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囚われのリンドウ
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「昨夜、兵舎の牢にて不審な動きがありました。」
一同の視線を浴びながら、会議室でトラディスは報告していた。
「ほう、どのような動きだ」
王の問いに、彼は簡潔に事実を述べた。
「ふむ・・・そうか」
それを聞いて、王はしばし考え込んだ。その壮年の顔は、大鷲のように精悍で、皆に大しては闊達だが、昔のような力に溢れる彼を知っている者からすれば、違和感を感じるだろう。
王は昔より考え込むことが、沈黙が多くなった。それは老いのためか、疲れのためなのか・・・・。
だが、他の人物によりその沈黙は破られた。
「私には大した問題には思えませんがね。たかが小娘一人、どうにでもなるではないか。気になるのならさっさと始末してしまえば良い」
王の弟であるシャルリュスは目を細めてそういった。
同じ年老いてはいるが、この男は油断ならない蛇を連想させる風貌をしている。
トラディスは、遠縁にあたるこの叔父がやや苦手だった。
しかし、皆この男には一目置いていた。判断力に優れていて、どんな悪い状況でもピタリとその打開策を考え出すことができる実力の持ち主だからである。
昔、戦に負けて滅亡寸前だったイベリスを立て直すため、ウツギに目をつけたのも彼だった。
「しかし、叔父上。アレは后様のもちもの。勝手に処分しては外交問題になりかねないのでは」
昨夜トルドハル王に釘を刺されたばかりのトラディスはそういったが。シャルリュスはふんと鼻を鳴らした。
「情けないぞ、トラディスよ。軍の長たるそなたがそのように弱腰では。いかにトリトニア国が強大とはいえ、こちらにはジュエルがあるのだ。金に支配されているあいつらは、ジュエルを多く持つ我々に強くは出られまい」
トラディスが反論する前に、王が口を開いた。
「だが、油断はできぬぞ。我々がジュエルを手にし、国が富んだことは今や他の国にも知れ渡っている。みな、虎視眈々とジュエルを掠め取ろうと狙っているであろう、トリトニア国も例外ではない・・・」
「では軍の予算でもふやしますかな?それとも后の持参金をそれにあてようか?」
シャルリュスは皮肉を交えてそう提案した。
「そうなれば、ありがたい。今は装備の数が足りておらぬので」
「足りぬのか。それなら早く補充をするがよい」
王がなんでもないことのようにそういった。
彼はその昔、今のトラディスと同じように軍の長として戦っていた。なので軍の運営に関しては財布のひもがゆるいところがあった。
が、シャルリュスはそんな兄を見てため息をついた。
「先日の婚礼といい、来月の祝賀会といい、金のかかることばかり。言っておきますが、闇の森に后のお通りになった馬車道を作るだけで、持参金相当の金は消えましたぞ。少しはやりくりするほうの身にもなっていただきたいものですな」
すると、王の隣の席に座っている青年が言った。
「そのように苦しい状態なら、私の祝賀会など必要ありません。中止にしてもいいのでは?父上」
そのまっすぐな眼差しを受け止めつつ、王は首を振った。
「いや、成人の祝賀はお前のためにやるのではない、レオンハルト。わが国のためにするのだ。周辺の国々に、イベリスの後継者ここにありとしらしめるためにな」
「ですが・・・外部の者を招き入れるのは、先例がありません。万が一ジュエルに手でも出されたら――」
言い募る王子を、シャルリュスがさえぎった。
「いやいや、王子。王がお決めになったこと、そうたやすく翻すお方ではないことはおわかりだろう?それに、これはいい牽制の機会にもなる。そろそろわが国も、外の向けて広がっていかねばならない時がきている。いつまでもひきこもって井の中の蛙では、あっというまに他国に足元をすくわれかねない・・・ さて、その盛大な祝賀を行うためにも外貨を稼がなくては。そこで、昨日採掘されたジュエルの交渉相手だが・・・」
話は財務関係にうつった。もう自分の発言する幕は終わった。そう思ったトラディスはただ耳を傾けることにした。
そんな態度の彼らを見て、シャルリュスはかすかに灰色の眉をひそめた。
ジュエルの取引はシャルリュスが一手に行っており、取引相手には領土に踏み込ませず自分の選び抜いた部下を少数派遣して巧みに商談を行い、イベリスは今までになかったほど順調に外貨を稼いでいた。
使うばかりで稼ぐことに重きをおかない王や兵たちを、シャルリュスは内心で快く思っていなかった。
夕刻。セレンはまたしても団長の荒れ果てた執務室で船をこいでいた。半日外で待っている間、城を出来る限り観察したが、やたら堅固な城だという事いがい何の情報も得られなかった。
団長は帰宅してすぐ机に向かって、なにやら仕事をしている。昨日の寝不足もたあってセレンは眠たくてしかたがなかった。
