昨日無表情な彼女が溺愛されて、今日聖女になる話。

夕立悠理

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追放

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 アリアナ·リューズ、15歳。
 突然だけれど、私には前世の記憶がある。

 平凡に生き、交通事故で死んだ日本という国で女子高校生だった記憶が。
 そんな私が次に生まれたのは、異世界だった。

 流行ったラノベ通りの展開に、私は歓喜した。イエー、異世界転生ひやっほぅ! 

 しかも、私の立場は公爵家の長女。そして、第二王子の婚約者ときた。
 これは、もしかして、もしかするんじゃない? 平凡な私にもチートとかできるんじゃない?

 ──けれど、現実は厳しかった。
 平凡だった、私はどこまでも平凡で。
 この国の貴族が当然のように持っているはずの、魔力が全くといっていいほどなかった。 

 魔力の検査は、貴族の子供が学園に入学する前の15歳の誕生日──つまり今日行われた。

 私が平民だったなら。きっとそれでも普通に生きていけた。けれど、私は公爵家の長女なのだった。

 私に魔力がないことがわかるとすぐに、お父様は私を王城へと連れていった。
 そして下された結論は。

「……アリアナ」

 さらさらな金髪に碧眼を持った、マドリー殿下が、冷めた瞳で私に告げる。
「君には申し訳ないが、僕たちの婚約を解消することになった」

 ……当然だ、私には魔力がなかったのだから。
 でも、それでよかったのかもしれない。婚約者の座は私の妹のナンシーに移るだろう。ナンシーとマドリー殿下が想いあっているのを知っていた。知っていて、見ない振りをしていた。
 だから私に魔力がなかったのはその罰かもしれない。

「そして、君に──属国であるグドルーシャに嫁いでもらうことになった」

 グドルーシャ。海をわたった先にある、小さな島国。
 まぁ、そうね、厄介払いには丁度いいのかも。

「これは勅命だ」
「……かしこまりました」

 嘆きも怒りもしない私にマドリー殿下は、こんなときでも無表情だな、とこぼして、去っていった。

◇ ◇ ◇

「お姉さま!」
 王城から帰ると、ナンシーが私に飛び付いてきた。その目は、赤い。

 私は平凡だ。平凡だけれど、人と違うことがあるとすればそれは、とても感情が顔にでにくかった。

「アリアナ、お前は本当に可愛げがないな」
とは、何度も言われた言葉だ。

それと反対に、ナンシーはよく笑いよく泣く。両親も婚約者もみんなナンシーを愛した。そして、それは私も例外ではなく。

「ナンシー」
 私はそっとナンシーを抱き締める。
「私は少しだけ遠くにいくけれど、元気でね」
「いや! お姉さまと一緒がいい! わたしもお姉さまについて──」
「ナンシー」

 諭すようにその名を呼ぶと、子供のように首をふる。全く、困った子。でも、私もナンシーのように可愛げがあれば、未来は違ったのかもしれない。今言っても仕方ないけど。

「でもっ、でも……」
「手紙をかくわ」
 きっと、恥さらしな私からの手紙など、お父様が燃やしてしまうことは安易に想像がついたけれど、ナンシーを宥めるために嘘をつく。
「約束よ、お姉さま!」
「ええ」

 ──その数日後。私は、グドルーシャへと旅立った。
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