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番外編エピソード ラブリー聖書 ソロモンの歌
第五話 シュラムの娘の逃走
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シュラムの娘はソロモンの王宮から逃げて外へ出て行った。シュラムの娘は荒野へ必死に逃げたが、折って来る者は一人もいなかった。
(誰も追って来ない? どういうことかしら? 私の家族の場所も隠れる場所も知ってるわけないのに……。とりあえず、一端、家に帰って様子を見ましょう。しばらくしたら、ソロモン王の使いが来るかもしれない。そうしたら、外国の地に逃げて生き延びよう……)
シュラムの娘はそう思いましたが、周りが暗くなっているので崖があるのに気付かず、崖から落ちて足を怪我してしまいました。立ち上がれないと悟ると、死ぬのを覚悟した。
(もう少しすると、太陽が出て来るわ……。そうしたら、熱さにやられて私の命もあとわずかとなるわね……。ふっ、ソロモン王と大人しく結婚してた方が、私にとって幸せだったのかしら……)
そんなことをシュラムの娘が考えていると、羊飼いが娘の近くを通りました。
「ありゃりゃ、変な格好の娘が倒れとるべ!
とりあえず、母ちゃんを呼ぶさ!」
シュラムの娘は羊飼いの夫婦に助けられました。
(ふっ、カッコよくて、若い羊飼いじゃなかったわ……。まあ、現実はこんなもんよね)
シュラムの娘は羊飼いに抱き抱えられ、娘の家に送ってもらいました。シュラムの娘の家族が、娘の姿を見て迎えに来ます。
「自分の愛する者に寄りかかって、荒野から上って来るこの女は誰だろう?」
シュラムの娘の家族は娘の格好を見て、一瞬誰だか分かりませんでした。
「いやー、お嬢ちゃんが倒れていたんで助けたら、ここが自分の家って言ったんで送って来ただ! んじゃ、オラは愛する妻のとこさ戻るべ、身体を大切にな!」
(あ、違ったのか……。変な格好してるからてっきり結婚式の衣装かと思ったよ……)
シュラムの娘はついに母親と会うことができました。
「リンゴの木の下で私はあなたを呼び起こしました。あなたの母はそこであなたのために産みの苦しみを味わったのです。あなたを産んだ人はそこで産みの苦しみを経験したのです。失う苦しみは経験させないでください」
シュラムの娘は母親にこう答えました。
「私に夫ができるまでは私はあなたと一緒にいます。しかし、夫ができたなら私は彼にこう言います。私を印章としてあなたの心臓の上に、印章としてあなたの腕の上に置いてください。
愛は死のように強く、全き専心に対する要求は死と同じく屈することが無いからです。その燃え盛る勢いは火の燃え盛る勢い、ヤハの炎です。大水も愛を消すことはできません。
川もそれを流し去ることはできません。
人が愛のために自分の家の貴重品をことごとく与えるとしても、人々はそれらのものをきっとさげすむでしょうと」
(ああ、早くそんな素敵な人が私の目の前に現れないかしら!)
シュラムの娘の兄達は娘に尋ね始めた。
「ソロモン王に変な事をされていないのか?
神殿を建てるまでは賢王だったが、神殿が完成すると目標が無くなって、妻を得ることばかり考えていると聞いたぞ。お前はまだ若い、まだ乳房もないような小さな妹なのだ。
(本当は、俺好みのナイスバディーだけど……。今はまだ俺の傍にいて欲しい! 俺の認めた奴意外と結婚なんてさせてたまるか!)
結婚なんてまだ早い! 結婚の申し入れがある日まで、私達はお前をどう扱おうか?」
シュラムの娘の兄達は重度のシスコンだった。
母親はシュラムの娘の一家の頭であり、全ての決定権があった。
「もし彼女が城壁であれば、私達はその上に銀の胸壁を築くであろう」
(もう誰にも捕われないように、家の家事を全てやらせよう! 外へなんかもう出したりしないわ!)
