9 / 86
一章 私が消えるまで
9話
しおりを挟む
結局、エルマを見つけられないまま、翌朝になった。
「……はぁ」
王城の廊下を歩きながら、ため息をもらす。
エルマと話ができなかったこともそうだけど、ノクト殿のこともため息がもれた原因だった。
「ノクト殿……」
あんな苦しそうな顔、初めて見た。
深く傷つけてしまった彼と、もう一度笑い合える仲に戻れるのかな。
まだ隠し事をしたままの私と、まっすぐな彼。
「早く陛下に会えれば――」
竜王陛下に運命の番のことを話せば、他の誰に言っても問題はなくなる。
月に一度の面談をどうにかしてずらせれば、あるいは。
だけど、面談はしたばかりだ。
それもエルマの乱入という形で終わりを告げた。
竜王陛下は、言った。
エルマこそが運命の番だと。
でも、それでは、私がまだ王太子だった頃の陛下を見て、沸き上がった感情は何だったのか。
私の中に残る温かな記憶の正体は、何なのか。
「全部、ただの夢なのかな……」
いっそのこと、そう思った方がいい。
そうすれば、エルマと竜王陛下のことを素直に祝福できるし、ノクト殿に隠し事もなくなる。
エルマのあのときの表情も、番を取られるのを危惧した顔だと納得できる。
でも。
心が、そうではない、と告げていた。
「独り言をつぶやいて、どうしましたか、団長」
「――あ」
後ろから聞こえた声に思わず振り向く。
穏やかな、声。
まるで敵意や憎しみなんて感じられない。
でもその中からは、確かに以前は感じられたはずの『親しみ』が消えていた。
「……ノクト殿」
ノクト殿は、私と目が合うと首を傾げた。
「どうされました? 顔色が悪いですよ」
微笑みさえ浮かべているその顔からは、けれど一切の友愛が感じられない。
……ああ、私は。
「ノク――」
「今朝は良い天気ですね。これなら朝礼も外でできそうだ」
窓から差し込む陽光に、金の瞳が反射して、目が眩しい。
その眩しさに眩んだ瞬間に、追い抜かれる。
「――ノクト殿」
待って、いかないで。
私、まだ、あなたに……。
大切な師で友人で副団長の彼を引き留めようと伸ばした手は、届くことなく宙をかく。
それは、明確な拒絶だった。
「ああ、そういえば」
ノクト殿が振り返らないまま、足を止めた。
「今朝の朝礼には、竜王陛下がいらっしゃるようですよ」
「……はぁ」
王城の廊下を歩きながら、ため息をもらす。
エルマと話ができなかったこともそうだけど、ノクト殿のこともため息がもれた原因だった。
「ノクト殿……」
あんな苦しそうな顔、初めて見た。
深く傷つけてしまった彼と、もう一度笑い合える仲に戻れるのかな。
まだ隠し事をしたままの私と、まっすぐな彼。
「早く陛下に会えれば――」
竜王陛下に運命の番のことを話せば、他の誰に言っても問題はなくなる。
月に一度の面談をどうにかしてずらせれば、あるいは。
だけど、面談はしたばかりだ。
それもエルマの乱入という形で終わりを告げた。
竜王陛下は、言った。
エルマこそが運命の番だと。
でも、それでは、私がまだ王太子だった頃の陛下を見て、沸き上がった感情は何だったのか。
私の中に残る温かな記憶の正体は、何なのか。
「全部、ただの夢なのかな……」
いっそのこと、そう思った方がいい。
そうすれば、エルマと竜王陛下のことを素直に祝福できるし、ノクト殿に隠し事もなくなる。
エルマのあのときの表情も、番を取られるのを危惧した顔だと納得できる。
でも。
心が、そうではない、と告げていた。
「独り言をつぶやいて、どうしましたか、団長」
「――あ」
後ろから聞こえた声に思わず振り向く。
穏やかな、声。
まるで敵意や憎しみなんて感じられない。
でもその中からは、確かに以前は感じられたはずの『親しみ』が消えていた。
「……ノクト殿」
ノクト殿は、私と目が合うと首を傾げた。
「どうされました? 顔色が悪いですよ」
微笑みさえ浮かべているその顔からは、けれど一切の友愛が感じられない。
……ああ、私は。
「ノク――」
「今朝は良い天気ですね。これなら朝礼も外でできそうだ」
窓から差し込む陽光に、金の瞳が反射して、目が眩しい。
その眩しさに眩んだ瞬間に、追い抜かれる。
「――ノクト殿」
待って、いかないで。
私、まだ、あなたに……。
大切な師で友人で副団長の彼を引き留めようと伸ばした手は、届くことなく宙をかく。
それは、明確な拒絶だった。
「ああ、そういえば」
ノクト殿が振り返らないまま、足を止めた。
「今朝の朝礼には、竜王陛下がいらっしゃるようですよ」
1,373
あなたにおすすめの小説
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜
水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」
効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。
彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。
だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。
彼に残した書き置きは一通のみ。
クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。
これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる