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第五章 ラミアへの呪い

第五話 イルカと一緒に泳ぐ!

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 イルカと泳ぐ時間になり、オレ達は水着に着替える。
今回泳ぐ客は、オレと遠野さん、鏡野真梨とメアリー、ラミアさんとその弟子・八束麻紀(やつかまき)さんの六人だ。
男はオレだけだから、優越感を感じつつも、緊張していた。
まずは、イルカをプールに入れて一緒に泳ぎ、次にホオジロザメを交代で入れる。

最後に、八束麻紀さんがデモンストレーションで、自分の開発した製品を使い、スマートフォンが長時間水の中に使っても大丈夫だというアピールをするらしい。
何も起こらなければ良いのだが……。
特に、ホオジロザメと一緒に泳ぐのは、一歩間違えれば大事故に繋がる。
まあ、オレが泳ぐんじゃないから良いんだけど……。

オレが水着に着替えてプールに出て行くと、しばらくしてから遠野さんだけが水着に着替えてプールに出て来た。
他の四人は、次の準備が整うまでオレ達の泳ぎを見守るようだ。
プールはガラス張りだから、外からオレ達の様子が丸分かりである。

オレ達二人は、インストラクターの人に導かれて、プールに入る。
イルカが連れて来られるまで、少し時間ができた。
この間に、遠野さんは髪型をツインテールの三つ編みにし、人魚(マーメイド)モードになる。
髪の色と瞳の色が紫色に変わり、下半身がイルカの姿になる。
会場は騒然となるが、ラミアさんとメアリーがフォローしてくれる。

「なんだ、あれ……。人魚? マジかよ……」

「作り物だろ。たぶん……」

「はいはい、そんなに驚かない! 
轟木霊(とどろきこだま)は才能ないけど、一応魔術師(マジシャン)だからね。
あれも、小道具の一つさ」

「小賢しいけど、自分の魔法(マジック)を見せ付けて、後々有名になろうとしているからね。
まあ、せいぜい小銭でもここに入れてくれ! 僕らの活動資金にしよう!」

メアリーは、金を集める箱を設置した。用意の良い事だ。

「そうか、やっぱり作り物か……。良く出来ているな!」

「ああ、有名になって欲しい物だ。ほれ、お小遣いだ!」

「ありがとうございます!」

「ふひひひ、結構集まるな……」

メアリーとラミアさんは、嫌らしく笑っていた。
オレ達は死角にいるから、その様子は見えていない。
オレと遠野さんがプールに入って、イルカを待っていると、ついに準備ができたようでイルカが導入される。

「ハーイ、オスイルカのハンド君です! 仲良く遊んでくださいね♡」

飼育係の案内を聞くと、遠野さんの表情が固まった。

「オス? そんな……。イルカショーに出演しているのは、全部メスなんじゃ……」

遠野さんはなぜか怖れを示していた。
冷静な判断ができていないようだ。
どうしたのだろうか?

「どうしたの? オスだと、問題なの?」

オレはそう尋ねる。

「オスイルカは、性欲が強過ぎてイルカショーには出られないんです。
飼育員の命令も聞かず、メスイルカの後を追いかけてばかりいるんです。
そして、私の人魚(マーメイド)モードも下半身は、バンドウイルカの下半身。

かなり危険な感じがします。
私は陸に上がって休憩するので、木霊君だけ楽しんでいてください」

遠野さんがそう言い終わらないうちに、オスイルカのハンド君はプールに入って来た。
遠野さんを見るなり、けたたましい声で鳴き始める。飼育員がこう言う。

「お、どうやら求愛行動を始めたようだね。
作り物とはいえ、メスイルカに反応しているのかな?」

オスイルカのハンド君は、猛スピードで遠野さんを追いかけ始める。

「きゃあああ、助けて!」

遠野さんも負けないような猛スピードで逃げ始めた。
人間を超える二頭の戦いが始まったのだ。
オレは何が何だか分からず、状況を理解しようと必死になる。
ラミアさんが、二頭の状況について解説してくれた。

「いやー、糞つまらない式典に参加するだけかと思って期待もしてなかったけど、これはなかなか良い物が見られそうですね! 

