【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん

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グレアムの事情

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一拍間をおいて、意を決したようにグレアムは言った。



「今日――この遺跡の奥で、強力な古代の呪いが発生する。呪いは森を出て、学園に到達し、生徒たち全員の命を奪うほどの規模のものだ」



「どうしてそんなことがわかるの?」



 するとグレアムは疲れた顔でふっと笑った。



「信じられないだろうけれど――見たからだ。皆が死ぬのを。ココ……」



 彼女をじっと見上げて、グレアムは顔をゆがめた。



「君も、僕の目の前で死んだ」



「待て、どういうことだよ? 夢で見たとかじゃないよな?」



 グレアムは首を振った。



「俺は実際に、見た。その時の俺は、ココ、君と婚約していた。アレックス、君とは友人だった。卒業したら、君の故郷のワイバースの教会で、式を挙げることになっていた。川の隣にある、金雀枝えにしだと薔薇が見事な教会で。神父は君らの幼馴染のヨシュア君、だったかな」



 ココとアレックスは、グレアムを凝視した。

 彼の言っている教会も、神父も、実際にある。けれど、どういうことかわからない。そんな目だった。



「ふっ……。俺は君のご両親にも会ったよ。父君は背の高い立派な学者で、母君は君と同じ、気さくで明るい方だった。ごちそうになったゼリーケーキが、おいしかった……。ワンダーは最初は俺を噛んだが、お気に入りの金色のフリスビーで一緒に遊んだら認めてくれたよ」



 その言葉に、ぽかんとココが口を開けた。



「な、なんでそんなこと……知ってるの。あなた、一体……!?」



「そう、全部知っている。君が家の柱に刻んだ落書きも、初恋の人も、将来の夢も――。俺は君と一緒に、人生を歩んでいく予定だった。けれど今日、今日だ。遺跡から呪いが発生して、君もアレックスも、そして俺も――死んだ。そして俺だけなぜか、目覚めたら、入学前の自分に戻っていた」



「は……?」



「何を、言ってるの……?」



 信じられないその言葉に、ココとアレックスはとまどった。

 時間を逆行する魔法。そんなものは存在しない。けれど――グレアムが知っていることは、たしかに恋人でもなければ知らないようなことだ。



「待て、だまされるな。ココの両親の事も、ワンダーの事も、調べればわかる事だろっ。そんなわけがわからない事を言って、俺たちを、イヴをどうする気なんだよ!?」



 アレックスの言葉に、グレアムは首を振った。



「信じてくれとは言わない。なんで時間が巻き戻って、俺だけ記憶を持っているのか――俺にもわからないからだ。けど、これだけは言える」



 グレアムは再び、ココを見上げた。そして少し微笑む。



「ココ、君は、なぜ大した接点もないのに、俺が突然君を好きになったのかわからない――と言っていたね。これが答えだよ。俺は、君が学園に来る前から、君が好きだった。今回は絶対に君を死なせないと決めていた。だから――君とすれ違いになっても、呪いを止めることに集中した」



 その微笑みを受けて、ココの手は小刻みに震えていた。



「待って……嘘、でしょ……そんなことって。私たち、過去に……付き合ってた、の……?」



「さっきも言ったが、婚約していたよ。君は言ってた。結婚式では、おそろいの白の衣装を着て、君の育てたラナンキュラスをブーケにしようって。この日のために、小さいときから大事に取っておいたものだと」



 ラナンキュラス。自分が一番好きな花。

 誰も知らない。言ったら笑われてしまいそうだから、木のうろに隠して、自分だけの秘密にしていた。

 それを言い当てられて、ココは脳天を殴られたような衝撃を感じた。



(うそでしょう……!? そんなこと、言われたら……)



 蒼白ながらも、ココはぎゅっと拳を握った。

 いままでの態度も、なぜココを好きになったのかも……その理由も言われたら。

 

(信じるしか、ないじゃない……)



