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にこやかな来訪者
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「ああ……よかった!」
レイズを通じて届けられたかごをあけて、ヘンリエッタは思わず涙ぐんだ。
そこには傷ひとつない白猫が、ちょんと座っていたからだ。子猫はヘンリエッタを見たとたん、かごから出てきて肩へ飛び乗った。
彼の頭を撫でながら、ヘンリエッタはお礼を言った。
「レイズさん、ありがとうございます。」
「いいえ、捕まえたのは、バーンズ様の従者とのことですよ」
「あら、そうだったんですか。その人にも感謝しないといけませんね。それに……」
食事を出したあの日以来、彼には会っていない。ヘンリエッタはただこの屋敷を管理しているだけなので、特に来る理由もないのだろう。そう思ったヘンリエッタは頼んだ。
「それに宰相様にも……お礼を伝えておいてはもらえませんか」
レイズはいつものようにうなずこうとしたが、その表情がはっと張りつめる。
「どうか……しましたか?」
その反応に気づいたヘンリエッタだったが、レイズは固い表情のままヘンリエッタに言った。
「少し外を見てきます。ヘンリエッタさんは出ないでここにいてください」
「待って……誰かきたの?」
まさか、自分に危険など起こるはずもない……と思っていたヘンリエッタだったが、レイズが出て行ったのを見てにわかに怖くなった。
「ごめんね、いったん戻ってちょうだい」
また、この子を奪われてはたまらない。そう思ったヘンリエッタは子猫をかごに戻し、戸棚の中へと隠した。
「ごめんね、ちょっとだけ我慢をしてね……」
ヘンリエッタがそう言って戸棚の扉を閉めた時、バタンとキッチンのドアが開く音がした。そして、靴音。おそらく男性のものだ。ヘンリエッタは身をすくめた。
(どうしよう――!)
居間のドアを開いて、男性が入ってきた。見たこともない、茶色い髪の若い男性だ。その人はにっこりとヘンリエッタに笑いかけた。人なれした、愛嬌のある笑みだった。
「こんにちは。君が噂のお姫様なのかな? 名前を聞いてもいいかい」
その言葉に、ヘンリエッタはわけがわからず戸惑った。
「ええと、ここには誰も住んでいませんが……」
「君が住んでいるんだろう?」
「いえ、私はただの使用人で……」
彼はヘンリエッタの服装をちらりと見た。この屋敷の物置にあった、ごくシンプルな深緑のワンピースとエプロンといういで立ちだった。使用人の標準的服装ともいえる。
「うーん、たしかにそんな感じだけど……君、名前は? イライアスの事は知っている?」
「私は、ヘンリエッタと申します。あの、」
するとその時、戸棚からににぃ!と猫が叫ぶ声が聞こえた。
「あれ、猫?」
男性が戸棚の方へ行って手をかけたので、ヘンリエッタはひやりとして止めようとした。が、彼の行動のほうが一歩早かった。
「おや、君は……そうそう、やっぱり間違いない。ねぇ君、この白猫は君のものかい」
ヘンリエッタはうなずいた。
「は、はい。私の猫です。あの、おろしては、もらえませんか……」
すると男性はなんのこだわりもなく、かごをそっとソファに置いて、ヘンリエッタを見た。
「なるほどこれではっきりした。君がお姫様で間違いないね」
じっと観察するように見られて、ヘンリエッタは居心地が悪かった。
(お姫様、ってなんのこと……? 暗号か何か?)
