7 / 33
毒
しおりを挟む
翌日。セレンは長い長い待ち時間を城壁の前ですごしていた。
(昼ごろ来てから、もうだいぶたったぞ・・・)
山の中腹にあるこの城前からは、イベリスの城下町が見渡せた。日は傾きかけ、そろそろ街も夕日に染まるだろう。
そろそろ兵士も交代の時間のはずだ。セレンは胸の中で算段した。
(交代のスキをついて、少しだけでも抜け出せないかな・・・)
代わりの兵はまだだろうか。セレンが城を見上げると、塔と塔の間にかかる渡り廊下を、見知った顔が歩いているのが見えた。
(あれは・・・シザリア!おーい!!こっちを、見て!気がついて!!!)
セレンはありったけの目力をこめて彼女を見つめた。すると念が通じたのか、シザリアがこちらを見た。
(・・・セレン!!!)
シザリアは一瞬驚いた顔をしたが、セレンの必死な顔を見て軽くうなずいた。ほどなくして、城門のわきの小さな木戸からシザリアが出てきた。
「まぁ、セレンっ・・・!あなた、生きて・・・!!!」
シザリアは持っていた籠を取り落とし、セレンの元へ走りよった。
「おい待て、その女は・・・!」
兵士があわてて止めたが、シザリアはきかなかった。
「かわいそうに、こんなに痩せて!后様も心配なさっているわ、さあ行きましょう」
「やめろ!」
兵士はセレンとシザリアを引き離した。
「この女はウツギの罪人だ、見張るようにと命を受けている!」
シザリアは憤慨してみせた
「まああ、この人が罪人なものですか。私達と同じ、トリトニア出身ですよ」
「とにかく、ならん。見張れとの命なのだ」
「・・・見張るのが、あなたの仕事なの?」
「そうだ」
シザリアは兵士から取り戻すようにセレンの手をぐいとひっぱった。
「ならあなたもミリア様の所へ来るといいわ。見張るのが仕事なら、場所なんてどこでもいいでしょう?」
「罪人に城の中を見せるわけには、いかない!」
「それならセレンには目をつぶっていてもらうわ」
シザリアは兵士をすり抜けて木戸へと向かった。
「こら、いい加減にしないとーーー!」
「あなた方、恥ずかしくないの?!罪もない弱い女をよってたかって!それに私は、后様から命令されているのだからね!后様に逆らう気!?」
兵士はぐっとつまった。シザリアはその迷いを見過ごさなかった。
「大丈夫、少し話して、すぐ戻るわ。あなたの見ている前なら問題ないでしょう?それに、今日の会議は商談が長引いているそうだから、すぐには終わらないわ。さあ」
シザリアの機転によって、セレンはやっとミリア姫を再会できた。
「ミリア様・・・!ご心配をおかけしました」
「セレン、よかった・・・・」
セレンの無事な姿を認めたミリア姫は、声を震わせた。
「さあ、あなたもどうぞ。見張るのでしょう?」
戸口に立っていた兵士に、シザリアは声をかけた。
が、彼は二の足を踏んでいた。普段后のいる部屋は男子禁制だ。おそれ多くも王のいない時間に、男が后の部屋に踏み込むのには勇気がいるのだろう。
「いいのよ、さあ」
シザリアが手招きしたが、彼は一歩退いた。
「いえ・・・扉の前で、待ちます。くれぐれも、早めに済ましてください」
「あらそう。悪いわね」
そういってシザリアはドアを閉め、にっこりとセレンに向かって笑った。
(計画どおりですわ)
と、その目が言っていた。
シザリアとミリア姫にはさまれて、セレンはイベリスに来てはじめて人心地ついた気持ちになった。
「セレン、痩せましたわね・・・。まって、今食べ物でも持ってまいりますわ」
シザリアが去り、セレンはミリアネスに例の事を話した。
「ミリアさま、アサギリには、もうあったのですか」
セレンは小声で言った。万が一にでも外の兵士に聞かれたら困る。
