間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理

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一章 私が消えるまで

15話

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 ミルフィア、その名はーー。
「……どうして」
 呆然とエルマを見つめる。
 エルマは楽しそうな顔で首を傾げた。

「もっと言いましょうか? ハロルド陛下は、アレックスという名であなたはアレクと呼んでいた」
「……っ」

「婚約をしたのは5歳の頃で、二人で初めてダンスを踊った夜会のドレスの色は、青」

 私の大切な記憶がすらすらと告げられていく。

「……どうして」

 エルマは、クスクスと笑う。
「疑問に思わなかった? なぜ、私がハロルド陛下の番になれたのか」

「それは……」
「そうよね。あなたという『本物の』運命の番がいるのに、ハロルド陛下は私を運命だと認めた」

 ーー私が、本物。
 では、エルマは?

「全部話してもいいけれど、それはそれでつまらないわね」

 エルマは私の顔を覗き込んだ。

「あら、顔色が悪いわよ。大丈夫?」
「っ、エルマーー」
「私ね、今でもあなたのこと、親友だって思ってる。だって、こんなに素敵な立場、他にないわ」

 ぎゅっと、抱きつかれてたたらを踏む。
「大好きよ、ロイゼ。私たち、ずっと親友でいましょうね」
「ーー!」

 悪意に満ちたその言葉にエルマを突き飛ばす。
 エルマが、床に倒れ込んだ。

「……酷い」
「エルマ、いい加減にーー」

「酷いわ! 私がハロルド陛下の運命の番なのに、それに嫉妬して自分こそが運命だと突き飛ばすなんて!!!!」


「エルマ、なにを……!?」
 急に大声をあげたエルマにはっとする。
 いつの間にか、防音魔法は切られていた。

 強く扉が叩かれる。

「エルマ、何があったーー」

 その声を聞き違えるはずもない。
「……ハロルド陛下、私、わたしっ」

 エルマが涙声で扉にむかって、声をかける。

「入るぞ!」

 その言葉と共に竜王陛下、それにノクト殿が入ってくる。

 扉の外には他にも大勢の隊員がそわそわと様子を伺っているのが見えた。

「……エルマ」
 竜王陛下は、エルマに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「わたし、ロイゼと話したくてーー、ロイゼがハロルド陛下のこと好きだったの知ってたから。私、ロイゼに許されたかったの。……でもっ、でもっ」


 エルマがしゃくりをあげる。

「ロイゼが……、私のこと突き飛ばして、自分こそがハロルド陛下の運命の番だって」
「……話はわかった」

 竜王陛下がエルマの言葉に頷いて、エルマを庇うように肩を抱く。

 私はその様子を呆然と見ていた。

「……その様子を見るに、申し開きはないようだな」
 竜王陛下の冷たい声にはっ、とする。

「ちがーー」
「言ったはずだ。エルマへの侮辱は私へのものと同義。それに、私の番を騙るとは」
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