黒幕系ヴァンパイアの旦那様に殺される予定の妻ですが、一向に殺されません~それどころか、いつの間にか旦那様からの溺愛が始まりました?~

夕立悠理

文字の大きさ
4 / 4

困りごと

しおりを挟む
 ダイニングに着くと、すでに旦那様は席に座っていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
 旦那様は返事をしてくれたものの、その声には元気がない。
 ……どうしたんだろう? 昨夜よく眠れなかったのかしら。
 
 疑問に思っているうちに、朝食が運ばれてきた。
「いただきます」
 なんといっても、公爵家の食事だものね。落ちぶれ伯爵家だった実家とは程遠い、豪勢なものだった。

 なぜか周囲の視線が気になりながら、朝食のベーコンを頬張る。かりっかりで、とってもおいしい。あれ、でも。何かしら、ベーコンを噛むと鼻から抜けるこの甘い香りは――。
なんだか、懐かしい香りだ。

 って、そんなことはどうでもいいわね。とってもおいしいんだもの。

「……うぅ」

 あまりの美味しさに唸ると、旦那様も含めみんなが一斉にびくり、と体を揺らした。いけない、気に入らないと思われちゃったのかしら。

「おいしい……! こんなに美味しい食事、食べたことありません!!」

 しまった! いくら否定したかったとはいえ、大声を出しすぎちゃった。こういうところが、元婚約者に婚約破棄される原因になったのよね。けれど私の言葉に、なぜか旦那様は頭を抱えていた。

「……旦那様?」

 私が尋ねると旦那様は、目をうろうろと泳がせながら、なんでもない、とほほ笑んだ。いや、なんでもなくないいでしょ! と突っ込みたくなったけれど、それよりお顔が天才過ぎて、疑問がかき消されてしまった。

「そうか、おいしいのか……」
「はい、とってもおいしいです」

 おいしすぎる朝食に真摯に向き合っているうちに、朝食会は終わった。

◆◆◆

「どういうことだ……」
 朝食会の後、僕は頭を抱えていた。

「熊でも殺すほどの毒が効かないなんて……」
結婚したばかりの妻をさっくり暗殺し、悲劇の公爵として社交界に現れる予定だったが。妻には全くと言っていいほど、毒も、剣も効かなかった。

 眠っている間にも、何度も剣で殺そうとした。すると、彼女は寝返りを素早くうちながら、よけるのだ。本当に眠っているのか疑問に思うほど素早い動きだったが、確かに彼女の瞳は閉じていた。

 それだけなら、まだいい。

 何といっても最大の困りごと、それは。

 僕の妻が、可愛すぎる――ということだ。

 彼女のきらきらと輝くオレンジの瞳も、亜麻色の髪も好ましい。それにこれが神の御業か? と疑うほど、僕を魅了する顔のパーツの配置。

 何より、ヴァンパイアである僕を目の前にしても、物おじしない、その勇敢さ。

 どこをどうとってみても、好ましい……むしろ、愛しそう、なことが最大の難点だった。危ない。このままでは恋に落ちてしまう。

 それでも、僕は。
なんとしてでも、恋に落ちる前に、妻を殺さなければならない。

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

海月お嬢様
2022.07.15 海月お嬢様

ヒロイン逞しいw
続きが気になります_:(´ཀ`」 ∠):
なんでそんなに殺したいのー!?

解除

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。