人魚(マーメイド)とイルカの求愛行動なんて、滅多に見られないよ! 
しかも、どちらも哺乳類。子供が生まれる可能性もあるかもね、ワクワク」

八束麻紀さんは、その解説に応えていた。

「すいません、ラミア先輩。全然乗り気じゃなかったんですね。
それよりも、一人は女子高生ですよ。早く助けないと……」

「うーん、かなりのスピードで泳いでいるからね。
人間が介入できるレベルじゃないよ。

助けだせるのは、バンド君が満足するまで交尾した後か、遠野さんが力尽きて浮いて来た時くらいじゃないかな、ククク……」

「ラミア先輩……」

オレは二人の会話を聞き、遠野さんが最大のピンチを迎えている事を知る。
今は、二頭のスピードが同じため、交尾される危険は無いが、遠野さんがオスイルカに追い付かれたり、力尽きたり、呼吸困難で気絶したりした場合、オスイルカに襲われてしまうのだ。

あまりの恐怖に、遠野さんは髪型を変える事も出来ない。
いや、髪型を変えようとした瞬間に追い付かれてしまう危険があった。
何とか、オスイルカの気を逸らさなければならない。

しかし、二頭の動きは、オレの目で追うのがやっとのスピードだった。
早く何とかしなければ、遠野さんの身体がやばい!

[これはオスイルカの心の中です:ヘイヘイ彼女! 
オイラと一緒に、ホットでアットホームな家庭を作ろうぜ! 待ってくれよ!]

オレはタイミングを見計らい、オスイルカの進路を妨害する。
一瞬だったが、遠野さんとイルカの間に入る事ができた。

[あーん、何だこいつ! オイラと彼女の愛を邪魔しようってのか? 
消えろ、このリア充(リアルに充実している奴の略)が!]

オレはイルカに体当たりされ、プールの縁にぶつかる。
意識は保っていたものの、かなりのダメージを受けた。
それを見て、ラミアさんの解説が入る。

「ククク、いくらニートとはいえ、泳ぎの達人の異名を持つ海獣だよ。
いくら努力している学生とはいえ、勝負にすらならないな! 
大人しく、自分の彼女が襲われる所を見ているが良い!」

「ラミア先輩、もうすく四十歳だからって、花の女子高生にこの仕打ちは酷いです! 
ラミア先輩なら、助けられるでしょう? 
ホオジロザメだって、ラミア先輩の発明品があるから一緒に泳げるって聞きましたけど……」

「いい? それは初耳だよ! 私、ホオジロザメに対しても、何の準備もしてないから。
オスイルカを止められないのも事実を言っているだけだし……」

「楽しんではいるけど、助ける気はあったんですね……」

「一応は……。でも、無理っぽい!」

ラミアさんが言う通り、遠野さんの体力が徐々に無くなり、スピードが落ちて来た。
オレがオスイルカに妨害をして、少しは距離が開いたが、その差も徐々に埋まりつつあった。

[ヘイヘイ、そろそろ観念したらどうだい?
オイラにスピードで勝とうなんて甘いよ! 
さあ、二人で寄り添って、愛し合おうじゃないか!]

「ひいい、来ないで!」

遠野さんはジャンプで陸に上がろうとする。
着地は不安だが、他に逃れる方法がない。
最大スピードで、上空に舞い上がった。

[あ! 美魚を逃がすもんか!]

オスイルカもジャンプし、遠野さんに空中でヒップアタックをして軌道を変える。
遠野さんは陸に上がる事ができず、またプールの中に落ちる。
しかも体当たりの衝撃が強過ぎたため、さっきまでの様に速く泳ぐ事ができないでいた。

[ようやく大人しくなったね♡ さあ、たくさん子供を作ろう!]

オスイルカは、遠野さんが動けなくなったのを確認すると、ゆっくりと泳ぐようになった。その隙を衝き、オレはオスイルカと遠野さんの間に入る事ができた。

[またお前か! 今度こそ、邪魔させてやるもんか! リア充と邪魔者は死ね!]

オスイルカは、オレに体当たりで攻撃してくる。
生身の体では、さっきの様にプールの縁に叩きつけられ、死ぬ危険さえもあった。
オレは、咄嗟に黒沢さんの言葉を思い出し、自分の意志で身体を鉄に変える事にした。

オレはイメージする事により、身体を土の成分にする事が出来る。
自分の意志で変身するのは初めてだったが、遠野さんのピンチに身体が反応した。
オレの身体は鉄に変わり、イルカの攻撃を食い止める。
イルカは思わぬ衝撃を受け、気絶したようだ。

その隙に、遠野さんの三つ編みを解き、オーガモードにする。
以前は下半身が露出していたが、ラミアさんの作った『オートパック水着』により、観客から遠野さんの下半身が見られる事は無かった。

遠野さんはショックで気絶しているようだが、命に別状は無い。
オスイルカの方も一分ほどすると、意識を取り戻した。

[あれ? 美魚がいないな。ちぇー、つまんね!]

オスイルカは泳ぎ疲れたのか、飼育員の指示を聞き、自分の自宅に帰って行った。
この事件の一ヶ月後に、オスイルカのハンド君は、メスイルカとお見合いをし、ホットでアットホームな家庭を気付いているという。
遠野さんはショックで、しばらくイルカの鳴き声を聞く事も出来なくなった。
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