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第四章
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図書館の司書室にはレモンさんがいた。事務員の女性で、私よりもひとまわりくらい下のお姉さんである。本名は礼門(れいもん)さんといい、背が高く、明るい茶色の髪はざっくりしたボブカットで整えられており、外見は少しギャルっぽい。
「へー、そんな冊子があったんだ。あたし蔵書室の本とか見ないから知らなかった」
大まかな事情を真琴さんから聞いた彼女は言った。図書館の事務員として雇われてはいるが、彼女がふだん読むのは漫画ばかりだそうだ。
「ま、どうぞ。今は司書の先生もいないからテキトーで」
空いている椅子に座った私と真琴さんに、レモンさんはお茶を出してくれた。彼女の、あまり細かいことを気にしないテキトーな言動に安心感をおぼえるのか、密かに彼女に憧れている男子生徒も多いとか。
「でも変だな。優実先生の話だとさ、その倉持っていう人、この図書館に最近来て蔵書室まで覗いてったんだよね。あたしがいる時にそんな人が来たら、すぐ気付くよ」
「そうなんですか?」
「うん。卒業生とか、ちょっと調べ物をしたいっていう人はたまーに来るから、人が来ること自体は珍しくないけどね。でも、中年男性が一人で本棚覗きに来た覚えはないなあ。一応、不審人物が入ってこないかチェックする役目もあるからね。大体、不審者といえば中年男性って相場が決まってるから気を付けてるもん。変だなあ――」
レモンさんは偏見丸出しの言い方をしながら首をかしげ、私が事務机の上に置いておいた『21th Century Flight』を手に取ると無造作にページをめくっていった。すると真琴さんが慌てたように、
「あっレモンさん、それ優実先生まだ読んでない」
「げっ、もしかしてヤバかった? すんません、メンゴメンゴ」
「別に構わないわよ」
本当に気にしていないのだが、こういうとき、私の言い方は怒っているように聞こえがちだ。レモンさんは恐縮して冊子を返してきた。するとそこで、中に挟まっていた一枚の紙片が机の上に落ちた。
「ん? 何これ」
私はそれを拾い上げる。そこにあったのは驚くべき文言だった。
『ゲームクリアー! 報酬はレモンケーキだよ。準備して待ってる。錦司』
「何これ。あいつ、先回りして来てたの?」
思わず目を見開いて大声を上げていた。
「えっ、なになに?」
真琴さんも覗いてきた。隠すのも変なので見せると、
「優実先生レモンケーキ好きなんですか? そういえば前に書いた小説で登場人物が食べてましたよね。――いや問題はそうじゃないか。これってどういうことです?」
と、彼女も混乱した言葉を発していた。レモンさんまでその紙片を覗き込んできて、
「へえ、レモンケーキって食べたことないけどおいしそう。あたしの場合、共食いになっちゃうけどねアハハ~。で、優実先生、これってどういうこと?」
「こっちが聞きたいわ。「めちゃくちゃ混乱してる」思わず頭を抱えた。「まずは状況を整理したいんだけど、レモンさん、あなたさっき言ったわよね……最近、中年男性が一人で図書室に来たことはなかったって」
「うん、なかったー」
「でも錦司は――私の夫は、明らかに先回りしてここに来てるのよ。そしてこの冊子に紙片を挟んでる」
しかもそれは、私が倉持くんと電話で話して以降のことだから、明らかにごく最近だ。するとそこで、真琴さんは言った。
「倉持さんっていう人は、実際には来てないんじゃないですか? 冊子があるのを確認したのは、高柳先生だったのかも。そのずっと前に倉持さんから、冊子を隠しておいたことを聞かされていたとか」
確かに倉持くんは電話口で「この間行ってみたらまだちゃんと本棚に残ってて」と言っただけで、主語が曖昧だった。実際にそれを見つけたのは錦司で、倉持くんはそのことを錦司から聞いたのかも知れない。
「でも、私が冊子の存在を倉持くんから聞いたのを知って、錦司は知らんぷりしてこっそり先回りしてここに来たわけよ。問題は変わらないわ。彼はレモンさんに見つからずにどうやって紙片を挟みに来たの?」
「不思議ですねー」レモンさんも首をかしげる。「でも本当に、そんな感じの男の人が一人で来たのなんて覚えがないですよ。なんかトリック使ったんじゃないですか?」
