【マフィア×元軍人】 狂犬を躾けたら、ピカピカの可愛い「愛犬」になったでしょ?

あすぱら

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暖かいセーター

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 その日の朝はひどく冷え込んだ。
 俺がいつものように身支度を整えていると、主人がウォークインクローゼットの奥から、一つの黒い塊を持ってきた。
 それは、俺の身体には明らかに大きすぎる、セーターだった。
「寒い日は良いよね。お前にこういう可愛い服が着せられるから!」
 彼は嬉々としてそう言うと、俺にそのぶかぶかのセーターを着せてくる。
「ほら、可愛い! ふわふわの服って最高。ぬいぐるみみたいじゃん!」
 そして満足げに、俺の身体をぎゅっと抱きしめた。
(また馬鹿なことを言っている)
 俺はその子供じみた言動を、いつものように聞き流す。
 だが、そのあまりにも暖かく、そして肌触りの良い感触は、確かに悪くはなかった。



 ​その格好のまま、俺は主人の気まぐれな「街歩き」に同伴していた。
 裏路地を歩いている時だった。
 数人の柄の悪い男たちが、俺たちの前に立ち塞がった。
 ​俺は即座に主人の前に出て、臨戦態勢に入る。
 だがその瞬間、俺は自分の身体に、ほんのわずかな、しかし致命的な「遅れ」を感じていた。
 この暖かすぎるセーター。そのあまりにも心地よい感触が、俺の常に張り詰めているはずの闘争本能を、ほんの少しだけ鈍らせていたのだ。
 ​もちろん、目の前の素人同然の男たちを制圧するのに時間はかからなかった。
 数秒後には、彼らは地面の上で無様に呻いている。
 ​しかし、俺の心は晴れなかった。
 俺は、自分自身のその一瞬の「鈍り」にひどく苛立っていた。
「すごいねぇ。さすが、俺の犬は偉いなあ」
 主人は、そんな俺の内心など知る由もなく、ただ無邪気に俺を褒めそやす。
 俺はその言葉に思わず舌打ちをした。
「おい。ダメだ、この服」
 俺がそう言うと、主人はきょとんとした顔をした。
「なに?」
「暑苦しい。それに、動きにくい」
「ええー? 可愛いのに」
「ダメだ。動きが鈍った。おかげで汚れた」
 俺はセーターの袖にわずかに飛び散った、返り血を彼に見せつけた。
「可愛いのになぁ。ダメ?」
「ダメだ」
「ダメかー」
 俺のそのあまりにも機嫌の悪い様子に、主人はしかし怒るでもなく、ただ楽しそうに笑っていた。
 そしてすぐに次の「遊び」を思いついたらしい。
「じゃあ新しいの買って帰ろ! 今度はどんなのがいいかなあ?」
 ​俺は、そのあまりにも切り替えの早い主人の言葉に、深いため息をついた。



 最近お気に入りのブティックに連絡すると、店主は店内を貸切にさせてくれた。
 広々とした静かな空間。ずらりと並んだ、最新コレクションの数々。そしてその中央に1人、完璧なマネキンが無表情で佇んでいる。
「……」
 リオンは本当に面白い素材だ。
 一見小柄で華奢に見えるくせに、その身体は、戦うためだけに研ぎ澄まされている。
 どんなに柔らかい服を着せても、その奥にある、兵士としての硬質さが、隠しきれない。
 そのアンバランスさが、俺の創作意欲を最高にかき立てるのだ。
「ねぇ。これはどうかな?」
 俺はハンガーにかかっていた、クリーム色の上質なカシミアのニットを手に取った。リオンの胸元にそっとあてがう。
(うん、いいな)
 これを着たら、あのいつも強気な目が、少しは柔らかく見えるかもしれない。
「じゃあ次はこれ!」
 今度はタイトなシルエットの黒いジャケットを選んだ。
(ああ。これも最高だ)
 これを着せて、俺の後ろに黙って立たせておいたら。それはどんな屈強な男よりも雄弁に、俺の力を示してくれるだろう。最高の番犬だ。
 ​俺は次々とあいつに着せたい服を選んでいく。
 俺がどんな派手な服を選んでも。どんな奇抜なデザインを選んでも。あいつは、何も言わない。ただ俺の好きに、されるがままになっている。
 その完全な服従。それが俺にはたまらなく心地よかった。
「リオン。ちょっとこれ、着てみせて」
 俺は最初に選んだカシミアのニットをあいつに手渡した。
 あいつは黙ってそれを受け取ると、試着室へと消えていく。
 ​数分後。
 戻ってきたあいつの姿を見て、俺は思わず声を上げた。
「ほらやっぱり! めっちゃ似合うじゃん! 可愛い!」
 ​そのあまりにも柔らかく優しい雰囲気のニットと、あいつ自身の、硬質で無表情な顔立ち。
 そのちぐはぐさが、最高に、どうしようもなく、愛おしい。
 あいつは鏡に映る自分の姿を、どこか不思議そうな、居心地の悪そうな顔で見つめている。
(ああ、これ!)
 これが楽しいんだ。
 俺が与えた服に困惑しているこいつの顔。
 その、俺にしか見せない、無防備な表情。
 どんな高級車にも、どんな美術品にも無い、俺だけの、宝物。
 ​俺は満足して店長を呼んだ。
「うん。ここからあそこまで全部、こいつのサイズで貰っていくから!」
「は、はい! かしこまりました!」
 店長の引きつったような喜びの声が聞こえる。
 ​黙って試着室へと戻っていくあいつの後ろ姿を眺めながら考える。
 ​さて。明日はどの服を着せて遊ぼうかな。
 世界で一番、可愛くて、面白い、このおもちゃと。



■あとがき■
リオンが一番居心地の良い服はタンクトップ。楽で動きやすいから。

読んでいただきありがとうございました!

※次回更新予定は10/31(金) 20:00 です
10月ももう終わりですね…


―――――次回予告―――――

「もっと? なあに、かわいいね」

第4話『ビジネスパートナー * 』
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