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第四章 ハルピュイアと悲劇の少女

第八話 消え去ったオレの夢

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 遠野さんはオレの身体の秘密について語る。

「木霊君のお母さんも幻獣化するんです。
幻獣のウンディーネやシルフの様に……。
木霊君の身体が鉄の様に変化したのも、お母さんの遺伝による影響だと言っていました。
この幻獣化は、私の幻獣化と違い、別の生物に変化する事はありません(子供の姿や異性にはなれる)が、身体が水や空気、鉄に変化するそうです。

本来は、不老長寿の妙薬目的で開発した薬だったのですが、このような副作用が出るようになりました。
イメージ通りのスタイルになり、若い肉体を保つという薬を目指して完成したのですが、どうやら扱える人が少なくて、普及はしなかったようです。

木霊君のお母さんは、訓練してうまく扱えるようになったので、木霊君は知らなかったようですが、水霊(みずち)ちゃんは知っているようです。
お母さんが遺伝による影響を知ったのはつい最近の様で、まさか子供に影響が出るなんて思わなかったそうです。
どうか、怒らないでください」

「なるほどな。
それで母さんは、若い姿のままなのか。
他にオレに隠している事は無いよな?」

遠野さんはまた一瞬黙り、ゆっくりと話す。

「これは木霊君の将来に関係する事かも知れません。
お母さんが心配していましたけど、幻獣化する様な身体だと、魔術師(マジシャン)になれないかもしれないと言っていました。
普通の身体じゃないのに魔術師を目指したら、ばれた時に大事になるし、その力を使って有名になっても達成感が無い。
木霊君の性格からすれば辛いはずだと……」

「ああ、そうだな……。
こんなすごい身体じゃあ、自分の魔法(マジック)がばかばかしく思えて来るな……」

オレは、ショックで言葉を呑んだ。
涙が頬を垂れる。
遠野さんは、隠すなというオレの言葉を実行する。

「実は、木霊君が幻獣化になると知った時、私は嬉しかったんです。
ずっと幻獣化に悩んでいた私が、木霊君という幻獣化できる男の子に巡り合ったんです。
しかも、二人は両想い(木霊の反応などから勝手に判断)。
もう幻獣を捜す必要も無いんだと、密かに喜びました。
私の幻獣を捜す目的は、普通の人間に戻る事でしたから。
でも、木霊君が幻獣化できるのなら、無理に戻る必要は無いかなと……」

オレは遠野さんの話を聞き、皮肉を言う。
父親の様な魔術師(マジシャン)になれないと悟り、感情的に悪い思いが口走る。

「へー、遠野さんが幻獣を捜していたのは、男漁りが目的だったのか。
そして、オレがまんまと捕まったってわけか。
偶然にも幻獣化できるから……」

遠野さんは一瞬驚いた顔をした後、慌てて否定する。

「ち、違います! 
確かに、結婚相手が欲しくて、幻獣化を無くしたいという気持ちもありました。
でも、学校で友達を作るためにも必要だと思っての事です」

「違わないだろ! 
幻獣化するオレが居て、もう幻獣を捜す必要が無くなったって事は、男漁りが目的だったてことだろ! 
要は、幻獣化する男なら誰でも良かったって事だろ。
でも、遠野さんはまた幻獣捜しという名の男漁りを続けないといけないよ。

十五年間魔法(マジック)一筋で生きて来たオレが、ただの無能に成り下がったんだ。
遠野さんを養っていく自信も、幸せにする自信も無いよ。
ごめん、これ以上はオレに付き纏わないでくれ。
オレがみじめな思いをするだけになるから……」

オレはそう言って、客間をから出ていく。
遠野さんは、オレの後を追いかけ、泣き付いてくる。
オレの腕を掴み、引き留めようと必死だった。

「待ってください! 
私と一緒にいたいって言ったじゃないですか。
そんな急に付き放さないでください」

「うるさいな!」

オレは遠野さんを突き飛ばした。
遠野さんは、勢い余って壁に激突し、よろけて座り込む。

「あ……、ごめん」

遠野さんがよろけたのを見て、オレは思わず短い声を上げた。
遠野さんと目が合い、彼女の泣いている姿を見てしまった。
顔を合わせたままだと、遠野さんを振る事は出来ない。
十五年間必死で努力して、結局何もできなくなったオレだ。

遠野さんを好きだとしても、幸せにする自信なんて消え失せていた。
このまま、お互い離れ離れになる方がいいと考えていた。
遠野さんにはもう鏡野真梨やメアリーという友達がいる。
オレなんて必要ない。

「辛いんだよ。
遠野さんがオレを徐々に失望していくのを見るのが……。
運動神経も普通だし、テストの成績も悪い。
その上、頼みの魔法(マジック)が無くなったら、将来がどうなるかさえ分からないよ。
遠野さんは、他の幻獣化できる男を捜してくれ。さようなら」

オレはそう言って、自分の部屋に戻る。
今度は、遠野さんも追い駆けて来なかった。
これで本当にお別れだ、とオレは考えていた。
オレは、自分の部屋に閉じ篭り始めた。
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