【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理

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番外編

悪魔と呼ばれた男の独り言2

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 本当は、もっと。
 もっと早く、発表する予定だった。

 でも、それをしなかったのは、ソフィアを失うことを恐れてのーー自分の我儘のためだった。

 元々、ソフィアのための研究だった。
 ……もっと早く発表していたら。

 ソフィアは、僕の妻ではなくなっていたかもしれない。
 でも、きっと、生きてくれていた。

 だからソフィアを殺したのは、他ならぬ、僕だった。


 論文を発表し、結果の再現ができるようになると、人々は、手のひらを返したように僕を褒めたたえた。

 偉業を成し遂げた悲劇の男として、僕は、国のトップに押し上げられた。

 王の冠を被せられることはなかったが、何をするにも僕の意向を気にした。

 その様子はさながら、神の怒りを恐れるようだった。

 ……そんなことしなくても、僕は研究を続けるつもりだったのに。

 でも、この立場は、使える。


 僕の目的のために。


 僕は、植物の研究の他に、新たな研究に着手した。
 表向きは、魔獣の生態調査。
 本当の目的は、魔獣の心臓集めだ。

 魔獣が稀に落とす、魔力の籠った特別な鉱石。

 古い文献によると、その魔獣の心臓を集めれば、どんな願いも叶えられるほどの神秘の力を持つという。

 僕は、ひたすら魔獣を屠った。

 魔獣を屠っては魔獣の心臓を取り込み、また屠る、という作業を繰り返した。

 そして、魔獣の心臓を三百ほど、集めた時。

 そのときに、ようやく周囲は僕の研究の異常性に気づいたらしい。
 生態調査なら、そんなに殺す必要はないからね。

 僕は、その日から魔獣との接触を禁止させられた。

 魔獣がいくら人に害をなすとはいえ、あまりにも殺しすぎると、生態系が崩れるというのが理由だった。

 魔獣をどれだけ屠ったか想像がつかないほどの、魔力の量。
 そして、少しずつ赤くーー屠った魔獣の血のような赤に染まった、瞳と髪色。

 それらのせいか、人々の目は神を崇め称えるものから、徐々に異常者を見る目つきに変わった。

 ーーそれでも。
 別にどうでも良かった。

 だって僕の功績は、見た目が異常で、大量の魔獣を屠ったくらいじゃ、変わらない。

 だから、まだ、僕は進み続けられる。

 魔獣の心臓を集めた僕は、今度は魔法の研究を進めることにした。

 この時点でソフィアと結婚してからーー既に5年が経過している。

 早く、早く僕は魔法を開発しなければならない。

 僕が望む、最良の魔法を。



 魔法の研究を続けること、更に5年。
 ここまで、ソフィアと結婚して10年が経過していた。

 僕は、マッドでサイコな研究者として、悪魔と呼ばれていたけれど。

「……足りない」

 僕の望む魔法の最後のピースが足りなかった。

 僕の望む魔法ーー時間を戻す魔法。
 ただ、一年戻せばいいわけじゃない。
 ソフィアが死ぬまでに、研究を完成させられる時間以上の巻き戻しが必要だ。

 そのためにはーー。

「ソフィアの、髪がいる」

 条件範囲を指定するのに、どうしても、ソフィアのーー髪が必要だった。
 しかし、既に葬儀は済ませてある。

 だから、僕は、ソフィアの髪を手に入れるために、別の世界に渡ることにした。
 

 
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