28 / 57
見合い写真
しおりを挟む主人の元には、また本家から分厚い封筒が届けられていた。
俺はその中身を知っている。
見合い相手の釣書と写真だ。
組織の分家を率いていながら、ふざけた言動を改めない、どうしようもない次男坊。それがルシアンだ。
その親族たちはせめてまともな血筋の嫁をと躍起になっているらしかった。
ルシアンはそのことごとくを蹴っている。
今日も彼は、その封筒からうんざりした様子で、写真の束を取り出した。
それを、まるでカードゲームでも始めるかのように、テーブルの上にずらりと並べ始める。
彼は面白そうに、俺を手招きした。
「ねぇねぇ、リオン。お前、どの娘がタイプ? 俺はこの娘かな!」
ルシアンが楽しそうに指差したのは、黒髪が美しい、いかにも育ちが良さそうな、清楚な女の写真だった。
「やっぱ、清楚系っていいよねぇ。大和撫子ってやつ?」
「……その見合い、受けんのか?」
俺が当然の疑問を口にすると、ルシアンは、心底、意外そうな顔をした。
「ん? 受けるわけないじゃんー」
「でも、お前も、もういい歳だろ」
「うわ。なにその、親戚のおっさんみたいな言い方!」
ルシアンはけらけらと子供のように笑った。そして、当たり前のように、こう言ったのだ。
「俺にはもうお嫁さんいるから! お見合いなんて、受けるわけないじゃん?」
その言葉と共に、彼は、俺の髪に、ちゅ、と、軽いキスを落とした。
俺はその行動に、呆れたため息で返す。
「お前、それ、いつまで言ってんだ?」
本家に対する嫌がらせの一環としての『婚約者』役の演技。命令とはいえ、あれを引き受けたのが失敗だった。
主人は完全に調子に乗っている。
「んー? いつまで?」
ルシアンは俺の髪を指先で梳きながら、あっけらかんと言った。
「一生に決まってんじゃん、何言ってんの?」
一生……?
そのあまりにも軽く、そしてあまりにも重い言葉に、俺の思考が一瞬停止した。
(……マジでか、本気か? コイツ)
ルシアンは、そんな俺の内心の動揺など全く気にも留めず、楽しそうに続ける。
「一生、ずーっと。毎日。愛してるよ! リオン」
そしてその言葉を言い終わるやいなや、彼はすぐにテーブルの写真へと視線を戻した。
まるで天気の話でもするかのように、彼は俺に最初の質問をもう一度繰り返したのだ。
「そんで? お前は、どの娘がタイプ?」
俺は、何も、答えられなかった。
目の前に並べられた、美しい女たちの笑顔。
そして、隣で、俺に「一生の愛」を囁いた、美しい男の横顔。
(……ふざけてんのか?)
そのあまりにも非現実的で狂った光景の中で、俺の正常なはずの思考回路は、完全にショートしていた。
■あとがき■
ルシアンは男も女もイケる口。
読んでいただきありがとうございました!
※次回更新予定は12/24(水) 20:00 です。
ええっ、クリスマス…?知らない子ですね…?
―――――次回予告―――――
ぜーんぶ、俺が作り上げた。
これはぜーんぶ、俺のもの。
第26話『リオンの寝てるとこ』
0
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる