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三章 私という存在
18話
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「……ありがとう、カイゼル」
言葉には打算がなく、素直な賞賛だった。
だから、私も素直に受け止められた。
「いいえ。では、銀行までご案内しますね」
カイゼルにエスコートされて、街を歩く。
さすが王都なだけあって、活気がある。
はぐれないように気をつけているうちに、あっという間に銀行に着いた。
「近いのね」
「はい。足は痛まれませんか? 近くなので徒歩の方が早いと思い、馬車は使いませんでしたが……」
きめ細やかな心配に思わず、微笑む。
「ありがとう。歩調を合わせてくれたおかげで、靴擦れもしてないわ」
「いいえ……本当に彼の方とは大違いだ」
彼の方? 誰のことだろう。
小さく呟かれた言葉に首を傾げる。
「あぁ、いえ。ロイゼ様の前でする話ではありませんでした。申し訳ございません」
「いいえ、謝る必要はないわ。それより……」
なぜだか、その人のことが気になり、深く聞きたくなった。
「ーーロイゼ?」
自分の名前に思わず、振り向く。
「……」
目の色も、なんなら髪の色も違う。
でも、この顔と声はーー。
「陛下?」
ーー竜王陛下が銀行の前に立っていた。
頭の中で囁く知識によると、竜王陛下の財産は、城で管理されているはずだ。
つまり、ここにはない。
それなのに、なぜ銀行に来ているのだろう。
竜王家特有の色を隠しているあたり、いかにもお忍びなのだろうけれどもーー。
「……ああ。この姿では、ハロルドと」
陛下とこの国で呼ばれるのは、竜王のみだ。
だから、陛下呼びではせっかくの変装も台無しだろう。
「かしこまりました、ハロルド様」
陛下は頷くと、周りにいた側近らしき人たちに合図をする。
すると、側近たちは人混みに溶け込んでいってしまった。
……その様子を眺めていて、はっとした。
まだ、お礼を言っていない。
「ハロルド様、たくさんの贈り物をありがとうございました」
「急いで用意したので、君が気に入ったものがあったなら良いのだが。……そのドレス、とても似合っているな」
「ありがとうございます。ハロルド様のおかげで、快適に過ごしております」
丁寧に、礼をする。
今着ているドレス代と他のドレスの返品の件……はわざわざ立ち話でする話ではないかな。
それに竜王は多忙、という知識も浮かんできた。これ以上時間を取らないために、別れの挨拶をしよう。
「本件については、また後日改めて、お時間をいただけましたらと思います。それでは、失礼いたーー」
「待ってくれ」
挨拶の途中で陛下に遮られ、首を傾げる。
「はい、いかがなさいましたか」
「なぜ、そんなにも他人行儀なんだ」
言葉には打算がなく、素直な賞賛だった。
だから、私も素直に受け止められた。
「いいえ。では、銀行までご案内しますね」
カイゼルにエスコートされて、街を歩く。
さすが王都なだけあって、活気がある。
はぐれないように気をつけているうちに、あっという間に銀行に着いた。
「近いのね」
「はい。足は痛まれませんか? 近くなので徒歩の方が早いと思い、馬車は使いませんでしたが……」
きめ細やかな心配に思わず、微笑む。
「ありがとう。歩調を合わせてくれたおかげで、靴擦れもしてないわ」
「いいえ……本当に彼の方とは大違いだ」
彼の方? 誰のことだろう。
小さく呟かれた言葉に首を傾げる。
「あぁ、いえ。ロイゼ様の前でする話ではありませんでした。申し訳ございません」
「いいえ、謝る必要はないわ。それより……」
なぜだか、その人のことが気になり、深く聞きたくなった。
「ーーロイゼ?」
自分の名前に思わず、振り向く。
「……」
目の色も、なんなら髪の色も違う。
でも、この顔と声はーー。
「陛下?」
ーー竜王陛下が銀行の前に立っていた。
頭の中で囁く知識によると、竜王陛下の財産は、城で管理されているはずだ。
つまり、ここにはない。
それなのに、なぜ銀行に来ているのだろう。
竜王家特有の色を隠しているあたり、いかにもお忍びなのだろうけれどもーー。
「……ああ。この姿では、ハロルドと」
陛下とこの国で呼ばれるのは、竜王のみだ。
だから、陛下呼びではせっかくの変装も台無しだろう。
「かしこまりました、ハロルド様」
陛下は頷くと、周りにいた側近らしき人たちに合図をする。
すると、側近たちは人混みに溶け込んでいってしまった。
……その様子を眺めていて、はっとした。
まだ、お礼を言っていない。
「ハロルド様、たくさんの贈り物をありがとうございました」
「急いで用意したので、君が気に入ったものがあったなら良いのだが。……そのドレス、とても似合っているな」
「ありがとうございます。ハロルド様のおかげで、快適に過ごしております」
丁寧に、礼をする。
今着ているドレス代と他のドレスの返品の件……はわざわざ立ち話でする話ではないかな。
それに竜王は多忙、という知識も浮かんできた。これ以上時間を取らないために、別れの挨拶をしよう。
「本件については、また後日改めて、お時間をいただけましたらと思います。それでは、失礼いたーー」
「待ってくれ」
挨拶の途中で陛下に遮られ、首を傾げる。
「はい、いかがなさいましたか」
「なぜ、そんなにも他人行儀なんだ」
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