そこへ、「ごめんください」と外から声がしたので、セレンもトラディスもはっと顔を上げた。
団長について屋敷の玄関まで行くと、そこには男の人が立っていた。
礼儀正しく優しげなたたずまいで、一見して軍人ではないとセレンにはわかった。
(どこか良い家の使用人・・・ってとこかな)
ところがトラディスは不快そうな顔をしていた。
「・・・何か用か」
男は深々と頭を下げた。
「トラディス様、お忙しいところを申し訳ありません。我が主が夕食にトラディス様をお招きしたいと申しております。どうか来ていただけませんか」
「・・・夕食はいつも兵舎で摂ることにしている。それも仕事だ」
顔をしかめてそういうトラディスに、男は食い下がった。
「ですが、今夜は特にお話したいことがあると」
トラディスはハァとため息をついた。
「・・・わかった。何時だ」
「ぜひ今からおいで下さい。そちらの娘さんも一緒に」
(それが目的だな、全く…)
あの人の考えそうなことだ。だがここで辞退したところで彼は思い通りにするだろう。トラディスは諦めた。
「おい、ウツギ。ついてこい」
セレンは何がおこっているのかわからなかったが、命令されればついていくしかない。
男に案内されてたどり着いたのは、団長の家とは比べ物にならないほど豪華な館だった。石造りの屋敷だが、城や兵舎とは違って贅を凝らしたつくりになっていて、同じ黒い石でもどこか優美だ。
庭には紅葉し始めている低木が生い茂り、石畳の敷かれた地面の間には紅色や橙色の花が咲き零れている。どこか毒々しいその紅い花は、ひっそりと木陰に咲いているにもかかわらずセレンの目を引いた。石の灯篭にはところどころ灯がともっており、あやしくあたりを照らし出していた。
(一体、誰の館なんだろう)
館の中に足を踏み入れると、すべての床に絨毯が敷いてあるのがわかった。ところどころ絵も掛けられている。女の人や裸婦の絵ばかりだった。
「おお、急に呼びたててすまなかった。よくきてくれたな」
奥の部屋から初老の男が出てきた。髪は豊かだがほとんど白髪だ。
その笑みの浮かぶ顔は柔和そうに見えるが、どこか油断ならない男だな、とセレンは直感的に思った。
「いえ、叔父上」
「それが、今朝申していたウツギの娘か、ふうむ」
その男はセレンの全身をさっと一瞥した。
その目線は、トラディスや兵士たち、そしてアサギリのものとも違った。
憎しみや怒り、好奇心ではなく、ただ「モノ」として品定めしている眼差しだった。
「お言葉ではありますが、私はウツギではありません」
セレンがそういったとたん、男から平手が飛んできた。セレンの頬にがパァン!と鳴った。
が、瞬時に足に力を入れてふんばったおかげで、なんとかよろけずにすんだ。
「私は口答えする女は嫌いでね。ウツギではないと言うが、小汚くてこれではよくわからん」
腸が煮えくり返るように腹が立ったが、立場が立場なのでセレンはぐっと唇を噛んで我慢した。
男はそんなセレンを尻目に、パンパンと手を叩いて召使を呼んだ。
「この館に汚いものが足を踏み入れるのはがまんならん」
「かしこまりました、旦那さま」
の女はセレンの手をぐいっととり、引きずるようにして別の部屋へと連れて行った。まるで物に対するような扱いに、セレンは本能的な恐怖を感じた。
(何をしようっていうんだ?)
連れて行かれた部屋には大きなついたてがあり、一人女の人がいた。
「あら、その方は?」
「この娘に湯浴みを」
にこやかに聞く女の人に、召使は無愛想に答えた。お互いの表情は両極端すぎて、何か不穏なものを感じさせた。
「ええ、わかったわ」
召使が出て行ったので、部屋にはその女の人とセレンの2人きりとなった。
その人を見てセレンは驚いた。
あまりにも美人だから…ではなく、その髪と目の色によって。
「あなたは、もしかして…!」
女の人はにっこりと笑った。
「そう、ウツギよ。私はリンドウ。あなたが噂のセレンね。まぁまぁ。かなり汚れちゃってるわね。綺麗にしなくちゃ」
リンドウはついたてを指差した。
「お風呂、沸いているわよ」
リンドウが世話するといってきかなかったので、少し気後れしたがセレンは彼女の手を借りて湯浴みをした。
いいにおいのする湯だったが、セレンが入って身体をこすると湯の色が黒くなり、さすがのセレンも恥ずかしかった。
「あらまぁ。どの位お風呂に入らせてもらえなかったのかしら、ひどいわねぇ」
トリトニアを出て以来、ほとんど風呂などはいっていなかった。飲み水すら事欠く数日間だったのだから。
「ごめんなさい、汚してしまって」
「あら、いいのよ」
リンドウは優しくセレンの背中を洗いながら言った。年齢はわからないが、まるでお母さんのようだ…。こんなふうに面倒を見てもらうことなんて初めてなのでなんともくすぐったい気持ちだったが、セレンは気になってしかたがないことがあった。
「あの…リンドウさん。聞いてもいいでしょうか」
「なにかしら」
「無理だったら、答えなくても良いのですが…」
リンドウは静かに言った。
「なぜ、ウツギの私がここにいるのか、気になるのね」
見透かされていたが、セレンはうなずいた。
「察しはついてると思うけど、この館の主、シャルリュス様はとても精力的な方なの。ある意味で。私は…」
そこでリンドウは言葉を切った。
「すみません、辛いことを聞いて…」
やっぱりか。先ほどの老人の姿を思い出してセレンは怒りを感じた。
そういえば、セレンの手を引いた召使も見目のよい女だった。
つまりあの老人は、権力にあかせて好きなように美人を略奪しているのだ。リンドウも美しいからその目に留まり、無理やりウツギの村から連れ出され、ここで…
「いいのよ。それに、ここの生活もそう悪くないわ。いう事さえ聞いていれば、食事に困らないしね」
そう言うリンドウだったが、その表情は楽しそうとはいいがたかった。
申し訳なくなり黙りこんでしまったセレンに、リンドウはわざとのように明るく言った。
「さっ、これでさっぱりしたわ。待って、いま布を持ってくるから」
「トラディス。先ほどの会議ではすまなかった。君らしからぬ意見だったのでつい、言葉が過ぎてしまったようだ」
空になったグラスに、美しい酌女が酒を注ぐ。シャルリュスはそれをトラディスにもすすめた。
「いや、自分はけっこう」
「酒もしない、女と博打も興味なし・・・君は本当に享楽には向かぬ男だ」
ほめられているのかけなされているのかわからず、トラディスは押し黙った。
だが、シャルリュスのような人物からすれば、ふがいない男だとけなしているのかもしれない。そうトラディスは思った。
「だが、そんな君だからこそ、王は信頼を置いている。彼と君は、似たところが多いからね」
「は、もったいないことです」
トラディスは慎重に答えた。この叔父がこうして相手に媚びるのは、何か下心があるときだけだ。
「王は君の意見ならちゃんと受け入れるからな。そこで一つ、頼まれてほしいのだが…おっと、そう身構えないでくれ。大したことではない」
やはり来たか。トラディスはため息をつきたい気分だった。
「ウツギを手にしてから10年。この国も立ち直って富んできた。そろそろ拡大して成長するときだ。その気になれば、領土を広げることもできよう…だがそのためにはもっと金がいる。もっと国庫に資金をあつめたい。いちばん手っ取り早いのはジュエルの取れ高をもっと上げることだ。それには、奴隷がもっといる。奴隷狩りのため辺境へ兵を出すよう、王に進言してはくれないかね?」
一拍置いて、トラディスは答えた。
「王は私の意見など聞きませぬ。昨日も反対をされたばかりです。その上、私は叔父上のように経済や財政に明るくありません。なので自分がそのようなことを王に進言するのは、不自然かと」
「そこは、大丈夫だろう。王も老いてきている。体も弱ったし、昔ほど我も強くない。お気に入りの君のいう事なら、すぐ取り入れるはずだ。だが君もこの国の将来を担う重鎮となるのだから軍事一本ではなくて、財政や外交のことも学んでもらわぬと困るぞ」
王は耄碌してきた…と暗にほのめかし、この老獪な叔父は自分を焚きつけようとしている。トラディスはそうわかった。
「叔父上にはかないませぬが、勉強させていただきたいと思います。とはいえ、王が一番頼りにしているのは誰よりも叔父上ではないですか。自分などより、よほど説得も巧みにされる」
お互い世辞で飾った、譲歩せぬ応酬を繰り返していると、そこへセレンが連れられてきた。
リンドウの手によって洗い上げられ、新しい服を与えてもらったセレンはおずおずと食事している間に入ってきた。
「ほう、だいぶ見違えたではないか」
すでに酒の入っているシャルリュスは、先ほどよりもねばついた視線でセレンを眺めた。
(・・・いやだな。見られたところが、汚れていくみたいだ・・・)
リンドウの用意してくれた服は露出は少ないが、はっきりと女とわかるドレスであった。身体の線を隠したくて、セレンはさりげなく服をひっぱった。
「これで叔父上もおわかりでしょう。これはウツギの民です」
「まぁ、お前の仕事熱心な気持ちもわからんではないが・・・これでは断定はできないのではないか?」
「しかし、調べ上げた所、こいつは侍女にしては不審な点が多すぎる。大公から送られた間諜の可能性が高い」
「ふーむ、それならもっと、成熟した大人の女を送り込むのではないかね?これはまるっきり尻の青い小娘ではないか」
何を言われても、セレンは無表情を貫いた。
「しかしまあ、たまにはこういうのも趣向が変わっていいかもしれん。どうだトラディス、どうせ殺さないのなら、私にこの娘をくれまいか」
セレンははっとして顔を上げた。そういう老人の目は、冷たい好色さが感じられた。セレンは先ほどよりも強い怒りが湧き上がるのを感じた。
(この男、リンドウだけでは飽き足らず・・・!)
「それは、叔父上がこいつをずっと監視してくれるという事でしょうか」
「この屋敷には大勢ひとがいるからな。監視の目には事欠かんだろう」
「ですが、すべて女でしょう?兵士ですら、こいつは出し抜いたんですよ。女には任せられません」
シャルリュスは大して興味もなさそうに手を振った。
「わかった、仕事熱心の君の意見を曲げるのは難しそうだ」
セレンはほっとして、ガチガチに強ばっていた肩の力がぬけた。そしていっそう、リンドウを気の毒に思った。
来たときと同じく、帰り道も団長はひたすら無言だった。セレンはなんとも言えない気持ちでそのあとをついていった。
(癪だけど、この男のおかげで助かったな・・・)
認めたくないような、釈然としない気持ちで彼の家へと戻ったセレンだったが、ふと気がついた。
もう、夜も更けている。
「・・・私は、どこで寝ればいいのですか」
トラディスはぎろりとセレンを見た。
「寝所はこっちだ。ついてこい」
雑然とした廊下を行く彼の手には固そうな縄の束があった。セレンは嫌な予感がした。
「手を出せ」
寝室に入ると彼はそう命令した。従わなかったら殺されるかもしれない。セレンはしぶしぶ両手を差し出した。
「そっちじゃない、利き手だ」
いつの間に見ていたのか。セレンは内心舌打ちをしつつ、右手を差し出した。容赦ない力で縄が巻きつけられた。
「一応聞くが、あの家で余計なものを渡されてはいまいな?」
「余計なもの?」
「薬や、刃物だ」
セレンは首をふった。
「まさか。もらったのはこの服と、下穿きと・・・ひもくらいです」
「ひもだと?」
リンドウは、器用にセレンの髪を結い上げてくれた。そこに結んである布のリボンをセレンは指差した。
「これですけど」
「それをよこせ」
こんな紐で何かできるはずもないのに。ばかばかしく思いながらセレンは髪をといてトラディスに渡した。
(せっかく結ってもらったのだけど・・・)
あの家で使った香湯の香りが、解かれた髪からたちのぼるのがわかった。
その香りにトラディスは顔をしかめ、はじかれたように後ろへあとずさった。まるで自分でない誰かが体を動かしたよううに、その行動は衝動的だった。
「・・・なんです?」
不審そうにセレンは聞いた。
一瞬取り乱してしまったが、すぐに平静をとりもどした団長は言った。
「重ねて聞くが、他にはないな?」
本当であれば刃物など隠し持っていないか身体を調べる必要があるが、この女に触れるのはやはり猛烈に気が進まなかった。
「ないですよ。たしかめますか?」
一瞬ためらったがトラディスは首を振った。そしてセレンの手首のロープの端を、自分の腕に結んだ。
「今夜はここで寝ろ。お前が妙な動きをすればすぐに叩き斬る。肝にめいじておけ」
そういって彼は固そうな寝台にごろりと横になった。
(床か、ハァ・・・)
まぁ、幸いにこの部屋には絨毯がしいてあるので、よしとするか。そう考えてふいにセレンはくすりと笑った。
(昔はむき出しの地面や風の強い荒地でも文句を言わず寝ていたのに。いつのまにか贅沢になれてしまったな)
「・・・何を笑っている」
するどい声がしたのでセレンは笑いをひっこめた。
「床では不満だとでもいうのか」
そのあざけるような言葉に、セレンは静かに言った。
「いいえ。屋根の下で寝れるだけありがたいです」
その殊勝な言葉に、トラディスは顔をしかめた。
「フン、心にもないことを」
これだから男とちがって女は嫌だ、とトラディスは思った。
息を吐く様に嘘をつく。本心とまったく逆の事でも顔色一つ変えずに口に出す。
「いえ・・・今日のところは、礼を言います」
一瞬セレンが何を言っているのかわからなかったが、シャルリュスの事かと思い当たり、トラディスは低い声でつぶやいた。
「ウツギの女でも、あの館に囲われるのは嫌なものか」
「何か?」
「うるさい。もう寝ろ」
ほどなくして、トラディスは眠りについたようだった。
(おどろいた・・・おやすみ3秒だな)
セレンはその神経を疑った。敵と疑われる相手と同じ部屋に寝ていて、こうもすぐ眠ってしまうとは。
チャンスとばかりにセレンは室内を見渡した・・・が、役に立ちそうなものはない。セレンは薄闇の中彼を盗み見た。
(たぶん、戦場でもすぐ寝て危険を察知すると一瞬で起きるタイプだな・・・剣もないし、純粋に取っ組み合っても勝ち目はない。となると・・・)
こっそり抜け出すのは、無理そうだ。
そう思い、セレンも諦めて目を閉じた。
今夜のところは。
一同の視線を浴びながら、会議室でトラディスは報告していた。
「ほう、どのような動きだ」
王の問いに、彼は簡潔に事実を述べた。
「ふむ・・・そうか」
