AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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襲われた男

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「完全な安全を確保しようと思えば、やはり駆除しか方法はない……」

 龍《りゅう》はつぶやく。

 幸い、ドラゴン同士が群れになることはないそうだ。ただし、眷属を見張りに立てる。奇襲を仕掛けるのも、残念ながら困難と言わざるを得ない。

「どこかよそに注意をひきつけて、その隙に叩くしか……」

 しかし、ドラゴンはかなり注意深いという。奇襲部隊が自分の身を守れるならいいが、そうでなければ死体が増えるだけだ。魅了、変身、結界など、眷属の特性も理解しておかないと……

 龍は息を吐き、一旦資料から顔を上げた。少しだけのはずだったのに、もう数時間もたっている。資料を棚に戻して外に出ると、月が傾き山裾に消えかかっていた。

「愛生《あい》、どこにいるの?」

 一緒ならドラゴンとも戦えそう、と思う自分は甘いのだろうか。久しぶりに弱音を吐いたことを悔やみながら、龍は寝床に戻った。



 ベルトランは今日は同行できないという。見上げる馬上の彼は、申し訳なさそうにしていた。

「そろそろあなたも自分の仕事がありますものね。今日は別行動にしましょう」

 龍がそう言うと、ベルトランは控えめに笑った。

「助かります。ですが、十分気をつけてください」

 ひとりになった龍は、虎子《とらこ》を呼んだが反応はなかった。今は彼女も休んでいるのかもしれない。

 里を襲ったのなら、その辺りに潜伏しているかもしれない。龍は岩に身を隠すようにして、怪しい場所を調べていった。重点的に調べるのは岩のわずかな隙間や、自然に出来た洞窟の中になる。

「……ここにもいない」

 龍はいくつかの小さな洞窟を捜索してみた。しかし、人が隠れられそうなところには、冷たい風だけが満ちていた。茂る木の中を通って、龍は街道に戻る。

 さすがに龍も空振りばかりで少し疲れてきた頃、山の方からこちらに向かって道を行くものがいることに気づいた。森から道に視線を移し、龍は目を細めた。

 自警団か、警察か。いや、そのいずれでもない。

 背の低い、枯れ木のように痩せた男だ。酔ったように足元がふらふらしている。しかし気持ちよさそうな様子では無く、辛そうに顔を歪めていた。よく見ると、額には血のようなものがこびりついている。

 そして龍が見つけてからいくらも経たないうちに、男は倒れてしまった。

「しっかりしてください」

 龍は馬から降り、動かない男を助け起こす。頭部以外に流血はないが、頭を打っているとしたら医師に診せた方がいい。

「襲われた……いきなり、森の中から出てきて……」

 男は龍を認めると、切れ切れに語った。話をつなぎ合わせると、こうだ。道を歩いていると、森から不意に人が転がり出てきた。そいつは剣を持っていて、金品を奪おうとするでもなく、こともなげに男を殺そうとした。

「殺すために来た……あなた、狙われるような覚えがあるんですか?」
「わかりません……そして、出てきたのは、そいつだけじゃなかった……」

 後から、数人の若い男たちが出てきて、最初の殺し屋と小競り合いを始めたのだという。そのおかげで、男は最小限の被害で逃げ出すことができた。

「仲間ではなさそうだったんですね?」

 龍の言葉に、男は同意した。

「夜盗……」

 そういえば、夜な夜なロンクの店を襲う者たちの特定は全くできていなかった。多くの被害が出ているというのに、そちらもおろそかにしてはおけない。数人いたのなら、本隊はもっと大所帯かもしれない。ここで情報が得られたのは、龍にとって運が良かった。

「置いていくのが一番、病態にとってはいいんだろうけど……」

 龍は森を見つめた。

 とりあえず龍は彼を荷物のようにくくりつけて馬を走らせ、なんとか街の前にいた警察に引き渡した。そしてとってかえし、さっきの場所から周囲を見渡す。

「応援は呼ばないの?」
「里の殺人に手を焼いている彼らに、無駄な負担はかけたくありません。虎子、この周辺に人の反応は?」

 今度はすぐに返答があった。

「一キロほど先に野営が見える」

 正確な場所に誘導してもらって、龍は周囲を見渡した。

 におい。むっと鼻の奥につく、不潔なもの。何か、排泄物のそれだ。虎子が困惑したように言った。

「お姉ちゃん……そのまま真っ直ぐ進んじゃダメだよ。地面掘っただけの簡易トイレがあるから」
「汚い……」

 せめてちゃんと目立たないように埋めろ。龍は心の中で毒づきながら、虎子の指示に従って迂回していった。程なくして、白い布のようなものが見えてくる。

「あれが野営ね?」
「うん」

 奥まった窪地にテント状の幕を張り、そこで賭博をやって騒いでいるようだった。入り口を開け放しているので、コインの転がる音と賑やかな声が外にまで聞こえている。

 天幕の側でちょうど煮炊きをしているらしく、たき火の炎がちろちろと見えた。

「スープはそろそろできるぞ」
「米はもうちょっとだな。おい、こぼすなよ」
「分かってるって」

 聞こえてくる声からして、外にいるのは三人。いずれも背が高くがっちりしていて、屈強そうな男だ。人相はいずれも善人には見えない。
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