、暗殺事件のなすりつけとは、ゾッとしない。
 ヤツの目的が国を破壊するための内戦激化と分かっている以上、絶対叩きつぶしてやる。
 染矢大使か、レミュール顧問かに、早く報せに行かなければ。――逃げなければ。
 だが、どうやって逃げる?
 頑丈な鉄の檻の扉など破れない、京旗は、確かにセザールの言うようにただの少年パティシエだった。
――考えろ。考えろ考えろ考えろ。
 ポケットに何があったか、思い浮かべる。
 日本人の子供がピストルやナイフなんて持ち歩くわけはなかったが、身体検査は一応された。カーゴパンツのポケットには、昨日スュペルマルシェで買い物してネジこんだ、小さな紙箱ひとつきり。
 物騒なものではないが、
「……ふ~っふっふ。真実のパティシエの底力を、舐めるな~っ!」
 不気味な笑いとつぶやきが、薄暗い倉庫に漂った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...