それを聞いて、王はしばし考え込んだ。その壮年の顔は、大鷲のように精悍で、皆に大しては闊達だが、昔のような力に溢れる彼を知っている者からすれば、違和感を感じるだろう。
王は昔より考え込むことが、沈黙が多くなった。それは老いのためか、疲れのためなのか・・・・。
だが、他の人物によりその沈黙は破られた。
「私には大した問題には思えませんがね。たかが小娘一人、どうにでもなるではないか。気になるのならさっさと始末してしまえば良い」
王の弟であるシャルリュスは目を細めてそういった。
同じ年老いてはいるが、この男は油断ならない蛇を連想させる風貌をしている。
トラディスは、遠縁にあたるこの叔父がやや苦手だった。
しかし、皆この男には一目置いていた。判断力に優れていて、どんな悪い状況でもピタリとその打開策を考え出すことができる実力の持ち主だからである。
昔、戦に負けて滅亡寸前だったイベリスを立て直すため、ウツギに目をつけたのも彼だった。
「しかし、叔父上。アレは后様のもちもの。勝手に処分しては外交問題になりかねないのでは」
昨夜トルドハル王に釘を刺されたばかりのトラディスはそういったが。シャルリュスはふんと鼻を鳴らした。
「情けないぞ、トラディスよ。軍の長たるそなたがそのように弱腰では。いかにトリトニア国が強大とはいえ、こちらにはジュエルがあるのだ。金に支配されているあいつらは、ジュエルを多く持つ我々に強くは出られまい」
トラディスが反論する前に、王が口を開いた。
「だが、油断はできぬぞ。我々がジュエルを手にし、国が富んだことは今や他の国にも知れ渡っている。みな、虎視眈々とジュエルを掠め取ろうと狙っているであろう、トリトニア国も例外ではない・・・」
「では軍の予算でもふやしますかな?それとも后の持参金をそれにあてようか?」
シャルリュスは皮肉を交えてそう提案した。
「そうなれば、ありがたい。今は装備の数が足りておらぬので」
「足りぬのか。それなら早く補充をするがよい」
王がなんでもないことのようにそういった。
彼はその昔、今のトラディスと同じように軍の長として戦っていた。なので軍の運営に関しては財布のひもがゆるいところがあった。
が、シャルリュスはそんな兄を見てため息をついた。
「先日の婚礼といい、来月の祝賀会といい、金のかかることばかり。言っておきますが、闇の森に后のお通りになった馬車道を作るだけで、持参金相当の金は消えましたぞ。少しはやりくりするほうの身にもなっていただきたいものですな」
すると、王の隣の席に座っている青年が言った。
「そのように苦しい状態なら、私の祝賀会など必要ありません。中止にしてもいいのでは?父上」
そのまっすぐな眼差しを受け止めつつ、王は首を振った。
「いや、成人の祝賀はお前のためにやるのではない、レオンハルト。わが国のためにするのだ。周辺の国々に、イベリスの後継者ここにありとしらしめるためにな」
「ですが・・・外部の者を招き入れるのは、先例がありません。万が一ジュエルに手でも出されたら――」
言い募る王子を、シャルリュスがさえぎった。
「いやいや、王子。王がお決めになったこと、そうたやすく翻すお方ではないことはおわかりだろう?それに、これはいい牽制の機会にもなる。そろそろわが国も、外の向けて広がっていかねばならない時がきている。いつまでもひきこもって井の中の蛙では、あっというまに他国に足元をすくわれかねない・・・ さて、その盛大な祝賀を行うためにも外貨を稼がなくては。そこで、昨日採掘されたジュエルの交渉相手だが・・・」
話は財務関係にうつった。もう自分の発言する幕は終わった。そう思ったトラディスはただ耳を傾けることにした。
そんな態度の彼らを見て、シャルリュスはかすかに灰色の眉をひそめた。
ジュエルの取引はシャルリュスが一手に行っており、取引相手には領土に踏み込ませず自分の選び抜いた部下を少数派遣して巧みに商談を行い、イベリスは今までになかったほど順調に外貨を稼いでいた。
使うばかりで稼ぐことに重きをおかない王や兵たちを、シャルリュスは内心で快く思っていなかった。
夕刻。セレンはまたしても団長の荒れ果てた執務室で船をこいでいた。半日外で待っている間、城を出来る限り観察したが、やたら堅固な城だという事いがい何の情報も得られなかった。
団長は帰宅してすぐ机に向かって、なにやら仕事をしている。昨日の寝不足もたあってセレンは眠たくてしかたがなかった。
そこへ、「ごめんください」と外から声がしたので、セレンもトラディスもはっと顔を上げた。
団長について屋敷の玄関まで行くと、そこには男の人が立っていた。
礼儀正しく優しげなたたずまいで、一見して軍人ではないとセレンにはわかった。
(どこか良い家の使用人・・・ってとこかな)
