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夢にまで見た、国外追放

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私の名前は、アデライン・ルルーシャ。ルルーシャ公爵家の長女だ。そして、ここは、王城の一室。

「……残念だよ、アデライン。君はもっと聡いと思っていた」


 婚約者である第二王子の、レイバン殿下が、紫水の瞳を細めて、私を見た。

「残念……とは?」

なんとなくレイバン殿下の傍で、かたかたと震えている妹であり、聖女のルナを見て察しはついたけれど、あえて尋ねる。


「聖女である、ルナを妬み、今まで虐めてきただろう」

「なんのことかわかりかねます」

……まだだ。まだ笑ってはダメ。思わず上がりそうになった口角を下げ、私はそっと目を伏せる。


「惚ける気ならそれでもいい。僕たちの婚約は解消させてもらう。聖女を虐める浅はかな君に、僕の婚約者は相応しくない。僕の婚約者は、慈愛に満ちたルナこそふさわしい」

「レイバン殿下、わたし、わたしっ、殿下のこと──」

殿下の言葉にルナが震えを止め、期待に満ちた瞳で殿下を見上げた。


「……ああ、ルナ。まだ、待ってくれ。その言葉の続きは僕から言いたいから」

私には一度も見せなかったような溶けるような笑みを浮かべて、殿下はルナを見つめる。



 二人は頬を染めて、見つめあっている。

 完全に二人の世界だ。


 そのまま十分がたった。

 ……本題に入らないなら、そろそろ私、帰ってもいいですかね。

 いちゃいちゃカップルを眺めているだけなのは、さすがに退屈だ。


 私が現実逃避に、羊を数え始めたとき、レイバン殿下は、ようやく私に目線をあわせた。

「聖女であるルナを害そうとした、罪は重い。けれど、君は公爵令嬢でもある。だから、君には、敗戦国ユーリシアの王、クラウス・ユーリシアに嫁いでもらう。これは、王命でもある」

そういって、レイバン殿下は、陛下直々に書かれた、書状を見せる。



 そこにはたしかに、アデライン・ルルーシャが、ユーリシアに嫁ぐことが記されていた。


隣国でもあるユーリシアと戦争したのは、つい最近のこと。ユーリシアに嫁げば、もう、祖国に帰ることは許されない。結婚、という形はとっているものの、事実上の国外追放だった。また、私はもともと第二王子の婚約者だったこと。お下がりの妃を与えられたとして、ユーリシア側が怒るのは十分あり得る。その生活は針のむしろとなるだろう。



「拝命いたしました」

特に驚きも嘆きもしない私に、レイバン殿下は驚いた顔をしたけれど、すぐに表情を戻し、私に退出を促した。


 そして、その一ヶ月後。

 私は、隣国ユーリシアに妃として嫁ぐことになった。

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