光速文芸部Ⅳ~ゲーム・オーバー~

きうり

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第五章

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「優実先生」真琴さんが言った。「高柳先生がレモンさんの監視をすり抜けられた理由、ひとつ思いつきました」
「本当? どういうトリック?」
「トリックというと大げさですけど、高柳先生はこの図書館を訪れた時、いわば『心理的に見えざる男』だったんじゃないでしょうか。それによって、きっと先生は『不審な一人の中年男性』というカテゴリーから外れて、レモンさんの印象に残らない、透明な存在になってしまったんです」
 何やら古典推理小説の名探偵みたいな口ぶりだ。
「つまりこういうことです。優実先生が、図書館に眠る『21th Century Flight』の存在を聞きつけたので、高柳先生はイタズラ心を起こして、先回りしてこの紙片を冊子に差し込んでおくことにしました。きっと、優実先生が必ずそれを取りに行くと考えたんでしょうね」
「そうね」
「おそらくその時、高柳先生は娘さんと一緒だったんじゃないでしょうか。考えてみると不思議ですけど、中年男性が一人で歩いていると不審に思われることがあるかも知れませんが、小さい子供を連れていると、そうでもないですよね」
 私は思わず、あ、と声を上げていた。そうか、錦司は私が執筆に集中しているときなど、あえて娘をドライブに連れ出したりしてくれる。もしかするとその時に、ドライブがてら娘と一緒にこの図書館を訪れたのかも知れない。
「もちろん、高柳先生には自分を『見えざる男』にする意図はありません。ここは卒業生もよく来ますし、気が向いたらふらっと訪問すればいいだけの話です。ただ、その時はたまたま子連れだったので『一人の中年男性』とは見なされなかったんです」
 なるほど。それに、幼児の子守りをしている人は「不審人物」とは見なされにくいものだ。そしてそれゆえに、余程のインパクトがない限り印象にも残りにくい。錦司は娘を連れていたから、「一人の中年男性」でも「不審人物」でもない存在になっていたのだ。
「子連れの男の人か……」レモンさんは、真琴さんの推理を聞いて必死に記憶を辿っているようだ。「そう言われるとなんか心当たりあるけど、もしかして」
「レモンさん、高柳先生の顔は知らないですよね」
「知らない。あたし漫画しか読まないし、作家先生の顔なんて」
「この人です。――子連れで来ませんでしたか?」
 と言って、真琴さんはパパパッと高柳錦司の「著者近影」の写真をネットで検索した。そしてレモンさんに見せたところ、
「あ、やっぱりこの人! たまに来る!」
 と目を見開いていた。
「てか何、この人が優実先生の旦那?」レモンさんはびっくり仰天。「いつもあたし、わーめっちゃカッコいいお兄さん今日も来たラッキー! って私思ってて、でもこの間は子連れだったからがっかりしたんだよー。優実先生ずっりぃ!」
 と、口を尖らせて身もだえしていた。つまりそういうことだ。彼は今までもこの図書館を訪れていた。それで、いつかの時点で『21th Century Flight』の存在を知ったのである。倉持くんはおそらく彼からその話を聞いて、巡り巡ってそれが私の耳に入った。そして、それを知った錦司は、イタズラ心を起こしてこの紙片を挟みに来たというわけだ。
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