ところがトラディスは不快そうな顔をしていた。
「・・・何か用か」
男は深々と頭を下げた。
「トラディス様、お忙しいところを申し訳ありません。我が主が夕食にトラディス様をお招きしたいと申しております。どうか来ていただけませんか」
「・・・夕食はいつも兵舎で摂ることにしている。それも仕事だ」
顔をしかめてそういうトラディスに、男は食い下がった。
「ですが、今夜は特にお話したいことがあると」
トラディスはハァとため息をついた。
「・・・わかった。何時だ」
「ぜひ今からおいで下さい。そちらの娘さんも一緒に」
(それが目的だな、全く…)
あの人の考えそうなことだ。だがここで辞退したところで彼は思い通りにするだろう。トラディスは諦めた。
「おい、ウツギ。ついてこい」
セレンは何がおこっているのかわからなかったが、命令されればついていくしかない。
男に案内されてたどり着いたのは、団長の家とは比べ物にならないほど豪華な館だった。石造りの屋敷だが、城や兵舎とは違って贅を凝らしたつくりになっていて、同じ黒い石でもどこか優美だ。
庭には紅葉し始めている低木が生い茂り、石畳の敷かれた地面の間には紅色や橙色の花が咲き零れている。どこか毒々しいその紅い花は、ひっそりと木陰に咲いているにもかかわらずセレンの目を引いた。石の灯篭にはところどころ灯がともっており、あやしくあたりを照らし出していた。
(一体、誰の館なんだろう)
館の中に足を踏み入れると、すべての床に絨毯が敷いてあるのがわかった。ところどころ絵も掛けられている。女の人や裸婦の絵ばかりだった。
「おお、急に呼びたててすまなかった。よくきてくれたな」
奥の部屋から初老の男が出てきた。髪は豊かだがほとんど白髪だ。
その笑みの浮かぶ顔は柔和そうに見えるが、どこか油断ならない男だな、とセレンは直感的に思った。
「いえ、叔父上」
「それが、今朝申していたウツギの娘か、ふうむ」
その男はセレンの全身をさっと一瞥した。
その目線は、トラディスや兵士たち、そしてアサギリのものとも違った。
憎しみや怒り、好奇心ではなく、ただ「モノ」として品定めしている眼差しだった。
「お言葉ではありますが、私はウツギではありません」
セレンがそういったとたん、男から平手が飛んできた。セレンの頬にがパァン!と鳴った。
が、瞬時に足に力を入れてふんばったおかげで、なんとかよろけずにすんだ。
「私は口答えする女は嫌いでね。ウツギではないと言うが、小汚くてこれではよくわからん」
腸が煮えくり返るように腹が立ったが、立場が立場なのでセレンはぐっと唇を噛んで我慢した。
男はそんなセレンを尻目に、パンパンと手を叩いて召使を呼んだ。
「この館に汚いものが足を踏み入れるのはがまんならん」
「かしこまりました、旦那さま」
の女はセレンの手をぐいっととり、引きずるようにして別の部屋へと連れて行った。まるで物に対するような扱いに、セレンは本能的な恐怖を感じた。
(何をしようっていうんだ?)
連れて行かれた部屋には大きなついたてがあり、一人女の人がいた。
「あら、その方は?」
「この娘に湯浴みを」
にこやかに聞く女の人に、召使は無愛想に答えた。お互いの表情は両極端すぎて、何か不穏なものを感じさせた。
「ええ、わかったわ」
召使が出て行ったので、部屋にはその女の人とセレンの2人きりとなった。
その人を見てセレンは驚いた。
あまりにも美人だから…ではなく、その髪と目の色によって。
「あなたは、もしかして…!」
女の人はにっこりと笑った。
「そう、ウツギよ。私はリンドウ。あなたが噂のセレンね。まぁまぁ。かなり汚れちゃってるわね。綺麗にしなくちゃ」
リンドウはついたてを指差した。
「お風呂、沸いているわよ」
リンドウが世話するといってきかなかったので、少し気後れしたがセレンは彼女の手を借りて湯浴みをした。
いいにおいのする湯だったが、セレンが入って身体をこすると湯の色が黒くなり、さすがのセレンも恥ずかしかった。
「あらまぁ。どの位お風呂に入らせてもらえなかったのかしら、ひどいわねぇ」
トリトニアを出て以来、ほとんど風呂などはいっていなかった。飲み水すら事欠く数日間だったのだから。
「ごめんなさい、汚してしまって」
「あら、いいのよ」
リンドウは優しくセレンの背中を洗いながら言った。年齢はわからないが、まるでお母さんのようだ…。こんなふうに面倒を見てもらうことなんて初めてなのでなんともくすぐったい気持ちだったが、セレンは気になってしかたがないことがあった。
「あの…リンドウさん。聞いてもいいでしょうか」
「なにかしら」
「無理だったら、答えなくても良いのですが…」
リンドウは静かに言った。
「なぜ、ウツギの私がここにいるのか、気になるのね」
