魔法世界という名の悲惨

第1章 覚醒

第9話 伝承

　ノアは森の中で魔法陣を召喚し、魔物たちも待つ森に帰った。
「ただいま、ナイトさん。」
ノアは最初のドラゴンことナイトにそういった。すると、ナイトはオズオズとノアに言った。
「ノアさま、今日は僕の家族が来ているんです。一緒に食事をしても良いですか？」
ノアはニッコリ笑って答える。
「むしろ、お願いします。俺、あなたのご家族の話を聞きたいです。」
　そして、夕食どき。ノアとナイト、ナイトの両親と妹の5人が同じ食卓に座っていた。
「はじめまして、ナイトさんにはお世話になっています。」
ナイトの家族はアワアワして答える。
「頭をお上げください！王子様の生まれ変わりに頭を下げさせるなど…！」
ノアは頭をあげて答えた。
「僕は王子じゃありません。だから、皆さんの過去をろくに知らないんです。前世、母に昔話のように聞かされただけでしたし…。」
すると、ナイトの父親がノアに話しかけた。
「私で差し支えなければ、我らの王国の話をお話ししますが。」
ノアは頭を下げないように気をつけて答えた。
「よろしくお願いします。」
　ノアの父親が語った話はこうだった。
　まず、現在の王国つまりホワイトパール王国の前にマジック王国という平和な国があった。そこでは王が強権を振るうのではなく、王の提案に国民の代表が意見を言ったり賛同したりして政治を行ってきた。その代表を務めた最後の一族がレッド族だったらしい。また、魔物と人は共生し、商売をしたり同じ学校で勉強したりして、仲の良いユートピアのような王国だった。そして、その国民一人一人が魔法陣を使った魔法を駆使していたため、生活水準も非常に高かった。
　しかし、そこに目をつけたホワイトパール王国が侵略を行なった。１回目では１週間と経たずに圧勝したが、敵は魔法陣を無効化する強力な武器を作った。それを使いこなした3人のパーティーによって、マジック王国に住む人間は殺され、魔物たちはごく少数だけ生き残ったのだった。
　しかし、人間はまだ生きている。そういうレッド族が森に逃れた同胞たちに広めた噂が残っていたのだ。それこそ、国王が命と引き換えに守り逃した王妃と王子だったのだ。王子はまだ当時2歳だったが、非常に聡明で国王に瓜二つの人物であった。そのため、王子…はたまた王の肖像画にそっくりの男を王子とみなす習慣が生まれた。
「これが、陛下の肖像画です。」
ノアはそれを見て驚愕した。王の方が少しだけ華奢な顔をしているが、ノアにとてもよく似ていた。
「本当に、陛下の肖像画ですか！？」
ナイトの父はノアに答えた。
「当然です。これが特殊な魔法で守られてきた陛下の肖像画です。」
ノアはしばらくその肖像画に釘付けになったのだった。