「ええそうよ。本人じゃなくて、人を介してだけど」
「彼の申し出は断ったそうですね」
「そうなの。あんまり斬新な条件だったからね・・・」
セレンはアジサイと会ったことを手短に話した。
「――なのでウツギの長の意見は、あくまでも自力で自立をしたい、こちらの援助はその条件しだいだと」
「アサギリと違って、彼女は理想主義者なのね。・・・ウツギ内でも意見が割れているのは少し厄介ね。どちらかにつくと、片方を敵にまわしかねないわ。さて、どう交渉していこうかしら」
そこへシザリアが盆を手に入ってきた。
「さ、后様もセレンも、どうぞ」
銀の盆には湯気の立つ温かいお茶と、キツネ色の焼き菓子がのっていた。昨日からこっち、まともに食べていなかったのでセレンはありがたくお茶のカップを取った。
「ありがとう、いただきます・・・」
カップに口をつけた瞬間、甘い香りがして、セレンははたと飲むのをやめた。
(この甘い香り・・・アジサイの洞窟で焚いてあったあの香に、似ている。でもそれよりももっと深くて、くどいような・・・)
その香りはからみついてはなれない、むせ返るような花の園を連想させた。口元に近づけると頭痛がするほど強い香りだ。なにかおかしい。セレンはとっさにカップを置いてミリアネスを止めた。
「ミリア様、このお茶・・・・」
しかし、姫はそれを飲んでしまったあとだった。
「あらどうしたの、セレン」
ミリアネスは平気な顔だ。
(なんだ、私の早とちりか・・・)
ところが次の瞬間、ぽとりとカップを取り落とし、彼女はソファの上に倒れた。セレンはその瞬間、恐怖に身体が凍った。
(ミリア様・・・・・・!!)
「后様っ・・・・!」
慌ててシザリアがその身体をささえた。
「ど、どうして・・・!?まさかお茶に・・・!?わ、わたくし・・・セ、セレンっ!」
蒼白なシザリアに名を呼ばれ、セレンははっと我に返った。
(し、しっかりしなくては、しなくては・・・ミリア様が・・・!)
激しく動悸する胸をおさえつけ、セレンは立ち上がった。
「すぐ医師を呼びましょう」
だがミリア姫は切れ切れの声で止めた。
「だ、だめよ・・・セレン・・・こんな事が外に・・・もれたら、大変だわ・・・」
セレンはすばやく考えをめぐらせた。確かに姫に毒が盛られたと広まれば、イベリス内に動揺
が広がる。下手をすれば外交問題にまで発展しかねない。
「まだきたばかりの今は、かき回したくないのよ・・・・だいじょうぶ・・・・少ししか飲んでいないわ・・・・死ぬことは、ないはず。お水を・・・」
シザリアが慌てて水の杯を差し出した。
こんな時でも冷徹にそう判断を下すミリア姫に、セレンは感服した。
だが何も手を打たないことは、できない。
「わかりました・・・シザリア、さっきのお茶の出がらしの葉、残ってる?包んでほしい。もしかしたら解毒薬があるかもしれないから、探してくる」
シザリアは急いでお茶の残りを持ってきた。
「解毒薬って・・・セレン、心当たりがあるの?」
おそらくアジサイに聞けば、なんらかの手がかりがつかめるかもしれない。すがるように思いながら、セレンは部屋の窓を開けた。ミリア姫の部屋は、城の3階の左翼に位置していた。窓枠を伝って行けば、なんとか地上まで降りれそうだ。
「ええ、確実ではないけど・・・少し時間がかかるかもしれない。しのげる?」
シザリアがうなずいた。
「ええ、待ってるわ」
城の裏手に下りることに成功したセレンは、裏庭を抜けて城壁を越えた。その向こうの崖を上ってゆくと、また深い森が広がっている。つい2日前に通ったので道はわかる。
(ミリア様を失ったら、失ったら・・・!)