見透かされていたが、セレンはうなずいた。
「察しはついてると思うけど、この館の主、シャルリュス様はとても精力的な方なの。ある意味で。私は…」
そこでリンドウは言葉を切った。
「すみません、辛いことを聞いて…」
やっぱりか。先ほどの老人の姿を思い出してセレンは怒りを感じた。
そういえば、セレンの手を引いた召使も見目のよい女だった。
つまりあの老人は、権力にあかせて好きなように美人を略奪しているのだ。リンドウも美しいからその目に留まり、無理やりウツギの村から連れ出され、ここで…
「いいのよ。それに、ここの生活もそう悪くないわ。いう事さえ聞いていれば、食事に困らないしね」
そう言うリンドウだったが、その表情は楽しそうとはいいがたかった。
申し訳なくなり黙りこんでしまったセレンに、リンドウはわざとのように明るく言った。
「さっ、これでさっぱりしたわ。待って、いま布を持ってくるから」
「トラディス。先ほどの会議ではすまなかった。君らしからぬ意見だったのでつい、言葉が過ぎてしまったようだ」
空になったグラスに、美しい酌女が酒を注ぐ。シャルリュスはそれをトラディスにもすすめた。
「いや、自分はけっこう」
「酒もしない、女と博打も興味なし・・・君は本当に享楽には向かぬ男だ」
ほめられているのかけなされているのかわからず、トラディスは押し黙った。
だが、シャルリュスのような人物からすれば、ふがいない男だとけなしているのかもしれない。そうトラディスは思った。
「だが、そんな君だからこそ、王は信頼を置いている。彼と君は、似たところが多いからね」
「は、もったいないことです」
トラディスは慎重に答えた。この叔父がこうして相手に媚びるのは、何か下心があるときだけだ。
「王は君の意見ならちゃんと受け入れるからな。そこで一つ、頼まれてほしいのだが…おっと、そう身構えないでくれ。大したことではない」
やはり来たか。トラディスはため息をつきたい気分だった。
「ウツギを手にしてから10年。この国も立ち直って富んできた。そろそろ拡大して成長するときだ。その気になれば、領土を広げることもできよう…だがそのためにはもっと金がいる。もっと国庫に資金をあつめたい。いちばん手っ取り早いのはジュエルの取れ高をもっと上げることだ。それには、奴隷がもっといる。奴隷狩りのため辺境へ兵を出すよう、王に進言してはくれないかね?」
一拍置いて、トラディスは答えた。
「王は私の意見など聞きませぬ。昨日も反対をされたばかりです。その上、私は叔父上のように経済や財政に明るくありません。なので自分がそのようなことを王に進言するのは、不自然かと」
「そこは、大丈夫だろう。王も老いてきている。体も弱ったし、昔ほど我も強くない。お気に入りの君のいう事なら、すぐ取り入れるはずだ。だが君もこの国の将来を担う重鎮となるのだから軍事一本ではなくて、財政や外交のことも学んでもらわぬと困るぞ」
王は耄碌してきた…と暗にほのめかし、この老獪な叔父は自分を焚きつけようとしている。トラディスはそうわかった。
「叔父上にはかないませぬが、勉強させていただきたいと思います。とはいえ、王が一番頼りにしているのは誰よりも叔父上ではないですか。自分などより、よほど説得も巧みにされる」
お互い世辞で飾った、譲歩せぬ応酬を繰り返していると、そこへセレンが連れられてきた。
リンドウの手によって洗い上げられ、新しい服を与えてもらったセレンはおずおずと食事している間に入ってきた。
「ほう、だいぶ見違えたではないか」
すでに酒の入っているシャルリュスは、先ほどよりもねばついた視線でセレンを眺めた。
(・・・いやだな。見られたところが、汚れていくみたいだ・・・)
リンドウの用意してくれた服は露出は少ないが、はっきりと女とわかるドレスであった。身体の線を隠したくて、セレンはさりげなく服をひっぱった。
「これで叔父上もおわかりでしょう。これはウツギの民です」
「まぁ、お前の仕事熱心な気持ちもわからんではないが・・・これでは断定はできないのではないか?」
「しかし、調べ上げた所、こいつは侍女にしては不審な点が多すぎる。大公から送られた間諜の可能性が高い」
「ふーむ、それならもっと、成熟した大人の女を送り込むのではないかね?これはまるっきり尻の青い小娘ではないか」
何を言われても、セレンは無表情を貫いた。
「しかしまあ、たまにはこういうのも趣向が変わっていいかもしれん。どうだトラディス、どうせ殺さないのなら、私にこの娘をくれまいか」
セレンははっとして顔を上げた。そういう老人の目は、冷たい好色さが感じられた。セレンは先ほどよりも強い怒りが湧き上がるのを感じた。
(この男、リンドウだけでは飽き足らず・・・!)
