光速文芸部Ⅳ~ゲーム・オーバー~

きうり

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第一章

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君とふたり 色つきのチェスした/GAME OVER
夢を見てた 今ステレオな夜/GAME OVER
 スパイラル・ライフ『GAME OVER ~魅惑のモンキー・マジック~』

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 二十数年ぶりに図書館の蔵書室の扉を開けた。
「……懐かしいわね」
 それしか言葉が出なかった。自分なりに感慨を込めたつもりだったが、同行していた簑浦真琴(みのうら・まこと)さんはそうは感じなかったようだ。
「でも優実(ゆみ)先生、あまり懐かしそうじゃないですね。――あ、もしかしていつもみたいに顔に出てないだけですか」
「そうよ。さすがね」
 苦笑がもれる。
 真琴さんは、ここ九院高校(くいんこうこう)の二年生だ。先日衣替えしたばかりの夏服から伸びる長い手足と、さっぱりとしたショートヘアの組み合わせがまぶしい、自称「小説オタク」の文藝部員である。
 今やアラフォーの私は、頻繁に文藝部のOB兼ゲストとして呼ばれて、読書会のまとめ役やら文章の書き方講座の講師などをやらされている。それで彼女とは、表情を読みあえる程度の仲になっているのだった。
「優実先生は今まで何度も学校に来てたのに、図書館には入らなかったんですか。どうして?」
「なんとなく、聖域のような気がしたのよね」
 私たちは本棚が並ぶ蔵書室に足を踏み入れた。教室という場所がどうしようもなく居心地が悪い連中――私は勝手にルーザーズ・クラブと呼んでいた――が昼休みや放課後になると、ここによく集まっていたっけ。今もそういう生徒たちのたまり場のようになっているのだろうか。
「先生の書いた小説でも、そういう短編がありましたね。行こうと思えばいつでも行けるのに、懐かしさが逆にそこに行くことを拒む……みたいな」
 先生と呼ばれるだけで未だに面映ゆいのに、デビュー直後に書いたたどたどしい短編小説を引き合いに出されると、体がムズムズする。しかしさすが、私のエッセイや小説を全部読んだと豪語するだけあって、彼女の指摘は何より的確だった。
「まさにそれね」
 とだけ答えて、私は室内を見回した。冷たい態度に見えるかも知れないが、昔からこういう言動なのだ。かつてのルーザーズ・クラブの連中からは「図書室の女王」なんてあだなをつけられていた程だ。むしろ、これでも文藝部の少年少女には精一杯優しく接している方で、真琴さんは私のそういう面にも理解があるので助かっている。
「さて、旦那様の著作をゲットしなくちゃ、ですね」
「そう、まさにそれなのよ」
 真琴さんのひと言で、目に力がこもる。
 私の夫であり、小説家でもある高柳錦司(たかやなぎ・きんじ)が書いた二十年前に書いた、あの冊子――。それが、この図書館に今も眠っているというのだ。
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