イケニエアゲハ~執着の檻に囲われて~

小達出みかん

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第一部 高嶺の蝶

JKの秘密のバイト

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さして話した事のない相手でも、嫌われているという事はわかるものだ。


…向かいの座席に座って居るクラスメイトに睨まれている。


 いかにも優等生然とした黒髪に無骨な黒縁めがね。名まえはたしか、三上。クラスのなかで一番成績が良い男子生徒だ。

 玲菜は面白半分でスマホから目を上げ、三上の顔をじっと見た。

(目があったらどんな顔すんのかな?)


相手は苛立った様子で慌てて目をそらした。メガネに覆われた涼しい目元がかすかに赤くなった気がする。予想通りの反応に玲奈は内心ほくそ笑みながら視線を注ぎ続けた。


よく知りもしない相手に、なんで嫌われてるのか?


―――考えなくてもわかる。幼い時からずっと、玲奈はそういう星のもとにあるのだ。もういちいち傷つきもしないし、悪意を受け流す術はとうの昔に身に着けている。ただ心を閉じて自分とは関係ないと思えばいい。


だが不思議と、この男子生徒相手には挑みかかってみたい、という気持ちがちらりと心の隅に沸いたのだ。


(私が目障りなら、もっと睨めばいい。ほら、もっともっと・・)


ブーーーーっ!


その時、手元からくぐもった電子音がした。

手にした携帯が着信を知らせ震えている。男子生徒から目をそらし、玲奈はラインを開いた。


「 今夜は8:00出勤 時間厳守で 一之瀬」





暗い照明に煙草と混ざり合う香水の匂い。その中を玲奈は忙しく立ったり座ったりしていた。

店内のインテリアは、シックな紫色と金色で統一されている。それとは対照的に、嬢たちのドレスは店の名前にちなんで皆純白だ。


すべてオーナーの一ノ瀬の方針だった。「天使にあえる店」というコンセプトのもと、このエンジェルフィールは順調に売り上げを伸ばして人気店の仲間入りを果たしていた。


そのふかふかの紫のソファの前で、白いレースのドレスを纏った玲奈はにっこりわらって一礼した。


「はじめまして、レイです。お隣失礼します」


玲奈の顔を見て、ソファにだらしなく腰掛けた客2人は一瞬呆然とした。見慣れた反応だ。スーツの中年とやや若い男。上司と部下といったところか。次の瞬間若い方は相好を崩し、中年は意地悪く顔をゆがめた。


「座って座って!ひゃー、すごい美人っすね!!」


 玲奈はにこりと笑って2人の間に腰掛けた。その向こうにはもう一人、すでに席に着いていた女の子が座っている。たしか、まだ入店して間もない子だ。客のグラスが空になっているのを見てとって玲奈はハウスボトルに手を伸ばした。


「新しくお作りしますね」


新人の子が慌てたように玲奈を見た。玲奈は軽く微笑んだ。新人なのだからしょうがないことだ。


「気が利くねぇ、それにしても、いままで見た子の中で一番キレイっす、レイさん」


否定も肯定もせず玲奈は笑ってグラスを置いた。それを見てもう一人のいかにも底意地の悪そうな中年は新人の子に指図した。


「おい、お前もういいよ、ブスだしチェンジで」


新人の笑顔が強ばった。こういう嫌な客はいくらでもいる。玲奈は内心やれやれと思いながら中年の手を軽くつかんだ。


「もう、なにいうんです?うちのお店には美人しかいないんですから」


男は玲奈の手をねっとりとつかみ返して新人に言い放った。




「そのわりにはずーっとブスばっか着いてつまんねぇ、ブスならブスで面白い話でもしろよ、おい」


客でなければ男に鏡を差し出すところだが、仕事なのでそうもいかない。とうとう新人はしくしく泣き出した。きっとこんな調子でずっとののしられていたのだろう。玲奈はここぞとばかりに手を引き抜き、若い方の客に身を寄せて甘えた声を上げた。


