不滅の誓い

小達出みかん

文字の大きさ
9 / 33

返り咲き

しおりを挟む
「これよりごらんに入れます『百獣めぐり』私が様々な動物に成り代わり陛下をはるか異国の地へとお連れいたします・・・」


 こうして口上を述べるのは久々だ。だが身体にしみついているそれは意識をしなくとも口をついで出た。


「まずは荒野をさまよう獣の王、獅子!」


 セレンは両手を広げて左右に大きく動き、目にもとまらぬ速さでぐるりと回転しピタリと止まった。


 そのキレのある動きに、王だけでなく皆の目が吸い寄せられた。が、これは準備運動を兼ねた前座の技だ。


「次は、緑あふれる森に住まう、猛毒の蛇・・・!」


 セレンは床に手をつき、ぐっとつかんだ。

 数え切れないほど披露してきた技だが、慎重に下半身に力をこめ、地面を蹴り上げて宙で動きを止める。


 その蛇に見立てた両足をゆっくりゆっくりと伸ばし、セレンの身体は完全にさかさまの蛇となった。その状態でセレンは大きく口を開いた。


「蛇は、茂みのうさぎを狙っています・・・うさぎは驚いて!」


 セレンはそのまま足で反動をつけ、手で地面を押し逆さのまま飛び跳ねた。


――さすがに子どもだったころと比べると、身体がおもい。


 セレンは地面に足を下ろしうさぎを切り上げた。

 一瞬チラリと目にすれば、観客が自分をどう見ているのかはわかる。長年のカンだ。


(よし、陛下にはなかなかの好感触!)


 そう思ったセレンは、ブリッジをして縦横無尽に歩く「蟹」、地面に両手をつけ、伸ばした足をぐるぐると回転させる「魚」など次々と披露した。


「では次は、最後の大技、大空を高々と飛ぶ、鳥!」


 これはコツがいり、危険も多い技だ。だが皆があっと驚き、銭をはずんでもらえるので必死に練習して覚えた技だった。女でこれができる子どもは、セレン一人だけだった。


 リズムをつけ、セレンは飛んだ。まずは側転、そして間を空けずに連続して宙返り。ぐるりと風を切って、世界が自分の周りで一回転するのは爽快だ。最後にひねりを加えて、着地。

 観客の目には、軽々と身体一つで宙を舞うセレンが見えたはずだ。


(よかった、失敗、なし!)


 ほっとしたセレンは膝をついた。


「以上が、私の芸になります。陛下」


 さすがのセレンも、少し息が上がっていた。

 すると陛下はイスから立ち、セレンの前へと立った。


「陛下――」


 団長が渋面で止めようとしたが、手遅れだった。


「驚いた。西の人間はこのような事ができる者がいるのか・・・。他にできる技はあるのか?」


「はい。今披露しなかった技もいくつかあります」


陛下は満足気にうなづいた。


「よいぞ。本番で最高の芸を、披露してくれ。それを条件に、侍女に戻ることを許す」


 セレンは頭を下げて礼を述べた。


「ありがとうございます、陛下」


 涼しい顔のセレンを、団長は苦虫をかみつぶしたような顔で見つめていた。


 セレンとミリアネスは意気揚々と部屋へと戻った。


「シザリア、やったわよ!」


「あ、セレン!ということは・・・」


「そう、王がお許しになったのよ」


 笑顔で喜ぶミリア様だったが、セレンは彼さきほどから女の様子が気になっていた。


「ミリア様、その後お体は平気ですか?その・・・右手は、どうなさったのですか」


 ミリア様は一瞬はっとしたが、すぐため息と共にほほえんだ。


「セレンには、なんでもすぐばれてしまうわね。でも手はね・・・たいした事、ないのよ」


 たしかに注意深く見ていなければ気がつかないだろう。が、さきほどから姫は聞き手であるのに右手を使おうとしていなかった。


「・・・少し、麻痺が残ってしまっただけなの。でも大丈夫。薬のおかげで命に別状はないし、陛下も気がついていないのよ」


 セレンは絶句した。なんという事だろう。ミリア様の身体が、損なわれてしまっていたとは―・・・!


