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「両親はやっと僕に恋人ができたって大騒ぎしてる」

 えっ、えええええー!?
 どうする。困ったな。
「そんなに僕との婚約がいや?」

 リッカルド様はその黒曜石のような黒い瞳で私を見つめた。
「いやというか……、困ります」
「困る?」
 そう。困るのが正しい。
「私は……誰とも結婚できませんから」

 この学園を卒業する年になったら私は悪魔の贄になるのだ。

 リッカルド様をその間婚約者として拘束したところで、リッカルド様の益にはならない。

 リッカルド様は、悪魔──後々神になるのだとしても──と契約した、愚かな女を婚約者として迎えたという醜聞がたつことになる。

「せめて、婚約を先のばしにはできませんか? たとえば、私たちが卒業するまで、とか。いくらなんでも、急すぎると思います」
「先のばしにしても、君は結婚できないんだろう?」
「はい」

 リッカルド様は、なにかを考えるように宙をあおいだあと、頷いた。
「……わかった。両親にはまだ君の気持ちが追い付いてないって、伝えるよ。僕が先走りすぎたって。元々は君自身を大切にして欲しかったのがきっかけだから。でも、覚えておいて」

 リッカルド様が、私の手を包む。

「『次』また、君が君自身を蔑ろにするようなことがあったら──、僕はもっと手段を選ばないと思うから」

 頷いてみせると、リッカルド様は満足したようで、笑った。

 


 ──そして、私たちの婚約は、無事解消された、のだけれど。

 自分を蔑ろにしないなんて絶対無理!

 だって、私は三年間で、魔獣の心臓を三百個集めなきゃいけないのだ。

 自然治癒力に任せていたら、到底間に合わない。

 でも、私も反省した。
 疲れるからって香魔法を切ったりつけたりしていたのが、原因だと。
 常時つけておけば、何の問題もないのだ。
 どうせ、魔力は底無しだ。

 さすがに、寝ているときはきるけれど。

「今日は、一個、かぁ……」

 この休暇中にあと二十個は集めたい。
 今日は、大型ばかりだったから、もっと手に入れられると思っていたけれど。

 無駄に死にかけただけで、ぜんぜん実にならなかった。

 そんなことを考えながら、寮に戻り、ひとまず、今日の成果の心臓を悪魔に渡す。

「はい、今日のぶん」
『ああ』

 悪魔は、魔獣の心臓を受けとると、なぜかすぐ食べずに、くるくると手の中で回す。
「悪魔?」
『今日は、傷が多いな』

 回復魔法をかけたとはいえ、まだ完全には治りきっていない。
「まぁね。そのわりに一個しか集められなかったけど……」
 皮肉でも言われるのだろうか。そう思って、悪魔をみると、悪魔は意外なことを言ってきた。
『無茶はするな』

「リッカルド様に……似たことをいうのね」

 私がそう言うと、悪魔は顔をしかめた。そして、心臓を飲み込む。
 悪魔は心臓を飲み込んだあと、さらりと、私の鎖骨にふれた。
「悪魔?」

 どうしたの、くすぐったい。

 そう尋ねる前に、肩を噛まれた。
「っ!?」
 かとおもえば、肩をぺろりとなめられる。
「悪魔、な、にして……」
『お前は、我の贄だ』
「どうしたの、いきなり。そんなの、当たり前じゃない」

 私が、贄らしくない不敬な態度をとったとでもいうのだろうか。でも、悪魔に対する態度はいつものことだし。

 混乱していると、悪魔は嗤った。
『わかっているなら、良い』

 ──ああ、なんだそういうこと。
 リッカルド様と婚約の話がでたから、お前、約束覚えてるんだろーな、ってことよね。たぶん。

「大丈夫、約束は守るわ。だからあなたも、心臓を三百あげたら、ちゃんと神になってよね」
『三百集められればな』

 くっ、と悪魔は笑う。
「集められるか、じゃなくて、絶対集めるもの」

 ──とりあえず、今日は疲れたので早いところシャワーを浴びて寝てしまおう。その日の夜は夢もみないほど、深く、眠った。
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