「あーっ、泣かせたぁー!ひどーい。女の子泣かせるなんてぇ」


泣き出した新人と玲奈の作った怒り顔を見て、若い方は少し慌てた様子になった。玲奈はその隙を逃さず畳み掛けた。


「慰謝料もらわないと!わたしとその子の分のドリンクくださーい!」


が、中年は玲奈を見て言い放った。


「はい?いや、よく見たらお前もブスじゃねぇか。やだよ」


キャバクラにきておいてドリンクを渋るなんてケチな客だ。玲奈は内心相手を見下したが顔は余裕の笑顔だった。


「ふふ、そうなんですよ。毎朝鏡みてびっくりしちゃうんです。あんまりにもブスで」


「お前さっきこの店はブスはいないって言ったじゃねーか」


「私は例外です。店長のお情けで雇ってもらってるんですよ」


まったく悪びれない玲奈に気を良くしたのか男は笑った。


「お前ブスだけど面白いな!わかったよ、ドリンクな」


「あはっ、ありがとうございますーじゃあカシオレ2つで」


けち客の懐に配慮して安めのものを頼んだが、中年はそれをさえぎってメニューをめくった。


「そんなもん酒のうちに入らねぇじゃねえか。ボトル入れるからお前も飲め。どれにする?」


玲奈の目は光った。楽しませさえすれば太っ腹な客らしい。よくみれば深夜でだらしなく着崩れているが着ているものも高価そうだ。


「えー、いいんですか、うれしい。じゃあお2人に今日出あった記念にシャンパンが飲みたいな、本物じゃなくてもいいから」


玲奈が甘えるように見上げると、男は顎をそびやかして言った。


「シケたこと言うなよ。飲むなら本物だろ。どれにする?」


玲奈は内心でほくそえんだ。スパークリングワインは一万以内だが、本物のシャンパンはこの店だと安くても一本5万以上はする。売り上げ大幅アップだ。この男、ケチじゃない。

もっとがっつり掴んで太い客になってもらおう。行儀よく乾杯しながら玲奈の体中にアドレナリンがかけめぐった。

が、しばらくすると付回しに抜かれ、玲奈は席を離れ別卓へ向かった。




「レイちゃーん、会いたかったよー!」


彼、松田はそこそこのお金もち。もともとはレイ指名でなかったが、その嬢が辞めたため、レイが後釜に座るよう店長から指示されたお客だ。今ではレイを本指名している。


「わたしもです…きてくれてうれしい」


「ほんとう!?…あのね、コレ」


彼は手に持っていた紙袋を玲奈に差し出した。


「え!?な、なんですか、これ?」


「あけてみてよ!」


紙袋の中を覗くと、中には新型の音楽プレイヤー。


「レイちゃん、欲しがってたでしょ?」


たしか3万9千円。ここは、大げさに喜ぶところだ。


「わぁ~~~うれしい!!ありがとうございます!!」


「へへっ、レイちゃんが喜んでくれてよかった」


「欲しかったというのもありますけど…松田様が私のために選んでくれたって思うと・・・うれしいです!大事にしますね」


にっこり、「レイ」は微笑んだ。彼の目には、天使の笑顔が映っているはずだ。


閉店後、客とのアフターを終えマンションに帰った玲奈は、ラインが入っているのに気が付いた。


「今から行くから」


玲奈はコートを脱ぐ手を止め慌てて玄関の鍵を開けた。きたとき鍵がかかってると、市ノ瀬は怒るのだ。と、その瞬間ガチャリとドアが開いた。


「あ、早いですね」


少し驚いたような顔で一之瀬がレイナを見た。


一瞬見つめあう二人。だがそこに甘い雰囲気は1ミリもない。


「…さっさと風呂入って着替えてこいよ」




「週末は美優のラストだ。言いたいことわかるな?」


「誰を引っ張ればいいですか?」


「宮元様か吉田様だな」


「吉田様は、もう他の子が名刺切ってました」


「誰だ?」


「ええと、エリカさん。美優さんに譲られたっていってました」


「エリカか・・・ならまぁいいだろう」


「じゃあ、宮元様のみ引っ張りますね」


涼しくそう答える玲奈に向かって市ノ瀬は笑った。


「大した自信だな」


「できないことは指示しないでしょ」


「まぁな・・・。あの店で、お前にできないことはない。俺の言ったとおりだったろ」


玲奈を上から見下ろして市ノ瀬は言った。玲奈は小さくうなずいた。
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