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第七章 獲物を呼び寄せるセイレーン

第七章のプロローグ CAT探偵登場!

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オレと遠野さんが、放課後の帰り道を一緒に歩いていると、道端に奇妙な生物が座り込んでいる。
遠野さんはその生物に気付いた。

「あ、なんか変な生物がいる。
お腹を押さえているみたい」

それは見た感じネコだった。
そして、近くに羊のような家畜がいる。
遠野さんは、気にしたものの、経験から考察を巡らし、無視して通り抜けようとする。
そのネコは、人間の声を出しているようだった。

「うう、ニネベから日本の名古屋に帰っても、エサにありつけないニャン。
モコソン、僕はもうダメだ……。
メタボの君ならもう少し生き残れるが、僕はここまでのようニャン。
最後に、超高級寿司が腹一杯に食いたかったニャン!」

「ネコーズ、しっかりしろ!
きっと心の優しい美少女高校生が、君と僕を助けてくれるはずさ。
ついでに、ネコ用ミルクと暖かいベッドを用意してくれるはずだ!
僕は、日本の女子高生を信じている。
お小遣いを犠牲にしてでも、僕達かわいいペットを助けてくれると……」

「ガック!」

「ネコーズ、死ぬな!」

ネコは、前足を地面に落とし、死んだ振りをしていた。
オレと遠野さんは、静かに隣を通ろうとする。
野次馬のように、関心がある振りしながら、そそくさと立ち去ろうという考えだ。

「あ、本当だ。
変なネコと羊だね。
じゃあ、あの喫茶店に寄ろうか?
なんかケーキが美味しいらしいよ!
実は、割引券が残ってるんだ」

「わー、凄い!
ナツミンの蜜柑ケーキが食べられるね。
早く行こう!」

オレと遠野さんは、急いで喫茶店『ドライアド』に入ろうとする。
オレ達は、ここでバイトしているが、休日も偶に休憩で寄る事もある。
今日は、オレ達はアルバイトが休みで、鏡野真梨と天草夏美が仕事をしている。
遠野さんと天草夏美が交代でケーキ作りをしている為、数日交代制で別々のケーキを用意しているのだ。

今日のケーキは、天草夏美が作っているオレンジケーキが売られていた。
それを目当てに、オレ達はケーキとコーヒーのセットを注文する事にした。
しかし、オレ達が横を通り過ぎる事を、怪しいネコ達は黙っていない。
遠野さんの靴下を爪で引っ掛け、オレ達の進行を妨害する。

「ちょっと待つニャン!
可愛いキャティーが行き倒れているというのに無視するのは、人間として酷過ぎるのではないかね?
真面な美少女なら、『キャー、可哀想なネコちゃん。私が超高級寿司を食べさせてあげるね、だから死なないで!』と、僕を膝の上に乗せて、そこの小僧に寿司を買いに行かせるニャン。
なんで、僕達に寿司を食べさせようとしない⁉︎
人間としておかしいニャン!」

「お金がない。
私の所持金千円くらいだもん。
そんな寿司を買うことはできないよ」

遠野さんは、ついにネコと喋り出してしまった。
所持金を調べられ、真実かどうかを確認させられる。
オレの所持金は、ケーキの割引チケットと、五百円くらいだ。
ケーキセット一人分がギリギリの金額だった。
アルバイトはしているけど、全て部費になっているので仕方ない。
羊は、所持金を確認し、オレ達に悪態を吐く。
ここまでムカつく動物がいるだろうか?

「ちっ、最近の女子高生にしては、羽振りが悪いな。
ブルセラショップとかに行けば、使い古しのゴミ(パンティー)がそれなりの金額になるだろ。
所持金合わせて千五百円ちょっとか……。
しけてやがるな!」

「ちょっと待つニャン!
この近くには、スーパーマーケットがある。
そこの作り置きの寿司なら一パック七百円ほどニャン。
それを二つ買えば、ちょうど足りる金額ニャン。
多少質は落ちるが、背に腹は変えられない。
それで我慢するニャン」

「さすがは、ネコーズ。
寿司のある場所と金額を事前に調査し、所持金内で買える商品を選択するとは……。
よし、そこのスーパーマーケットに行って、寿司を買ってくるぞ!
ネコーズの命がかかっているんだ、急げ!」