「しかし、もし彼女が扉であれば、これを杉の厚板で塞いでしまおう」
(ソロモン王に何かされていたなら、ソロモン王の元に送り付けて、慰謝料をたんまりもらい、ソロモン王には引退してもらうわ……。
そして、シュラムの娘の子を王にし、裏からイスラエル王国を支配してしまおう!)
「私は城壁です。私の乳房は塔のようです。
ただ、私はソロモン王に聖拳突きをしてしまいました。どうしたら、ソロモン王と平和な関係になれるのでしょうか?」
(ちっ、ソロモン王め、私の大切な娘に手を出そうとしたな。どんな男にもレイプされないように、極限まで身体能力を鍛えていて良かったわ。その上、女の私ですら惚れ惚れする美しい身体をしている。
ソロモン王の気持ちも分からなくはないけど、許しがたい……。ソロモン王を呼んで、高額な慰謝料を請求しないと許せないわ!)
ソロモン王は娘の母親の使いによって、ぶどう園に呼び出されました。
シュラムの娘はソロモン王にお詫びの品を渡すようにします。
「バアル・ハモンにソロモン王の所有するぶどう園がありました。王はそのぶどう園を私達番人に託しました。各々はその実のために銀千枚を持って来たものです。
私のものである私のぶどう園は、私の思い通りにすることができます。ソロモンよ、千はあなたのもの、二百はその実の番をする者達のものです」
(これは手切れ金よ!)
ソロモン王はシュラムの娘の贈り物を受け取りました。
「ああ、園の中に住む者よ、仲間の者達があなたの声に注意を払っている。私にあなたの働く声を聞かせておくれ」
(あんな野蛮な娘はもう沢山だ……。私はおしとやかで優しい娘が好みなんだ。この娘は身体は良いけど、性格に難がある。他の娘を捜そう)
シュラムの娘とソロモン王が別れると、シュラムの娘の母親がソロモン王に近付いて来ました。
「ソロモン王、私の娘に酷い事をしましたね。
何日も監禁して、あげくの果てに政略結婚を仕組み、性格が気に入らないと放置して逃げる。一人の男として最悪ですね。慰謝料としてこの辺一帯のぶどう園の所有権を渡しなさい。
そうしたら、あなたに良い情報をあげるわ。外国にいる美少女の情報よ! 取引としては悪くないと思うわ!」
「え? 本当ですか? 分かりました。この辺一帯のぶどう園はあなたのものです」
(ふっふっふ、この王は美女で釣ることができる。ちょろいもんだわ!)
ぶどう園の所有権と引き換えに、母親はソロモン王に外国にいる王女の話を聞かせ始めた。
「ありがとうございます。南西アラビアのシェバ王国にとても賢くて美しい王女がいるそうですよ。女王といっても、私の娘と年齢は変わらないらしいですけどね。
目標が無いのなら、イスラエルをしばらく良く支配して、シェバの女王に求婚してみなさいよ。温木のあなたならちょろいもんでしょう。シェバの女王の賢さに匹敵できるのは、あなたしかいないわ。頑張ってください!」
それを聞き、ソロモン王の顔つきはみるみる変わっていった。そう、かつては歴代最高の賢王と呼ばれたソロモン王の顔に!
「そうだな。私ほどのレベルになると、シュラムの娘とかいう田舎娘よりも、気品あふれるシェバの女王の方が隣に並ぶのに合っている。さっそく準備をしなければ!
さらばだ、シュラムの娘よ! 田舎者は田舎者同士、羊飼いの若者なんかと結婚して仲良く幸福に暮らすが良い!」
ソロモン王はそう言って帰って行き、母親はシュラムの娘にその話をそのまま告げました。
(よっしゃー、ソロモン王も私をあきらめたようね。これで優しい羊飼いの青年と燃えるような恋ができるわ!)
