イケニエアゲハ~執着の檻に囲われて~

小達出みかん

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第一部 高嶺の蝶

お前、可哀想だな

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「あーいいのかな?エリカのことわかんなくて」


「それは卑怯ですよ!」


「ふーん、彼女のこと助けたいって言ったのは嘘なんだ?彼女は今体張ってるっていうのにな」


「えっ…どういうことですか」


「これ以上は言えないなぁ。せめて一緒に中に入ってもらわないと」


 仕方ない…玲奈は手の力を抜いた。


「わかりました。じゃとっとと入りましょう」


「やった」


 潤は嬉しそうに、玲奈はしおしおとホテルに入った。


「よっしゃ、じゃあまず風呂入ろうぜ」


「うわっ」


 潤は軽々と玲奈を抱き上げた。


「嫌ですよ!なんで風呂なんか。下ろしてください」


「お前往生際わるいな。ラブホの部屋に入ってやれませんなんて通用しないぜ」


「もう…勘弁してくださいよ」


 あまりの悪びれなさに、玲奈はがっくりうなだれた。


「…そんなに嫌かよ」


 潤の声のトーンが少し下がった。玲奈は切れた。


「そりゃ嫌ですよ!!なにバカなこといってるんですか、頭沸いてるの?!」


「おっまえ…本当に失礼な奴だな!!」


「好きでもない男とやりたい女なんて存在しないですよ!ホストなのにそんなこともわかんないの?!!」


 玲奈はめちゃくちゃに手足を動かしたが、潤はがっちり玲奈をホールドして脱衣所へ向かった。むやみやたらに広い脱衣所で、鏡が大きい。


「いや、やめて。放してよ」


「そう言われて放す男いるとおもう?」


「とりあえず入ったら教えてくれるって!言ったじゃないですか!」


「そんなこと言ってねぇしーお前、バッカだな~。風呂入るぞ、脱げよ」


「嫌!」


「往生際わりぃな。じゃはっきり言うけど、やったら教えてやる。やらなきゃ教えない」


 潤は玲奈を下ろした。


「やんないなら帰れよ」


 玲奈は唇を噛んだ。そりゃ嫌だが、一回するくらいどうってことはない。

だいたい好きでもない男とするのはもう慣れている。少し我慢すればいいだけだ。自分の身体に大した価値などない。もしもエリカに何かあったのなら…。

つまらない意地を張らないで、ここは腹をくくろう。玲奈はそう決めた。


「…わかった。でもゴムつけて。じゃなきゃ無理」


潤の目がキラリと光った。


「いいぜ…」


「でも持ってる?私もってない」


「おいおい、ここはラブホだぜ。ベッドのそばかどっかに置いてあんだろ」


 面倒くさそうに言った潤をおいて、玲奈は確認しにベッドルームに戻った。ゴムがなきゃ断じて、やれない。


「ほんとだ、あるわ…」


 ベッドサイドの小物入れに数個ゴムが入っていた。


「何お前、こういうとこ来んの初めてなの」


 潤は驚いていた。玲奈はむっとした。


「当たり前です。私はホストと違って枕営業とかしないんで」


 客と寝たことはないし、一ノ瀬が玲奈を抱くのはいつもあのマンションだ。


「彼氏とは?」


「いませんけど」


「じゃあまさか処女…?なわけないよな?」


 なぜか機嫌の良い潤を、玲奈はイライラとさえぎった。


「なんでもいいでしょ、早くやることやって、エリカさんのこと教えて」


「そんなツンケンするなよ。なっ、楽しもうぜ」


 潤は甘えたように後ろから玲奈を抱きしめてささやいた。その手がなれたてつきで服を脱がせている。嫌だと思った玲奈は自分で全部服を脱ぎ捨てた。恥じらいも甘い気持ちも微塵もなく、気分は出荷前の家畜だ。


