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子猫

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 楽しかった(?)夏季休暇も、そろそろ終わりだ。……だから、といってなにかあるわけでもないけれど。今日も魔獣の心臓を集めるだけだものね。

 今日は、毒を持った魔獣に噛まれないように気を付けよう。

 そう思いながら制服に着替えていると、ふと、昨日の光景が頭の中に蘇る。

『君を閉じ込めてしまおうか』

 それから、睫が触れそうなほど近い距離と吐息も。

 途端に、頬が熱くなるのがわかる。

 ──でも。私の目的はリッカルド様とどうにかなることじゃない。
 リッカルド様を今度こそ死なせないことだ。そのためだったらなんでもする。

 なんでも、する、けど……。
 鏡を見る。

 そこにいるのは、三年前の私だ。
 そう、私は三年間この学園で過ごした。そしてずっとリッカルド様をただ、見つめていた。

 そして、なにも行動を起こさないまま、三年が過ぎ、女神は私とリッカルド様を女神の使いとして選んだ。そうして、──リッカルド様は死んだ。

 時間を戻したところで、一度死んだという事実がなくなったわけじゃない。

 リッカルド様は、死んだ。
 もう、あのときのリッカルド様には二度と会えない。メリア様の香水の香りを纏わせながら、私と義務の夫婦関係を続けていたリッカルド様には。
 
 だから、二度とあのリッカルド様に懺悔もできないのだ。

 そのことを私は、忘れちゃ駄目だわ。

 そう言い聞かせながら、頬を叩いて気合いをいれる。

 よし、頑張ろう。
◇◇◇

 ……そう気合いをいれてはみたものの。
 女子寮を出た私は早速、挫けそうになった。
「やぁ」

 門前で、手をひらひらと振っている顔も声も見覚えがありすぎる。
「……おはよう、ございます」

 私は、極力目を合わせないように気を付けながら、門前を通り過ぎようと──
「まあ、待ってよ。ソフィア嬢」

 ですよねー。やっぱり、声をかけられちゃいますよね。

 私は、ぎぎ、と音が立ちそうなほどゆっくりと、彼を見た。
「昨日、子猫に頭突きをされてね」

 そういうリッカルド様の瞳は、全くもって笑っていない。

 要件は賠償金の請求かしら。

「……そうなのですね」

 小さな伯爵家が公爵家に賠償金を請求されて、きっちり払えるほどの経済力があるかと聞かれると、いいえだ。

 相槌を打ちながら、すたすたと歩こうとしたその腕をつかまれる。
「でもね、とっても可愛い子猫なんだ。閉じ込めてしまいたいくらい」
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