「私の愛する方よ、早く走って来てください。
香料の山上のガゼルか牡鹿の若子のようにして私の元に来てください」
その後、シュラムの娘が結婚することはなかった。
ソロモンの歌終わり。
(誰も追って来ない? どういうことかしら? 私の家族の場所も隠れる場所も知ってるわけないのに……。とりあえず、一端、家に帰って様子を見ましょう。しばらくしたら、ソロモン王の使いが来るかもしれない。そうしたら、外国の地に逃げて生き延びよう……)
シュラムの娘はそう思いましたが、周りが暗くなっているので崖があるのに気付かず、崖から落ちて足を怪我してしまいました。立ち上がれないと悟ると、死ぬのを覚悟した。
(もう少しすると、太陽が出て来るわ……。そうしたら、熱さにやられて私の命もあとわずかとなるわね……。ふっ、ソロモン王と大人しく結婚してた方が、私にとって幸せだったのかしら……)
そんなことをシュラムの娘が考えていると、羊飼いが娘の近くを通りました。
「ありゃりゃ、変な格好の娘が倒れとるべ!
とりあえず、母ちゃんを呼ぶさ!」
シュラムの娘は羊飼いの夫婦に助けられました。
(ふっ、カッコよくて、若い羊飼いじゃなかったわ……。まあ、現実はこんなもんよね)
シュラムの娘は羊飼いに抱き抱えられ、娘の家に送ってもらいました。シュラムの娘の家族が、娘の姿を見て迎えに来ます。
「自分の愛する者に寄りかかって、荒野から上って来るこの女は誰だろう?」
シュラムの娘の家族は娘の格好を見て、一瞬誰だか分かりませんでした。
「いやー、お嬢ちゃんが倒れていたんで助けたら、ここが自分の家って言ったんで送って来ただ! んじゃ、オラは愛する妻のとこさ戻るべ、身体を大切にな!」
(あ、違ったのか……。変な格好してるからてっきり結婚式の衣装かと思ったよ……)
シュラムの娘はついに母親と会うことができました。
「リンゴの木の下で私はあなたを呼び起こしました。あなたの母はそこであなたのために産みの苦しみを味わったのです。あなたを産んだ人はそこで産みの苦しみを経験したのです。失う苦しみは経験させないでください」
シュラムの娘は母親にこう答えました。
「私に夫ができるまでは私はあなたと一緒にいます。しかし、夫ができたなら私は彼にこう言います。私を印章としてあなたの心臓の上に、印章としてあなたの腕の上に置いてください。
愛は死のように強く、全き専心に対する要求は死と同じく屈することが無いからです。その燃え盛る勢いは火の燃え盛る勢い、ヤハの炎です。大水も愛を消すことはできません。
川もそれを流し去ることはできません。
人が愛のために自分の家の貴重品をことごとく与えるとしても、人々はそれらのものをきっとさげすむでしょうと」
(ああ、早くそんな素敵な人が私の目の前に現れないかしら!)
シュラムの娘の兄達は娘に尋ね始めた。
「ソロモン王に変な事をされていないのか?
神殿を建てるまでは賢王だったが、神殿が完成すると目標が無くなって、妻を得ることばかり考えていると聞いたぞ。お前はまだ若い、まだ乳房もないような小さな妹なのだ。
(本当は、俺好みのナイスバディーだけど……。今はまだ俺の傍にいて欲しい! 俺の認めた奴意外と結婚なんてさせてたまるか!)
結婚なんてまだ早い! 結婚の申し入れがある日まで、私達はお前をどう扱おうか?」
シュラムの娘の兄達は重度のシスコンだった。
母親はシュラムの娘の一家の頭であり、全ての決定権があった。
「もし彼女が城壁であれば、私達はその上に銀の胸壁を築くであろう」
(もう誰にも捕われないように、家の家事を全てやらせよう! 外へなんかもう出したりしないわ!)