 セレンの胸の中で、めらめらと怒りの炎が燃え出した。


(許せない、ミリア様の大事な、手を・・・・・!)


 大事な時に自分を姫から遠ざけていた団長と、毒を入れた犯人・・・そしておめおめとミリア

様に毒を飲ませてしまった自分に対しても、怒りは膨れ上がった。


「シザリア、あの時のお茶は、どこで用意したものだったの」


 シザリアはうつむいてつらそうに言った。


「いつもは厨房の人に頼んで淹れてもらうのだけど・・・あの日は厨房が忙しかったから、自分で淹れたの。気がつかなかった、私のミスよ・・・」


 ミリアネスは、落ち込むシザリアの方に左手を置いた。


「あなたのせいではないわ」


 セレンとしても、シザリアを責める気はない。彼女は幼少時から長い間乳姉妹として姫に仕え、イベリス行きまで承知してくれた。


彼女が手を下すことは、まず考えられない。

 ただ、犯人につながる手がかりを得たい。


「茶葉はどうだった?厨房で怪しい動きとかはなかった?」


 シザリアは首を振った。


「あとで確かめてみたけど、茶葉に細工はしてなかったわ。その時厨房はばたばたしていたから・・・怪しい動きといわれると、わからないわ」


 セレンは考えた。


「という事は、シザリアが来る前に、誰かが姫と私のカップに毒を塗った・・・という可能性が、高いか」


「私も、そう思うの・・・ちょっと待って」


 シザリアはポケットから小さい紙片を取り出した。


「あの日厨房にいた人の、リストよ。・・・だれも信用できないから、こうして持ち歩いているの」


 さすがはシザリア。セレンはざっと名前を眺めた。男女様々で10数人ほどいる。


「この中で、姫のカップがあの水色の薔薇ものもだって知ってるひとは、誰だろう?」


「そうね・・・特に隠してはいなかったし、いつも私はそれでお茶を頼んでいたから、皆知っていると思うわ」


「そっか・・・」


 それだと特定は難しいだろう。しかも毒はウツギのものという事がわかっている。厨房以外人間の仕業ということだって考えられる。


 シザリアは肩を落として言った。


「今後、私も気をつけるわ・・・今はすべて、私が毒見しているの」


 その言葉をきいて、セレンは申し訳なくなった。


「大変だったね、シザリア・・・。今日からは、私と交代で毒見をしよう」


 しかし彼女はたくましく笑った。


「あら、ダメよ。あなたの代わりはいないんだから。私は宙返りなんてできないわよ」


 そういえば、陛下の言っていたことは一体どういうことなのだろう。セレンはミリアネスに聞いた。


「陛下が言っていた、催しというのは、なんの催しなのですか?」


 ああ、と彼女は説明した。

「前の后様と陛下の間の、唯一の一人息子が、あと少しで成人するので、その祝賀会をするのよ。慣例を破って、外の国の人も来賓として招くんですって。だから気合が入っているみたい。」


セレンは驚いた。


「外の国の?たしかに慣例破りですね。イベリスなのに」


 ミリア様が遠慮がちに言った。


「ええ。シャルリュス宰相の方針で、これからは外交に力を入れるそうよ。ただイベリスはその・・あまりおもてなしの文化が発達していないから」


「そうなんです。だからあの日の夜も、外の酒商人や芸人たちを呼んで、どれが祝賀パーティーにふさわしいかって大騒ぎして決めていたのよ」


 シザリアが口をとがらせてそう言った。


(なるほど・・・だからあの日、団長は下戸なのに酔っていたのか)


 セレンはいろいろと腑に落ちた。


「セレンはそれらをさしおいて今日選ばれちゃったんだから、責任重大ね」


「そうですね・・・」


 もし失敗でもすれば、姫の顔に泥をぬることになる。イベリス人の役に立ってしまうのは癪だ

が、それは避けたい。 


(よし・・・練習の時間を前より増やそう。幸い自由の身になったわけだし。でもその前に、まず)


 もう一度ウツギの村に向かって、犯人について情報収集をしよう。 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...