そう考えるだけで、胸の中がかき回されて吐きそうになった。一秒も耐えられないほどの焦燥
感がセレンを襲った。それに突き動かされ、セレンは一度も立ち止まらず必死にウツギの村まで走った。
幸い日が落ちかけてあたりも暗くなってきたので、誰にも見咎められず村の柵の前までたどり着くことができた。まだ胸は落ち着かない。
今回は案内役はいない。なので出た所勝負だ。だがセレンは夢中で柵をよじのぼった。
息を潜めながら村へ入り込んだセレンだったが、周りを見渡して首をかしげた。 夕刻だというのに、粗末な家々は人の気配がせず、あかりひとつともっていない。
(妙だな・・・)
が、村のつきあたりに近づくとその答えはすぐわかった。
「おら、出せっ!隠していたら、承知しねえぞ!」
洞窟と、そのそばの工房らしき建物の入り口にイベリスの兵士が立っていて、出てくるウツギの人々をくまなく調べている。
「終わりだ、いってよし!」
ウツギの人々は、男も女も子どもも、皆つかれきってみすぼらしく、灰色に汚れていた。
(そうか、今がちょうど、採掘の労働が終わる時間なのか)
アジサイに会うためにはあの岩場まで登らなくてはならない。だがそちらへ向かおうとしたセレンの足はピタリと止まった。
「お前、これは何だっ!!」
よたよたと出てきた女を調べていた兵士が、突然彼女を殴りとばしたのだ。兵は手に何かを握っている。
「これはジュエルの原石だろう、盗もうとしたな!?」
女は震えながら首を振っている。
「まさか、まさか、ちがいます、盗んでいません、これは・・・!」
「来い、盗人には罰だ」
「お、お願いします、お許しください、やめてーーっ!」
役人は女を無理やりひざまづかせた。周りの人はそれを見ていても、おそろしげに目をそらすばかりで何もできない。兵士は無表情に女の上に槍の柄を振り下ろした。
それを見たセレンは唇をかみしめ目をそらした。
(なんてひどい・・・ウツギの生活は、辺境の難民よりよほど地獄だ)
「待ってください!!」
その時、女と兵士の間に一人の男が割って入った。あれは、スグリだ。
「そのジュエルは、私が彼女に持ってくるよう頼んだのです。次に加工したかったので。工房の兵士には報告したのですが・・・」
兵士は無言でスグリを見た。周囲は固唾をのんでそれを見守っている。
セレンも気になったが、こちらも用も一刻を争う。ぐずぐずしてはいられないのでさっとその場を離れた。
(昼ごろ来てから、もうだいぶたったぞ・・・)
山の中腹にあるこの城前からは、イベリスの城下町が見渡せた。日は傾きかけ、そろそろ街も夕日に染まるだろう。
そろそろ兵士も交代の時間のはずだ。セレンは胸の中で算段した。
(交代のスキをついて、少しだけでも抜け出せないかな・・・)
代わりの兵はまだだろうか。セレンが城を見上げると、塔と塔の間にかかる渡り廊下を、見知った顔が歩いているのが見えた。
(あれは・・・シザリア!おーい!!こっちを、見て!気がついて!!!)
セレンはありったけの目力をこめて彼女を見つめた。すると念が通じたのか、シザリアがこちらを見た。
(・・・セレン!!!)
シザリアは一瞬驚いた顔をしたが、セレンの必死な顔を見て軽くうなずいた。ほどなくして、城門のわきの小さな木戸からシザリアが出てきた。
「まぁ、セレンっ・・・!あなた、生きて・・・!!!」
シザリアは持っていた籠を取り落とし、セレンの元へ走りよった。
「おい待て、その女は・・・!」
兵士があわてて止めたが、シザリアはきかなかった。
「かわいそうに、こんなに痩せて!后様も心配なさっているわ、さあ行きましょう」
「やめろ!」
兵士はセレンとシザリアを引き離した。
「この女はウツギの罪人だ、見張るようにと命を受けている!」
シザリアは憤慨してみせた
「まああ、この人が罪人なものですか。私達と同じ、トリトニア出身ですよ」
「とにかく、ならん。見張れとの命なのだ」
「・・・見張るのが、あなたの仕事なの?」
「そうだ」