自分はそんな身分ではない。そしてこの男性は、一体なにものなのだろう。ヘンリエッタは固い声で聴いた。
「あの、あなたはどなた様でしょう?」
すると彼は、また人懐こい笑みを浮かべた。
「ああ、言い忘れていたね。俺はヘイゼン・ヘイワーズ。イライアスとは親友だ」
「あの、イライアス、というのは……」
「あれ、知らないの? イライアス・バートン。この国の宰相だよ」
そんな名前だったのか。ヘンリエッタはわずかに目を丸くした。
「知りませんでした……」
すると、ヘイゼンの眉が何かを狙うようにぴくりと動いた
「そうなの? じゃあなんて彼の事をよんでいるの?」
「普通に宰相様、と」
「あ……そうなの」
するとヘイゼンの表情が微妙に変わった。そしてさらに柔らかい態度で、ヘイゼンは一抱えの箱をヘンリエッタに差し出した。
「ヘンリエッタ……と呼んでもいいね? 君とお近づきになれてうれしいよ。これは俺からだ。もらってくれるかな?」
いきなり大きな箱を押し付けられて、ヘンリエッタは焦った。
「あ、あの、これは……」
「君とは仲良くしたい。どうぞヘイゼンと親しく呼んでくれ」
彼がにっこりと笑った、その時だった。玄関のドアが開いて、レイズが走りこんでいた。
「ヘンリエッタさん……!」
ヘンリエッタとヘイデンの間に、彼女が割り込む。
「ヘイワース様。いったいどういうおつもりですか」
レイズを通じて届けられたかごをあけて、ヘンリエッタは思わず涙ぐんだ。
そこには傷ひとつない白猫が、ちょんと座っていたからだ。子猫はヘンリエッタを見たとたん、かごから出てきて肩へ飛び乗った。
彼の頭を撫でながら、ヘンリエッタはお礼を言った。
「レイズさん、ありがとうございます。」
「いいえ、捕まえたのは、バーンズ様の従者とのことですよ」
「あら、そうだったんですか。その人にも感謝しないといけませんね。それに……」
食事を出したあの日以来、彼には会っていない。ヘンリエッタはただこの屋敷を管理しているだけなので、特に来る理由もないのだろう。そう思ったヘンリエッタは頼んだ。
「それに宰相様にも……お礼を伝えておいてはもらえませんか」
レイズはいつものようにうなずこうとしたが、その表情がはっと張りつめる。
「どうか……しましたか?」
その反応に気づいたヘンリエッタだったが、レイズは固い表情のままヘンリエッタに言った。
「少し外を見てきます。ヘンリエッタさんは出ないでここにいてください」
「待って……誰かきたの?」
まさか、自分に危険など起こるはずもない……と思っていたヘンリエッタだったが、レイズが出て行ったのを見てにわかに怖くなった。
「ごめんね、いったん戻ってちょうだい」
また、この子を奪われてはたまらない。そう思ったヘンリエッタは子猫をかごに戻し、戸棚の中へと隠した。
「ごめんね、ちょっとだけ我慢をしてね……」
ヘンリエッタがそう言って戸棚の扉を閉めた時、バタンとキッチンのドアが開く音がした。そして、靴音。おそらく男性のものだ。ヘンリエッタは身をすくめた。
(どうしよう――!)
居間のドアを開いて、男性が入ってきた。見たこともない、茶色い髪の若い男性だ。その人はにっこりとヘンリエッタに笑いかけた。人なれした、愛嬌のある笑みだった。
「こんにちは。君が噂のお姫様なのかな? 名前を聞いてもいいかい」
その言葉に、ヘンリエッタはわけがわからず戸惑った。
「ええと、ここには誰も住んでいませんが……」
「君が住んでいるんだろう?」
「いえ、私はただの使用人で……」
彼はヘンリエッタの服装をちらりと見た。この屋敷の物置にあった、ごくシンプルな深緑のワンピースとエプロンといういで立ちだった。使用人の標準的服装ともいえる。
「うーん、たしかにそんな感じだけど……君、名前は? イライアスの事は知っている?」
「私は、ヘンリエッタと申します。あの、」
するとその時、戸棚からににぃ!と猫が叫ぶ声が聞こえた。
「あれ、猫?」
男性が戸棚の方へ行って手をかけたので、ヘンリエッタはひやりとして止めようとした。が、彼の行動のほうが一歩早かった。
「おや、君は……そうそう、やっぱり間違いない。ねぇ君、この白猫は君のものかい」
ヘンリエッタはうなずいた。
「は、はい。私の猫です。あの、おろしては、もらえませんか……」
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「なるほどこれではっきりした。君がお姫様で間違いないね」
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(お姫様、ってなんのこと……? 暗号か何か?)
自分はそんな身分ではない。そしてこの男性は、一体なにものなのだろう。ヘンリエッタは固い声で聴いた。
「あの、あなたはどなた様でしょう?」
すると彼は、また人懐こい笑みを浮かべた。
「ああ、言い忘れていたね。俺はヘイゼン・ヘイワーズ。イライアスとは親友だ」
「あの、イライアス、というのは……」
「あれ、知らないの? イライアス・バートン。この国の宰相だよ」
そんな名前だったのか。ヘンリエッタはわずかに目を丸くした。
「知りませんでした……」
すると、ヘイゼンの眉が何かを狙うようにぴくりと動いた
「そうなの? じゃあなんて彼の事をよんでいるの?」
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「あ……そうなの」
するとヘイゼンの表情が微妙に変わった。そしてさらに柔らかい態度で、ヘイゼンは一抱えの箱をヘンリエッタに差し出した。
「ヘンリエッタ……と呼んでもいいね? 君とお近づきになれてうれしいよ。これは俺からだ。もらってくれるかな?」
いきなり大きな箱を押し付けられて、ヘンリエッタは焦った。
「あ、あの、これは……」
「君とは仲良くしたい。どうぞヘイゼンと親しく呼んでくれ」
彼がにっこりと笑った、その時だった。玄関のドアが開いて、レイズが走りこんでいた。
「ヘンリエッタさん……!」
ヘンリエッタとヘイデンの間に、彼女が割り込む。
「ヘイワース様。いったいどういうおつもりですか」
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