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望み

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「そうなんですね。では」
 適当に返事をして、掴まれた腕を振りほどこうとすると、リッカルド様のほうへ引き寄せられた。私はこれでも魔獣騎士科の人間だし、それなりに魔獣も狩れている。
だからちゃんと鍛えている……つもりだったのに、こうもあっさりと主導権を握られると、嫌でも性差を意識せざるを得なくなる。

「そうなんだよ、ソフィア嬢」
 リッカルド様は、とても気分がよさそうな瞳で私を見ていた。
 でも、どうしてリッカルド様はここまで私に拘るのかな。私が、自分を粗末にしているからにしては、あまりにも……。
 浮かんだ考えを、おいやる。そんなはずはない。
 リッカルド様の運命の人はメリア様であり、私に執着しているように見えるのは、単純に頭突きをしたりする私が面白いだけ。ただの好奇心が刺激されているからであって、私に恋情や、愛着を抱いてくれているわけではない。せいぜいが友愛くらいだろう。

 といっても、以前の私はその友愛さえもらえなかったのだから、贅沢な話だけれど。

 複雑な思いを抱きながら、リッカルド様を見つめる。
「ねぇ、ソフィア嬢。どうすれば、いいと思う?」
「え?」
 ……どう、ってなにが。
 私としては、この状況をどうすればいいかわからないのに。

「どうすれば、可愛い子猫は、僕の腕の中にとどまってくれるかな」
「それ、は……」

 子猫、ただの猫じゃなくて、頭突きをした子猫、となると私のことだろうけれど。
「……無理だと思います」
「無理、ね。どうしてそう思うの?」
「その子猫が、とどまれないから」
 だって、私の目的はリッカルド様とどうにかなることではない。リッカルド様が自殺をしない未来を創ること。だから、そのためならなんだって、それこそ悪魔にだって魂を売るけれど。
 でも、とどまることは二度とない。悪魔に魂を売った私の行く先は破滅だから。
 破滅にリッカルド様を巻き込めば、本末転倒だ。

 そんなことをいって保健室に運んでもらったりしている時点で、十分巻き込んでしまっているかもしれないけれど。

「とどまれない、かぁ」
「はい。では、そろそろ……」

 私は行きますね、と今度こそ振り払おうとした距離を、リッカルド様に更につめられる。
「とどまりたくない、ではなくとどまれないっていうんだね、君は」
「――!」
 息が、詰まりそうになる。
 失言だった。それではまるで、とどまりたい、と本心では思っているととられかねない。
「何が、君をそうさせてるの? 僕じゃ、力になれないかな」
※※※
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