【マフィア×元軍人】 狂犬を躾けたら、ピカピカの可愛い「愛犬」になったでしょ?

あすぱら

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2号の健康相談

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 ​2号が死にかけたあの日から、主人は少し神経質になっていた。
 気持ちは分からんでもない。俺にとっても、ちょっとしたトラウマになっている。



 その日屋敷に呼ばれた業者は、出迎えた俺に完璧な営業スマイルで名刺を手渡した。
 その名刺にはアクアリウム専門店と記載されている。
(ああ。2号の話か)
 主人の意図を、俺は理解した。2号の健康相談はノマに断られている。プロに相談することにしたのだろう。
 俺は理解したが……
 業者の男は、大量のパンフレットを持参してきている。それは金魚一匹の健康相談には明らかに不要なものだ。
 一抹の不安を覚えながら、俺は男をリビングへ通した。



「こんにちは!」
 リビングで2号と一緒に待っていたルシアンは上機嫌だった。明らかに、2号の話ができると思っている顔だ。
 ​俺は不安を覚えながらも、主人の命令どおり、その男に紅茶を淹れていた。
 業者はこのだだっ広いリビングを見回し、明るい声を出した。
「素晴らしいお屋敷ですね」
「ありがと。それで…」
 主人は2号の金魚鉢に目を落とす。
「はい! それで…」
 業者は嬉しそうにパンフレットを取り出す。
 彼が語り始めた壁一面を水槽にする壮大なプランを、主人は苦笑いで聞いていた。
 案の定、業者は勘違いをしていたのだ。
 主人は男の営業トークを途中で遮った。
「いや、今日は、そういう話じゃなくて」
 ​彼はテーブルにぽつんと置かれた、美しいガラスの金魚鉢を指差す。
「この子の話をしたいんですが」
 ​業者の完璧な営業スマイルが一瞬だけ凍りついた。
 だが彼はプロだった。すぐに気を取り直すと、金魚鉢を専門家の目で観察し始める。
​「これは可愛い琉金ですね、ルシアン様。鱗の艶も、尾びれの張りも完璧です。非の打ち所がありません」
 ​そこまでなら良かったのだ。
 だが男は、余計な一言を付け加えた。
「ですが、旦那様。正直に申し上げますと……。これほど素晴らしいお屋敷に、この小さな金魚鉢一つでは、少し、不釣合いかと……」
 俺の紅茶を注ぐ手が、思わず止まった。
 今なんと言った?
 ​その瞬間、主人の纏う空気が変わった。
 ルシアンは笑みを浮かべていた。しかしその金色の瞳は、一切笑っていない。
 そして、まだ懸命に営業トークを続けようとしている哀れな業者に、冷たく言った。
​「もういいや」
「あんたとは、趣味が合わないみたい」
 ​そして俺に視線を送る。
​「リオン。お客様を、お送りして」
 ​俺はその命令に「はい」とだけ短く答えた。



 ​俺が青ざめた顔の業者を玄関まで送り届け、リビングへと戻ると、主人は金魚鉢の前にしゃがみ込み、ガラス越しに必死で2号に語りかけていた。
「気にしなくていいんだよ! あんなヤツの言うことなんか」
 その姿は、まるでいじめられた我が子を慰める父親のようだった。
​「お前が世界で一番、美人で、イケメンで、可愛いお魚さんだからね! あんな訳の分かんない、ごちゃごちゃした熱帯魚なんかより、百億倍可愛いから! お前が宇宙一、可愛いんだよ!」
 こんなに必死なルシアンは初めて見たかもしれない。
 必死になって慰めている。金魚を。
 ……そもそも、2号にそんな感情はあるのか?
​(馬鹿馬鹿しいな)
 しかし、確かに、失礼な業者だった。
 そして、確かに。
 世界で一番、美人でイケメンで可愛くて、ごちゃごちゃした熱帯魚なんかより百億倍可愛くて、宇宙一可愛いお魚さんは、2号だ。



■あとがき■
ルシアンの客に対しては、使用人ではなくリオンが紅茶係になることが多い。ルシアンがリオンの淹れた紅茶の味を気に入っているのと、紅茶係をしているリオンの姿が可愛いから。


読んでいただきありがとうございました!

※次回更新予定は1/16(金) 20:00 です。
金魚可愛いですよね…子供の頃に飼っていたんです。可愛いですよねぇ…


―――――次回予告―――――

​​この無愛想なモノクロを。
例えば真っ赤なルビーで。凍るようなサファイアで。
俺の犬を、その身体を、宝石で、ジャラジャラに、飾ってみたい。

第46話『踊り子の服1 インスピレーション』
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