「しかし、もし彼女が扉であれば、これを杉の厚板で塞いでしまおう」
(ソロモン王に何かされていたなら、ソロモン王の元に送り付けて、慰謝料をたんまりもらい、ソロモン王には引退してもらうわ……。
そして、シュラムの娘の子を王にし、裏からイスラエル王国を支配してしまおう!)
「私は城壁です。私の乳房は塔のようです。
ただ、私はソロモン王に聖拳突きをしてしまいました。どうしたら、ソロモン王と平和な関係になれるのでしょうか?」
(ちっ、ソロモン王め、私の大切な娘に手を出そうとしたな。どんな男にもレイプされないように、極限まで身体能力を鍛えていて良かったわ。その上、女の私ですら惚れ惚れする美しい身体をしている。
ソロモン王の気持ちも分からなくはないけど、許しがたい……。ソロモン王を呼んで、高額な慰謝料を請求しないと許せないわ!)
ソロモン王は娘の母親の使いによって、ぶどう園に呼び出されました。
シュラムの娘はソロモン王にお詫びの品を渡すようにします。
「バアル・ハモンにソロモン王の所有するぶどう園がありました。王はそのぶどう園を私達番人に託しました。各々はその実のために銀千枚を持って来たものです。
私のものである私のぶどう園は、私の思い通りにすることができます。ソロモンよ、千はあなたのもの、二百はその実の番をする者達のものです」
(これは手切れ金よ!)
ソロモン王はシュラムの娘の贈り物を受け取りました。
「ああ、園の中に住む者よ、仲間の者達があなたの声に注意を払っている。私にあなたの働く声を聞かせておくれ」
(あんな野蛮な娘はもう沢山だ……。私はおしとやかで優しい娘が好みなんだ。この娘は身体は良いけど、性格に難がある。他の娘を捜そう)
シュラムの娘とソロモン王が別れると、シュラムの娘の母親がソロモン王に近付いて来ました。
「ソロモン王、私の娘に酷い事をしましたね。
何日も監禁して、あげくの果てに政略結婚を仕組み、性格が気に入らないと放置して逃げる。一人の男として最悪ですね。慰謝料としてこの辺一帯のぶどう園の所有権を渡しなさい。
そうしたら、あなたに良い情報をあげるわ。外国にいる美少女の情報よ! 取引としては悪くないと思うわ!」
「え? 本当ですか? 分かりました。この辺一帯のぶどう園はあなたのものです」
(ふっふっふ、この王は美女で釣ることができる。ちょろいもんだわ!)
ぶどう園の所有権と引き換えに、母親はソロモン王に外国にいる王女の話を聞かせ始めた。
「ありがとうございます。南西アラビアのシェバ王国にとても賢くて美しい王女がいるそうですよ。女王といっても、私の娘と年齢は変わらないらしいですけどね。
目標が無いのなら、イスラエルをしばらく良く支配して、シェバの女王に求婚してみなさいよ。温木のあなたならちょろいもんでしょう。シェバの女王の賢さに匹敵できるのは、あなたしかいないわ。頑張ってください!」
それを聞き、ソロモン王の顔つきはみるみる変わっていった。そう、かつては歴代最高の賢王と呼ばれたソロモン王の顔に!
「そうだな。私ほどのレベルになると、シュラムの娘とかいう田舎娘よりも、気品あふれるシェバの女王の方が隣に並ぶのに合っている。さっそく準備をしなければ!
さらばだ、シュラムの娘よ! 田舎者は田舎者同士、羊飼いの若者なんかと結婚して仲良く幸福に暮らすが良い!」
ソロモン王はそう言って帰って行き、母親はシュラムの娘にその話をそのまま告げました。
(よっしゃー、ソロモン王も私をあきらめたようね。これで優しい羊飼いの青年と燃えるような恋ができるわ!)
「私の愛する方よ、早く走って来てください。
香料の山上のガゼルか牡鹿の若子のようにして私の元に来てください」
その後、シュラムの娘が結婚することはなかった。
ソロモンの歌終わり。
応援ありがとうございます!
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