恋人に捨てられた私が、幸せになるまで

夕立悠理

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そのいち

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ただ、幸せになりたかった。特別幸せでなくてもいい。『普通』の幸せが欲しかった。恋人と手を繋いで、キスをして。そして、結婚して。未来を作って。それが私にとっては普通だった。──けれど。私の思う普通というのは案外、とても得難いものだったのかもしれない。

 「アニータ」
ケイリー。私の恋人は、目を伏せた。長い睫が、彼の瞳を隠す。彼のこの癖は、何かとても言いづらいことを言うときに決まっていた。

「どうしたの?」
私は嫌な予感を振り切るように、明るい声を出した。

 「クレアが、妊娠したんだ」
「まあ、それはめでたいわね。お祝いに何を贈ろうかしら。──今日は、その相談なのね?」
クレアは私たちの幼馴染みだった。彼女が妊娠したのなら、それはとても喜ばしいことだ。喜ばしいことの、はずだ。それなのに、どうして、ケイリーは言いづらそうだったのかしら。なんとなく、その理由は見当がついたけれど、気づかない振りをする私の手を震える手で、ケイリーは握った。


 そして、動揺する私を諭すように、ケイリーはゆっくりと残酷な言葉を告げた。

「違う、アニータ。僕の、子供なんだ」
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