図書館の司書室にはレモンさんがいた。事務員の女性で、私よりもひとまわりくらい下のお姉さんである。本名は礼門(れいもん)さんといい、背が高く、明るい茶色の髪はざっくりしたボブカットで整えられており、外見は少しギャルっぽい。
「へー、そんな冊子があったんだ。あたし蔵書室の本とか見ないから知らなかった」
大まかな事情を真琴さんから聞いた彼女は言った。図書館の事務員として雇われてはいるが、彼女がふだん読むのは漫画ばかりだそうだ。
「ま、どうぞ。今は司書の先生もいないからテキトーで」
空いている椅子に座った私と真琴さんに、レモンさんはお茶を出してくれた。彼女の、あまり細かいことを気にしないテキトーな言動に安心感をおぼえるのか、密かに彼女に憧れている男子生徒も多いとか。
「でも変だな。優実先生の話だとさ、その倉持っていう人、この図書館に最近来て蔵書室まで覗いてったんだよね。あたしがいる時にそんな人が来たら、すぐ気付くよ」
「そうなんですか?」
「うん。卒業生とか、ちょっと調べ物をしたいっていう人はたまーに来るから、人が来ること自体は珍しくないけどね。でも、中年男性が一人で本棚覗きに来た覚えはないなあ。一応、不審人物が入ってこないかチェックする役目もあるからね。大体、不審者といえば中年男性って相場が決まってるから気を付けてるもん。変だなあ――」
レモンさんは偏見丸出しの言い方をしながら首をかしげ、私が事務机の上に置いておいた『21th Century Flight』を手に取ると無造作にページをめくっていった。すると真琴さんが慌てたように、
「あっレモンさん、それ優実先生まだ読んでない」
「げっ、もしかしてヤバかった? すんません、メンゴメンゴ」
「別に構わないわよ」
本当に気にしていないのだが、こういうとき、私の言い方は怒っているように聞こえがちだ。レモンさんは恐縮して冊子を返してきた。するとそこで、中に挟まっていた一枚の紙片が机の上に落ちた。
「ん? 何これ」
私はそれを拾い上げる。そこにあったのは驚くべき文言だった。
『ゲームクリアー! 報酬はレモンケーキだよ。準備して待ってる。錦司』
「何これ。あいつ、先回りして来てたの?」
思わず目を見開いて大声を上げていた。
「えっ、なになに?」
真琴さんも覗いてきた。隠すのも変なので見せると、
「優実先生レモンケーキ好きなんですか? そういえば前に書いた小説で登場人物が食べてましたよね。――いや問題はそうじゃないか。これってどういうことです?」
と、彼女も混乱した言葉を発していた。レモンさんまでその紙片を覗き込んできて、
「へえ、レモンケーキって食べたことないけどおいしそう。あたしの場合、共食いになっちゃうけどねアハハ~。で、優実先生、これってどういうこと?」
「こっちが聞きたいわ。「めちゃくちゃ混乱してる」思わず頭を抱えた。「まずは状況を整理したいんだけど、レモンさん、あなたさっき言ったわよね……最近、中年男性が一人で図書室に来たことはなかったって」
「うん、なかったー」
「でも錦司は――私の夫は、明らかに先回りしてここに来てるのよ。そしてこの冊子に紙片を挟んでる」
しかもそれは、私が倉持くんと電話で話して以降のことだから、明らかにごく最近だ。するとそこで、真琴さんは言った。
「倉持さんっていう人は、実際には来てないんじゃないですか? 冊子があるのを確認したのは、高柳先生だったのかも。そのずっと前に倉持さんから、冊子を隠しておいたことを聞かされていたとか」
確かに倉持くんは電話口で「この間行ってみたらまだちゃんと本棚に残ってて」と言っただけで、主語が曖昧だった。実際にそれを見つけたのは錦司で、倉持くんはそのことを錦司から聞いたのかも知れない。
「でも、私が冊子の存在を倉持くんから聞いたのを知って、錦司は知らんぷりしてこっそり先回りしてここに来たわけよ。問題は変わらないわ。彼はレモンさんに見つからずにどうやって紙片を挟みに来たの?」
「不思議ですねー」レモンさんも首をかしげる。「でも本当に、そんな感じの男の人が一人で来たのなんて覚えがないですよ。なんかトリック使ったんじゃないですか?」
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