モコソンという羊は、オレ達をど突いて移動させようとする。
確かに、喫茶店『ドライアド』の反対側の道には、スーパーマーケットがある。
オレ達は仕方なく、ネコ達のエサを買うことにした。
遠野さんは、一番安い寿司を買うように交渉する。

「ミニ助六寿司でいいかな?
あれならタイムセールで安いし……」

「ちょっと! せめて、魚の乗っている寿司にするニャン。
タイムセールで安い寿司でも良いから、最低五百円くらいは欲しいニャン!
そこの向かいの喫茶店で待っているからニャン!」

怪しいネコは、死にそうと言っていた割には元気で、後ろ足二本で移動していた。
人間のように前足で扉を開けて、喫茶店の中へ入って行った。
スーパーマーケットは、タイムセールで安くなっており、半額になっていた。
夕方の五時ごろには安くなる店だったらしく、オレ達のケーキ代も残りそうだった。

「おいおい、この七百円の特上寿司、パックが汚れているぜ!
こんな寿司じゃあ、誰も買い手なんか付かない。
そして、今は半額セールのタイムサービス中だ。
仕方ないから、三パック七百円で僕が買ってやるぜ。
いや、こんな寿司は、四パック五百円が相場のはずだ!
さあ、四パック五百円で買おうじゃないか!」

「じゃあ、四パック七百円でどうでしょうか?
どうせ売れ残りますし、その値段で良いですよ。
それなら店長も納得するはずです」

「買った!」

モコソンの主婦力によって、四パックの高級寿司が七百円で買えた。
店員さんが人が良いのも見抜いていたのだろう。
店員さんは、二十代前半の若い女性のようだ。
男性店員よりも融通が利き、売れ残りを嫌悪しているタイプらしい。

「ふふ、ここの店員さんは、チェックが甘いバイトさんだからな。
売れ残るよりは、格安で売った方がいいというタイプだ。
売れ残りは、店員の精神的ダメージも大きいから、交渉次第では格安で寿司が手に入るぜ!
まさに、計画通り!」

店を出た辺りでこう呟いている。
まさに、ネコーズが思い描いた計画的な犯行のようだ。
まあ、寿司四パック七百円でも、捨てるよりかはマシなのだろう。
時間が来れば、食べれそうな高い高級寿司でも容赦なく捨てられる。
ネコにしてみれば、エコとかほざいている割に、おかしな世の中なのだろう。



オレ達は、喫茶店『ドライアド』に入り、ネコーズと合流した。
喫茶店の窓側の席に座り、ハードボイルドな探偵を演じている。
器用に椅子へ腰掛け、ネコ用ミルクを飲んでいた。
黒い毛皮と白い毛皮が絶妙に合わさっており、首輪をした姿はスーツ姿を演出している。
オレ達が姿を見せると、途端に子供のような無邪気さを出していた。

「お、寿司が来たニャン。
さすがはモコソン、僕の予想を超えて、パック寿司を四つも買ってくるとは……。
スーパーマーケットの美女店員さんなら、多少のオマケは付けてくれると予想していたが、まさか四パックとは予想出来なかった。
せいぜい特上寿司三パック+ミニ助六寿司二パックくらいと予想していたが、できるオスは違うなモコソン!」

「ふっ、寿司パックに指紋が付いていたからね。
そこを付いて、店員さんに他の客が買う気をなくしたことをアピールした。
店員さんが売れないと思い込めば、タダ同然で売ってくれるからね。
パックも数個潰れていたことも功を奏し、結果格安で買うことができた。
まあ、事前に安く買える様に、態と寿司のパックを潰して、ネコの肉球を付けておいたのは僕らだけどね。
まんまと心理トリックに引っかかりましたよ!」

「ふっ、偶然だよ、偶然!
たまたま僕が、昼頃に触りまくった寿司が売れ残り、モコソンが格安で買う事になったとしてもね。
いや、寿司パック自らが僕らに喰われる運命を選んだという事だろう。
よく出来た寿司は、美味しく食べられる人物を選ぶ!
まさに、よく出来た世の中だよ」

ネコーズとモコソンはテーブルに着き、寿司を食べ始めた。
遠野さんとオレは、彼らから遠い席へ座ろうとする。
これ以上、こいつらといても損をするばかりだ。
できるだけ関わらない方がいい。
遠野さんがそう思って、彼らから離れようとすると、髪の毛を捕まえられた。
ネコーズが前足を使い、遠野さんを引き止めていた。
彼女の家に金があることを察知し、逃がさない気のようだ。