「思った通り、綺麗な体してるな」


 風呂に入るつもりはない。化粧が落ちるし、つっこんでとっとと終わらせたい。玲奈はベッドへ向かった。


「はい、どうぞ」


 ベッドにあおむけで寝て玲奈は言った。潤は少し面食らったようだった。



「なんだよ…せっかく風呂でいちゃいちゃしたかったのに…そんなに俺のが欲しい?」



 勘違いも甚だしい発言だが、もはやイライラするのもあほらしかった。


「うん。だからもう入れていいよ。ゴムつけて」


 無表情に玲奈は言った。言われた通り一ノ瀬はゴムをつけて玲奈の上にのしかかった。


「でもお前、全然濡れてねぇじゃん」


「いいから」


 開いた足の間に、硬くなった潤のものがおしあてられた。玲奈がすっと目を閉じて痛みに備えたが、それはいつまでもやってこない。


「…?」


 おそるおそる目をあけると、潤はベッドの脇でさっき脱ぎ捨てたパンツをはいていた。


「やんないの?」


「やんねぇ」


 玲奈はわけがわからなくて聞き返した。


「え、なんで?」


「お前、体に力入りすぎ。今のお前とじゃ楽しいセックスできねぇ。」


 玲奈はせせら笑った。


「たのしいセックスって…。たのしいって思ったことなんてないし」


 潤は玲奈の横に腰かけた。その表情は意外にも真剣だった。


「そうだよな。お前、可哀想だな。誰がお前をそんな風にしたんだろうな」


 憐れむその口調に、玲奈はかえって腹が立った。


「あんただって無理やりやろうとしたくせに。いきなり聖人面?」


 潤は玲奈をゆっくりと押し倒した。


「本当はセックスって気持ちいいし、楽しいんだぜ。」


「そうですか」


「だから今やるより、いつかお前と楽しくヤれる可能性に賭けたい」


「無理ですよ」


 玲奈は鼻で笑った。


「そうかな?時間をかければきっとできるぜ」


「そんなことより、エリカさんの事教えてください」


 潤は大きなため息をついた。


「あー言いたくねぇけど…まぁ、うん」


「旅行って、どこに?」


「はは、まあ旅行っちゃ旅行だな」


「なんですか、はっきり言って!」


「じゃあはっきり言うけど、出稼ぎだ」


「え?」


「風呂屋だよ」


 そういわれた瞬間、玲奈の顔がさーっと青くなった。


「ソープってこと?エリカさんが?そ、そんな…」






 一気に意気消沈した玲奈を見て、潤は肩をすくめた。


(あーあー、何やってんだおれ)


 まさにこの表情が見たくて、その瞬間のために彼女とつながっていたはずなのに、いざ言ってみたらどうだろう、後悔しかなかった。


(いまさら同情か?)


 エリカを餌に一発やれるならいいかと思ったが、白い小さな体をこわばらせて耐えている彼女を見たら、一気にやる気がなくなった。

これではまるで、少女をいじめる悪いおっさんじゃないか。

そして沸いてきたのは、彼女が哀れだという感情だった。一体何度、こうしたことに耐えてきたんだろうか。


(くそ、哀れなもんか。キャバ嬢だぜ?)


 だが、一度そう思ってしまったらもうダメだった。不幸にも、彼女の泣き顔よりも、笑い顔が見たいと思ってしまったのだった。


(いや、でも、最初見た時から…そうだったのかもな)


 一目見て、彼女に引きつけられた。だが自分がいくら頑張ったところで、彼女が好きになってくれることはないだろう。それも見抜けてしまった。

だから、彼女のエリカに対する感情を眺めることで我慢しようとした。


(はぁ~~~~ったく、この俺が)


 ついに潤は、玲奈への気持ちを認めざるをえなかった。潤は優しく声をかけた。


「おい、そんな気を落とすなよ」


「落とすなって…エリカさんが…」


「彼女は望んでやってんだよ。仕方ない」


「望んでるわけないじゃん!」


 彼女は激高した。潤はうなずいた。


「そうだよな。悪いのは拓哉さんだよ。だから…お前にできることはないんだよ」


「連絡、してみます」


「やめとけ、彼女も落ち込むだけだ」


「じゃあ…じゃあ潤がなんとかしてよ!」


 そう叫んだ瞬間、玲奈の目は暗くなった。


「って、あんたは関係ないもんね…なんでもない、忘れて」


 たまらなくなって、潤は後ろから彼女を抱きしめた。


「…お前は、悪い男にだまされんなよ。自分を大事にしてくれ。何かと引き換えにヤルなんて、ダメだ」


「お前はって…心配しなくても、ホストにはまったりなんかしない」


「そうじゃなくて…いや…ごめんな。今日はごめん」


「どうしたの?」

 玲奈は振り替えって怪訝そうに潤を見た。潤はその頬を手で包んだ。


「なあ、真剣に、俺と付き合わねぇか?俺なら…お前を守ってやれる。キャバ勤めなんてさせない」


 笑い飛ばすかと思ったが、玲奈は静かに首を振った。


「私を守れるのはね…私だけなんだよ」


 その答えは、彼女なりに真剣な答えのような気がして、それ以上潤は何も言えなかった。


「そうか…」


「じゃ、もういくわ。出勤しなきゃ」


「おう」


 服を身に着け、出ていく玲奈に潤は言った。


「俺、いつでも待ってるから」


 玲奈は少し笑って、肩をすくめた。
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