シザリアは兵士から取り戻すようにセレンの手をぐいとひっぱった。
「ならあなたもミリア様の所へ来るといいわ。見張るのが仕事なら、場所なんてどこでもいいでしょう?」
「罪人に城の中を見せるわけには、いかない!」
「それならセレンには目をつぶっていてもらうわ」
シザリアは兵士をすり抜けて木戸へと向かった。
「こら、いい加減にしないとーーー!」
「あなた方、恥ずかしくないの?!罪もない弱い女をよってたかって!それに私は、后様から命令されているのだからね!后様に逆らう気!?」
兵士はぐっとつまった。シザリアはその迷いを見過ごさなかった。
「大丈夫、少し話して、すぐ戻るわ。あなたの見ている前なら問題ないでしょう?それに、今日の会議は商談が長引いているそうだから、すぐには終わらないわ。さあ」
シザリアの機転によって、セレンはやっとミリア姫を再会できた。
「ミリア様・・・!ご心配をおかけしました」
「セレン、よかった・・・・」
セレンの無事な姿を認めたミリア姫は、声を震わせた。
「さあ、あなたもどうぞ。見張るのでしょう?」
戸口に立っていた兵士に、シザリアは声をかけた。
が、彼は二の足を踏んでいた。普段后のいる部屋は男子禁制だ。おそれ多くも王のいない時間に、男が后の部屋に踏み込むのには勇気がいるのだろう。
「いいのよ、さあ」
シザリアが手招きしたが、彼は一歩退いた。
「いえ・・・扉の前で、待ちます。くれぐれも、早めに済ましてください」
「あらそう。悪いわね」
そういってシザリアはドアを閉め、にっこりとセレンに向かって笑った。
(計画どおりですわ)
と、その目が言っていた。
シザリアとミリア姫にはさまれて、セレンはイベリスに来てはじめて人心地ついた気持ちになった。
「セレン、痩せましたわね・・・。まって、今食べ物でも持ってまいりますわ」
シザリアが去り、セレンはミリアネスに例の事を話した。
「ミリアさま、アサギリには、もうあったのですか」
セレンは小声で言った。万が一にでも外の兵士に聞かれたら困る。
「ええそうよ。本人じゃなくて、人を介してだけど」
「彼の申し出は断ったそうですね」
「そうなの。あんまり斬新な条件だったからね・・・」
セレンはアジサイと会ったことを手短に話した。
「――なのでウツギの長の意見は、あくまでも自力で自立をしたい、こちらの援助はその条件しだいだと」
「アサギリと違って、彼女は理想主義者なのね。・・・ウツギ内でも意見が割れているのは少し厄介ね。どちらかにつくと、片方を敵にまわしかねないわ。さて、どう交渉していこうかしら」
そこへシザリアが盆を手に入ってきた。
「さ、后様もセレンも、どうぞ」
銀の盆には湯気の立つ温かいお茶と、キツネ色の焼き菓子がのっていた。昨日からこっち、まともに食べていなかったのでセレンはありがたくお茶のカップを取った。
「ありがとう、いただきます・・・」
カップに口をつけた瞬間、甘い香りがして、セレンははたと飲むのをやめた。
(この甘い香り・・・アジサイの洞窟で焚いてあったあの香に、似ている。でもそれよりももっと深くて、くどいような・・・)
その香りはからみついてはなれない、むせ返るような花の園を連想させた。口元に近づけると頭痛がするほど強い香りだ。なにかおかしい。セレンはとっさにカップを置いてミリアネスを止めた。
「ミリア様、このお茶・・・・」
しかし、姫はそれを飲んでしまったあとだった。
「あらどうしたの、セレン」
ミリアネスは平気な顔だ。
(なんだ、私の早とちりか・・・)
ところが次の瞬間、ぽとりとカップを取り落とし、彼女はソファの上に倒れた。セレンはその瞬間、恐怖に身体が凍った。
(ミリア様・・・・・・!!)
「后様っ・・・・!」
慌ててシザリアがその身体をささえた。
「ど、どうして・・・!?まさかお茶に・・・!?わ、わたくし・・・セ、セレンっ!」
蒼白なシザリアに名を呼ばれ、セレンははっと我に返った。
(し、しっかりしなくては、しなくては・・・ミリア様が・・・!)
