AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

文字の大きさ
86 / 101

もの問う石像

しおりを挟む
 少女たちは不思議な力を持っていて、近くを歩こうとするものにすぐ気づく。たとえ、注意深く後ろを通り抜けたとしても。

「せいぜい進めて二・三歩。それ以上行けば少女たちの集中砲火にあう」

 道具を駆使して捕獲しようとしても焼き払われ、倒すなどもってのほかだったという。

 ノアは深いため息をついて前を指さした。

「失敗してみろ、あのだだっ広い場所じゃ、逃げる場所も隠れる場所もない」
「それはそうだが……」
「ほら、あそこに見えるだろう? あの黒いのは、歩き始めてすぐに焼かれた死体の群れだ。冒険者がグループ丸ごと。ああなっちまうとどうしようもなかった、って先に来た連中は言ってた」

 愛生《あい》はそれに目をやって、唸った。

「……正直に教えてくれてどうもな。それでさっきの先遣隊が不満そうに帰ってきたわけか」
「いや、完全に空手ってわけじゃない。見つけてきたものがある。それで、お前の知恵を借りたいと思ってな」

 ノアはそう言って手招きした。

「あっちに腰を下ろしてる奴がいるだろ」

 愛生はノアの手の先を覗く。

 荒野の一番手前、愛生の左手側に、大きな石像のような灰色の眷属が座り込んでいる。ちょうど神社の前に立っている狛犬のような格好で、太い首はほとんど肩に埋もれ、足は太く短い。

 その獣の胸には、こう刻まれていた。

「仲間外れの少女を探せ」
「広場にいる少女は、必ず一番近い少女だけを見つめる」
「見つけた者、ここを無事に通るべし」

 愛生は苦笑した。急に現れてドラゴンを倒せと言うかと思ったら、今度はクイズのまねごとか。

「何考えてるんだ、ゲームマスター……?」

 密かにつぶやいた愛生だったが、それに回答はなかった。相変わらず行方の分からないマスターだ。

「これは課題だと思うんだ。謎かけが好きな魔物もいるっていうから、この問いに答えれば、なんとかなるんじゃないかと思ってな」

 愛生は考えた。黙っている様子が不安だったのか、ノアが慌て出す。

「どうした。やっぱりここは、俺たちが通っちゃいけない場所なのか……?」
「いや」

 愛生たちは決して無力ではない。愛生が想定している内容の問題なら、別にズルをしなくても突破できるだろう。渋面をしているのは、そんな理由ではないのだ。

 本当に意味ありげなその言葉を守る気があるのか、それが問題なのだ。



 その日は結局、洞窟に帰って寝てしまった。翌日、日が昇ってから、改めて愛生は全員の状態を検分する。ノアが考えすぎてろくに眠っていない様子だったが、他の連中の顔つきはまあまあだった。

「今日はあの眷属をやっつける。進む準備をしよう」

 愛生が切り出すと、話し声がぴたっとやんだ。

「大丈夫かよ。あの質問の答えが分かったのか?」
「ああ」
「自信があるのはいいが……こっちに迷惑かけないでくれよ」

 他の面子は困っていたが、ノアは愛生の意見を尊重し、とりあえず好きにしろ、と言ってくれた。

 一行は最低限の荷物を持って洞窟を出る。愛生が失敗したとき、素早く逃げるためだ。その可能性もあるのだから、愛生は気にせず先に進んだ。

「見えたぞ」

 昨日、観察したのと同じ場所に着いた。愛生は石像を見上げ、次いで荒れ果てた土地の少女たちを見た。配置は変わっていない。

「ここで待っててくれ」

 男たちを五十メートルくらい後方に残し、愛生は前に進み出る。

「挑戦者は俺だ」

 その場が静まりかえる中、石像は愛生に冷たい視線を向け、嘲笑うように低く鳴いた。愛生はそれを承認ととり、正面を見つめたまま弟を呼び出す。

「京《けい》。あそこに立ってる女が何人いるか数えろ」
「一人、二人、三人……あれ、あの子数えたっけ?」

 京はそう言ってぽかんとしている。度しがたい。とうとう算数まで不確かになったか。歴代の家庭教師たちがさぞ嘆きそうな惨状だ。

「適当でいい?」
「誰がそんなこと言うか。補助のマーカーとか付箋とか、なんでもいいから使って数えろ!! 数え終わったら俺に位置も教えるんだ」

 愛生は深い深いため息をつきながら指示した。

「……全部で十五人。何回も確認したぞ」

 情報を整理する。もちろん、京が間違っていた場合に備えて、実物と見比べることも怠らなかった。

 ようやく正確なデータを手に入れた愛生は、眷属をまとめる石像を見つめた。依然、それは冷たく、人間たちをゴミのように見下ろしている。

 そんな目ができるのも今日限りだ。

 愛生はそう思ったが、できるだけ静かな口調できりだし始めた。

「分かったので答えたいんだが」
「よかろう」
「まず仲間はずれの意味だ。少女は必ず、側の誰かを見ている。それは全員共通だ。しかし、一人だけ、誰からも『見られていない』少女が存在する。そいつが仲間はずれだ」

 石像はうなずきも否定もしない。愛生はさらに続けた。

「これは細かい間違い探しというより、数学の問題だ。俺の仮説を証明するために、まずここに、仲間はずれの少女なんていないと仮定してみよう」

 龍《りゅう》と一緒によく解かされた、数学クイズ。最初は嫌いだったが、それがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。愛生は苦笑する。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...