「ちょっと待つニャン。
ほら、僕らの隣が空いているよ。
お礼をさせて欲しいニャン。
おーい、こっちにケーキセット二つ、それとプリンとコーヒーセットを二つ!
こいつら、お金無いからツケで払うニャン。
こいつらにツケておいて来れ!」

「ハーイ、かしこまりました」

流れるような手際の良さで、こいつらの飲み食いした分までオレ達が払う事にされていた。
余りの手際の良さに、遠野さんはワンテンポ遅れて抗議し始める。
寿司とプリン代・コーヒー代で、すでに千五百円に達していた。
お礼とは何だったのだろうか?

「ちょっと、勝手に頼まないで下さいよ!
何で、私達があなた達のデザートまでお金を払わないといけないの?
お礼をしたいとか言うから、黙って聞いていたけど……。
あなた、ちょっと我儘が過ぎるわよ!」

「そりゃあ、ネコだから当然ニャン。
犬は人間に忠実だが、ネコはツンデレ・自己中が可愛いニャン。
まあ、お礼として僕達を家にお持ち帰りを許可しよう!
オッパイが小ぶりで寂しい気もするが、顔と女子力が高そうだから我慢してやるニャン。

お前の家を探偵事務所にし、僕達がそこから世界を変えてやるニャン。
光栄に思うがいいニャン。
モコソンは医者だから健康診断もできるしな。
まあ、唯一できるのは乳ガンの検査くらいだけど……」

ネコーズは、肉球で遠野さんのオッパイを触ろうとしていた。
肉球で乳輪を挟み、軽く揉む気だ。
何気ない自然な動作過ぎて、オレは遠野さんを助ける事が出来ない。
女子の勘が働き、遠野さんがその行為を事前に察知していた。

「触らないでよ!
うーん、家で飼って欲しいの?
家賃取るよ?
払える?」

「ヤチン?
何それ?」

「食べれるの?
(ネコーズの想像・ヤチン:夜の珍味、名古屋の名物でとても美味しい)」

ネコーズは目を輝かせて、遠野さんを見つめている。
何か美味いものを想像しているようだが、そんなものは存在しないだろう。
家賃の意味を教えてやると、こう言い出した。

「ああ、家賃ね。
物凄いものをあげるニャン。
僕の体を撫でてもいいニャン!
体を売ってご奉仕してやるニャン!」

「僕も羊毛を刈ってもいいぜ!
これで暖かい冬が越せるだろう。
何、礼には及びませんよ!
体に傷を付けず、優しく刈ってくれるのならね!」

二匹は、色っぽい表情をして見つめてくる。
キモい、としか言いようがなかった。
遠野さんは、飼う条件としてある事を願い求めた。

「飼ってもいいけど、お風呂とノミ取りは欠かさないでね。
トイレは、人間用のトイレで出来そうだけど……」

「おいおい、お嬢さん、ネコにお風呂なんて死ねと言っているようなものですよ。
まあ、僕の絶対防御をかいくぐり、体を洗う事ができれば許可してもいいがね。
その程度の実力がいないなら、我慢してもらうよ!
恨むなら、無力な自分を恨むがいいニャン!」

「まあ、お風呂とノミ取りするのは、私のお母さんだと思うけどね」

「ふん、四十過ぎのババアか。
僕の動きに付いて来る事さえ出来まい。
よし、一緒に住んでやるニャン!
交渉成立ニャン!」

モコソンも喜んで一緒に住む事にする。

「あ、僕は女性と一緒にお風呂に入れるなら、どちらでもOKですよ!
四十過ぎの熟女でも、十五歳の処女娘、どちらも大好物です!
三時間でもしっぽり洗ってもらっても結構ですよ!
何なら、僕をスポンジとしてお使いください!」

「ああ、羊さんはお父さんが念入りに洗ってくれると思うよ!
ジンギスカンとかも好きだし……」

「ええ! タマタマの付いたオッさんが洗うの?
まあ、機会はいくらでもあるか。
偶には、女性が洗う事もあるだろうな。
まあ、多少は我慢しますか!」

こうして怪しいネコと羊が、遠野さんの家に住む事になった。
かなり危険な奴らだが、遠野さんのお母さんなら上手く調教できるだろう。
その日の夕方、ネコと羊の叫び声が木霊した。
次の日には、表面上は大人しい動物になっていた。

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