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第二章

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   二
「ひどいな優実ちゃん、待っててくれって言ったのに」
 程なく倉持君も来た。ぼやきつつも笑顔で傘を閉じている。
「おっ高柳も来てたか。まさか約束忘れてないよな?」
 彼が腕時計を見つつ問うと、高柳君は大丈夫だよと答えた。約束?
「こいつ、これから女の子に会いに行くんだぜ」
 倉持君は悪戯っぽく私に説明する。
「その言い方は言葉足らずに感じるよ」
 高柳君は冷静だ。その瞳は、風のない水面のように澄んでいる。
「勿論わざとさ。ほら、優実ちゃんも気になってる」
「なってないわ」
 知らず、ワープロの電源を入れる指に力がこもる。文藝部にただ一台のU1-PROだ。
「勿論、説明してもらうに越したことはないけど。こそこそ部活を抜け出して女の子に会いに行かれるくらいならね」
 出任せである。だが言ってから気付いた。こそこそ会いに行くなら最初から説明しておくべきだ──。これは真実だと思う。だから倉持君は、こんな風に話を誘導したのか。
 高柳君は読んでいた本を閉じた。
「これは、以前悪いことをした罪滅ぼしなんだ」
「悪いこと? 意外ね。何があったの」
「どこから話すといいだろう、倉持君」
 彼は聞く。それは聞かれた方にとっても思いがけなかったようだ。
「それを俺にふるのか。ええと、時系列で言えば……」
「僕が相談を受けたところかな」
「おお。そこだろうな」
 彼は続けてこう呟いた。
「そういえば俺とお前が知り合ったのも、これがきっかけだったな」
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