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褒められて嬉しい
しおりを挟むリオンが朝食を作るようになってから、俺の屋敷の朝は、少しだけ楽しくなった。
その日も俺はダイニングテーブルの定位置に座り、俺の「お嫁さん」が、完璧な手際で朝食を準備する姿をワクワクしながら眺めていた。
やがて俺の前には、完璧な半熟具合のベーコンエッグが。そして、俺と向かい合うあいつの席には、たっぷりとシロップのかかったパンケーキがそれぞれ置かれる。
「いただきまーす!」
俺の言葉を確認してからリオンもフォークを握る。
俺が躾けたあいつのテーブルマナーは、今やそこらの貴族よりも美しい。今日も完璧な角度でナイフとフォークを使っている。
(綺麗だなあ)
俺はその姿に満足すると、自分の朝食に視線を移す。さて、今日の味はどうかな。
ベーコンエッグにフォークを入れた。黄身が、とろりと理想的な形で皿の上に流れ出す。
一口食べて、俺は素直に感心していた。
「ねぇ、リオン」
俺が声をかけると、パンケーキを口に運んでいたあいつが、顔を上げた。
「今日のベーコンエッグ、今までで一番うまいかも。お前、料理が上手になったね」
それは何の他意もない純粋な称賛だった。
だがその言葉に、あいつはどう反応していいか分からないらしく、一瞬完全に固まってしまった。
そして次の瞬間、いつもの癖でぷいっとそっぽを向いてしまう。
「……別に。いつもと同じだろ」
口では、そうぶっきらぼうに呟いている。
ああ、まただ。可愛いな、こいつは。
俺はその照れ隠しを微笑ましく思っていた。
だがその時、俺は、もっと決定的に可愛いものを見つけてしまったのだ。
テーブルの下。
そっぽを向いている、あいつの足が。
ほんのわずかに、しかし嬉しそうに、ぱたぱたと小刻みに揺れているのを。
(……は)
俺は、思わず息を呑んだ。
なんだ、あれは。
口では、あんなにぶっきらぼうな態度を貫いているくせに。
身体は、正直だ。
足が、まるで主人に褒められて尻尾を振るのを必死で我慢している犬みたいに、嬉しそうに揺れている。
(……ああ、もう。なんだ、こいつは)
可愛い。
可愛い。
可愛い。
可愛すぎて、今すぐここでテーブルも何もかもめちゃくちゃにして、抱き潰してやりたい。
俺は腹の底から突き上げてくるその破壊的な衝動を、必死でこらえた。何でもないふりをして、コーヒーカップを手に取る。
リオンは、俺があいつ自身の足の裏切りに気づいていることなど露知らず、まだ少しだけそっぽを向いたまま、パンケーキを黙々と口に運び続けていた。
その、あまりにも健気で、そしてたまらない「可愛らしさ」。
俺は、込み上げてくる笑いを熱いコーヒーと共に、なんとか喉の奥へと流し込んだ。
■あとがき■
リオンは毎日朝食を作ることになってから、朝食メニューを練習していた。レパートリーはまだ少ない。
読んでいただきありがとうございました!
※次回更新予定は1/14(水) 20:00 です。
執筆環境:屋台「いしやーきいもぉおお!おいもおお!」白鳥「クェェエ!クェェエ!」除雪車「ドドドドドド」
冬が静かだなんて言ったのは誰です?
―――――次回予告―――――
「さーあパジャマを脱いだら、出かけようー♪」
(……脱いでないし、出かけないだろ)
もはや、ノマの思考は、ツッコミを入れることしかできなくなっていた。
第44話『フェブとノマの話(過去話) 10月のサンタクロース』
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