 ココはアレックスに言った。



「アレク……彼は本当の事を言ってる。グレアム、信じるわ。あなたの言ってる事。それで……イヴは? 彼女は今何を?」



 アレックスが、痛いほどにグレアムを見る。

 グレアムはうつむいて、ぼそりと言った。



「ディック・イーストの言うことは本当だ……。彼女は、この遺跡の呪いを処分させるために、俺が作った人造人間だ」



 その言葉に、ココが息をのむ。

 アレックスは身を乗り出した。



「ちょっと待て……待ってくれよ、それじゃイヴは、今」



 グレアムはうなずいた。



「な、なんでそんなひどい事が出来るんだよ!? 呪いをどうにかするなら、お前の方が得意だろ!? それに言ってくれりゃ、俺も皆も力を貸しただろ……!」



「ダメだ。呪いは、古代の人造人間が発生源だった。それに触れてしまったせいで、君も皆も死んだ。人造人間に触れて、破壊することができるのは、同じ人造人間だけだ。理論的にも、現実的にも」



「人造人間はパラモデア……で、動いてるのか?」



「そうだ。人間は、あれに触れることができないというのは、本当だった。だからイヴは、人造人間の攻撃に耐えパラモデアを砕けるよう、俺の魔力を糧に、ずっと訓練を重ねてきていた……」



 アレックスの動きがぴたりと止まる。

 アレックスの中で、すべての符号が一致した。

 

 ――なぜ、似合わない決闘術などをしていたのか。

 ――なぜ、なんてことないお菓子をあんなに喜んでいたのか。

 ――なぜ、大事なピィピィを、アレックスとココに託したのか。



「つまり……つまりイヴは、遺跡の中で、古代の人造人間と戦って死ぬために作ったって、ことか……?」



 アレックスのその声は、震えていた。



「死ぬというのは適切ではない。あれは、人間ではない。ものだからだ」



 冷静にそう返したグレアムに、アレックスは目を剥いた。



「よく……よくそんなことが言えるな!? お前は何とも思わないのかよ! ココを助けるために、イヴが死んでも……死んでもいいって……!」



「ココだけじゃない。君も俺も死ぬ。君にはつらいかもしれないが――そもそも情を掛けた君が間違っていたんだ。俺の監督不行き届きでもあるが」



 アレックスが、拳をぶるぶるふるわせる。



「お前……人の心、ないのか…‥?

イヴは……イヴは、あんなちっさい体で、必死で決闘術やってたんだぞ……。たったいっこのキャンディを、何度もお礼を言って喜んで……友達ができてうれしいって……それを、お前は……!」



 ガッ、とアレックスはグレアムの襟首をつかんだ。



「いたわる気持ちひとつなく、ずっとイヴを粗末に扱い続けた――! 最低の野郎だよ、お前は……!」



 しかしグレアムは、アレックスの手を掴んでギッ、とアレックスをにらんだ。



「最低だって? 君の方が、よほど残酷な事をしてるじゃないか」



「なんだって……?」



「エヴァンジェリンは、最初から今日死ぬと決まっていた。それなのに、友達だの恋人だのできれば、苦しむのはあたりまえだ。周囲も、エヴァンジェリン自身も。

屠殺する家畜には、最初から情などない方がいい。それとも、わざわざ情が湧いたあとに死地に送り出せ――と君は言うのか?」



「な……!」



「優しくしたら――人間扱いしたら、その分辛くなる。だから俺は、彼女を閉じ込めた。必要な技術を身に付ける以外は人とかかわるなと命令した。その方が、あれは幸せだったんだ。何も知らずに、道具のまま生まれ、道具のまま戦って死ぬ方が、楽に決まっているだろう……!」



 二人の言いあいを、ココは唇を噛んで見つめていた。



「それをアレックス、お前が……余計な事をしたせいで! あれは人間みたいに変わってしまった。何も思わないわけないだろう! 日に日にあいつが生き生きしだして、俺を怖がらなくなって、笑いながら『みんなのために命をつかいたい』なんて言うようになって……!」



 グレアムがアレックスを、恨みのこもった目で睨む。



「お前が、あいつを人間に近づけた。お前が余計な事をしてくれたせいで……俺は、俺は……あいつを殺す事が……っ」



 その声が苦し気に揺れる。グレアムは目をきつくつぶって、嗚咽を漏らした。



「お前……」



 ココはそっと二人の間に割って入った。



「グレアム……あなたも苦しんだのね。イヴを死なせることを……」



 グレアムは無言だった。しかし反論しないことが、肯定のようなものだった。

 アレックスは、そんなグレアムから手を離し、無言で立ち上がった。



「……どけよ。お前の代わりに、俺が遺跡の中に行く」
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