「それは、叔父上がこいつをずっと監視してくれるという事でしょうか」
「この屋敷には大勢ひとがいるからな。監視の目には事欠かんだろう」
「ですが、すべて女でしょう?兵士ですら、こいつは出し抜いたんですよ。女には任せられません」
シャルリュスは大して興味もなさそうに手を振った。
「わかった、仕事熱心の君の意見を曲げるのは難しそうだ」
セレンはほっとして、ガチガチに強ばっていた肩の力がぬけた。そしていっそう、リンドウを気の毒に思った。
来たときと同じく、帰り道も団長はひたすら無言だった。セレンはなんとも言えない気持ちでそのあとをついていった。
(癪だけど、この男のおかげで助かったな・・・)
認めたくないような、釈然としない気持ちで彼の家へと戻ったセレンだったが、ふと気がついた。
もう、夜も更けている。
「・・・私は、どこで寝ればいいのですか」
トラディスはぎろりとセレンを見た。
「寝所はこっちだ。ついてこい」
雑然とした廊下を行く彼の手には固そうな縄の束があった。セレンは嫌な予感がした。
「手を出せ」
寝室に入ると彼はそう命令した。従わなかったら殺されるかもしれない。セレンはしぶしぶ両手を差し出した。
「そっちじゃない、利き手だ」
いつの間に見ていたのか。セレンは内心舌打ちをしつつ、右手を差し出した。容赦ない力で縄が巻きつけられた。
「一応聞くが、あの家で余計なものを渡されてはいまいな?」
「余計なもの?」
「薬や、刃物だ」
セレンは首をふった。
「まさか。もらったのはこの服と、下穿きと・・・ひもくらいです」
「ひもだと?」
リンドウは、器用にセレンの髪を結い上げてくれた。そこに結んである布のリボンをセレンは指差した。
「これですけど」
「それをよこせ」
こんな紐で何かできるはずもないのに。ばかばかしく思いながらセレンは髪をといてトラディスに渡した。
(せっかく結ってもらったのだけど・・・)
あの家で使った香湯の香りが、解かれた髪からたちのぼるのがわかった。
その香りにトラディスは顔をしかめ、はじかれたように後ろへあとずさった。まるで自分でない誰かが体を動かしたよううに、その行動は衝動的だった。
「・・・なんです?」
不審そうにセレンは聞いた。
一瞬取り乱してしまったが、すぐに平静をとりもどした団長は言った。
「重ねて聞くが、他にはないな?」
本当であれば刃物など隠し持っていないか身体を調べる必要があるが、この女に触れるのはやはり猛烈に気が進まなかった。
「ないですよ。たしかめますか?」
一瞬ためらったがトラディスは首を振った。そしてセレンの手首のロープの端を、自分の腕に結んだ。
「今夜はここで寝ろ。お前が妙な動きをすればすぐに叩き斬る。肝にめいじておけ」
そういって彼は固そうな寝台にごろりと横になった。
(床か、ハァ・・・)
まぁ、幸いにこの部屋には絨毯がしいてあるので、よしとするか。そう考えてふいにセレンはくすりと笑った。
(昔はむき出しの地面や風の強い荒地でも文句を言わず寝ていたのに。いつのまにか贅沢になれてしまったな)
「・・・何を笑っている」
するどい声がしたのでセレンは笑いをひっこめた。
「床では不満だとでもいうのか」
そのあざけるような言葉に、セレンは静かに言った。
「いいえ。屋根の下で寝れるだけありがたいです」
その殊勝な言葉に、トラディスは顔をしかめた。
「フン、心にもないことを」
これだから男とちがって女は嫌だ、とトラディスは思った。
息を吐く様に嘘をつく。本心とまったく逆の事でも顔色一つ変えずに口に出す。
「いえ・・・今日のところは、礼を言います」
一瞬セレンが何を言っているのかわからなかったが、シャルリュスの事かと思い当たり、トラディスは低い声でつぶやいた。
「ウツギの女でも、あの館に囲われるのは嫌なものか」
「何か?」
「うるさい。もう寝ろ」
ほどなくして、トラディスは眠りについたようだった。
(おどろいた・・・おやすみ3秒だな)
セレンはその神経を疑った。敵と疑われる相手と同じ部屋に寝ていて、こうもすぐ眠ってしまうとは。
チャンスとばかりにセレンは室内を見渡した・・・が、役に立ちそうなものはない。セレンは薄闇の中彼を盗み見た。
(たぶん、戦場でもすぐ寝て危険を察知すると一瞬で起きるタイプだな・・・剣もないし、純粋に取っ組み合っても勝ち目はない。となると・・・)
こっそり抜け出すのは、無理そうだ。
そう思い、セレンも諦めて目を閉じた。
今夜のところは。
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