今度こそあなたの幸せを願える私になりたい(リメイク)

夕立悠理

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ジレンマ

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「アリサ! お茶が、カップから溢れているぞ」
グレイさんの指摘にはっ、とする。今はお昼休憩の時間であり、いつものように、グレイさんと昼食をとっていた。

 「どうした? 最近上の空のことが多いな」
「すみません」
「いや、謝るほどのことじゃないが……」
 最近、座学でもぼんやりしてしまって、先生の言葉を聞き逃してしまうことが多い。

 理由は明白だった。

『マリウスと婚約する気は、ないだろうか?』

 ルーカス殿下から言われたあの言葉。なんと答えるべきか、ずっと悩んでいた。

 マリウス殿下の手紙だけだったら、遠回しに断るべきだと考えていた。けれど、ルーカス殿下も私とマリウス殿下が婚約すべきと、考えているなら、話は違ってくる。

 おそらく、王家の意向ということだ。

 ウィルシュタイン侯爵家に打診すれば、父と母は、泣いて喜ぶだろう。けれど、私に尋ねたということは、私の意思を尊重してくださるということ。

 余計に安易な決断は出せない。

 「俺にも、話せないことか?」
「……はい」

 王家絡みの話だ。例え、〈エルターン〉のグレイさんといえども、相談はできない。

 「そうか。なら、無理に話せとは言わない。でも、もし話したくなったら、いつでも聞くからな」
「ありがとう、ございます」

 グレイさんが優しく微笑む。その笑みに、心が解されて、暖かな気持ちになる。

 すると、そこで昼休憩の終わりを告げるベルが鳴ったので、グレイさんと別れ、教室に向かった。

 ◇◇◇

  「マリウスと婚約する気は、ないだろうか?」


 そう言ったときの、私はしっかりと、兄の顔をできていただろうか。

 夜になったというのに、一向に眠気はやってこない。代わりに、『夢』で聞いた声がまとわりつく。

 ──アリサさんはね、マリウス殿下のことがお好きでしたのよ。何度も彼女からそう聞いたのですもの。でも、だからって、こんな──


 わかっている。アリサ嬢が、私を愛していたわけではないことなんて。でも、私たちの間には確かに信頼があった。だから、結婚してからゆっくり感情を育んでいければいいと思っていた。時間は、たっぷりあるのだからと。

 まさか、マリウスを好いていたなんて、思いもよらなかった。


 だから。

 今の彼女にその感情はないのだとしても、何れは彼女はマリウスに恋をするのだろう。

 それは、祝福すべきことだ。今度こそ、私は。


 あなたの幸せを願える人間になりたかった。
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