激しく動悸する胸をおさえつけ、セレンは立ち上がった。
「すぐ医師を呼びましょう」
だがミリア姫は切れ切れの声で止めた。
「だ、だめよ・・・セレン・・・こんな事が外に・・・もれたら、大変だわ・・・」
セレンはすばやく考えをめぐらせた。確かに姫に毒が盛られたと広まれば、イベリス内に動揺
が広がる。下手をすれば外交問題にまで発展しかねない。
「まだきたばかりの今は、かき回したくないのよ・・・・だいじょうぶ・・・・少ししか飲んでいないわ・・・・死ぬことは、ないはず。お水を・・・」
シザリアが慌てて水の杯を差し出した。
こんな時でも冷徹にそう判断を下すミリア姫に、セレンは感服した。
だが何も手を打たないことは、できない。
「わかりました・・・シザリア、さっきのお茶の出がらしの葉、残ってる?包んでほしい。もしかしたら解毒薬があるかもしれないから、探してくる」
シザリアは急いでお茶の残りを持ってきた。
「解毒薬って・・・セレン、心当たりがあるの?」
おそらくアジサイに聞けば、なんらかの手がかりがつかめるかもしれない。すがるように思いながら、セレンは部屋の窓を開けた。ミリア姫の部屋は、城の3階の左翼に位置していた。窓枠を伝って行けば、なんとか地上まで降りれそうだ。
「ええ、確実ではないけど・・・少し時間がかかるかもしれない。しのげる?」
シザリアがうなずいた。
「ええ、待ってるわ」
城の裏手に下りることに成功したセレンは、裏庭を抜けて城壁を越えた。その向こうの崖を上ってゆくと、また深い森が広がっている。つい2日前に通ったので道はわかる。
(ミリア様を失ったら、失ったら・・・!)
そう考えるだけで、胸の中がかき回されて吐きそうになった。一秒も耐えられないほどの焦燥
感がセレンを襲った。それに突き動かされ、セレンは一度も立ち止まらず必死にウツギの村まで走った。
幸い日が落ちかけてあたりも暗くなってきたので、誰にも見咎められず村の柵の前までたどり着くことができた。まだ胸は落ち着かない。
今回は案内役はいない。なので出た所勝負だ。だがセレンは夢中で柵をよじのぼった。
息を潜めながら村へ入り込んだセレンだったが、周りを見渡して首をかしげた。 夕刻だというのに、粗末な家々は人の気配がせず、あかりひとつともっていない。
(妙だな・・・)
が、村のつきあたりに近づくとその答えはすぐわかった。
「おら、出せっ!隠していたら、承知しねえぞ!」
洞窟と、そのそばの工房らしき建物の入り口にイベリスの兵士が立っていて、出てくるウツギの人々をくまなく調べている。
「終わりだ、いってよし!」
ウツギの人々は、男も女も子どもも、皆つかれきってみすぼらしく、灰色に汚れていた。
(そうか、今がちょうど、採掘の労働が終わる時間なのか)
アジサイに会うためにはあの岩場まで登らなくてはならない。だがそちらへ向かおうとしたセレンの足はピタリと止まった。
「お前、これは何だっ!!」
よたよたと出てきた女を調べていた兵士が、突然彼女を殴りとばしたのだ。兵は手に何かを握っている。
「これはジュエルの原石だろう、盗もうとしたな!?」
女は震えながら首を振っている。
「まさか、まさか、ちがいます、盗んでいません、これは・・・!」
「来い、盗人には罰だ」
「お、お願いします、お許しください、やめてーーっ!」
役人は女を無理やりひざまづかせた。周りの人はそれを見ていても、おそろしげに目をそらすばかりで何もできない。兵士は無表情に女の上に槍の柄を振り下ろした。
それを見たセレンは唇をかみしめ目をそらした。
(なんてひどい・・・ウツギの生活は、辺境の難民よりよほど地獄だ)
「待ってください!!」
その時、女と兵士の間に一人の男が割って入った。あれは、スグリだ。
「そのジュエルは、私が彼女に持ってくるよう頼んだのです。次に加工したかったので。工房の兵士には報告したのですが・・・」
兵士は無言でスグリを見た。周囲は固唾をのんでそれを見守っている。
セレンも気になったが、こちらも用も一刻を争う。ぐずぐずしてはいられないのでさっとその場を離れた。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる