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霊体05:『輪郭(エッジ)の消失と、美しきノイズ』
しおりを挟む山奥の古民家、葬の作業部屋に、千怨が新たな「獲物」を連れてきた。
今回の客は、SNSの自撮り界隈で「神」と崇められるインフルエンサー、リカ(21歳)。だが、彼女は深いフードを被り、震える手で顔を隠していた。
「……ねえ、葬。この子の『輪郭』、もうピントが合わなくなっちゃってるの。僕の占いのカードも、彼女を『人間』として認識してくれないんだよねぇ」
栄花 千怨(えいか ちおん)が、いつものように艶やかに笑いながら、リカのフードを捲り上げる。
そこにあったのは、目や鼻が溶けたように歪み、まるで「過剰な加工」が実体にまで侵食したような、不気味なノイズの塊だった。
「助けて……。加工アプリのフィルターを通さないと、自分の顔が鏡にも映らなくなったんです。……誰か、私が誰か『認証(オーセンティケート)』して……!」
リカの声は、バグった音声ファイルのように途切れていた。
「……。お前がやったのは自分磨きじゃない。アプリという他人のアルゴリズムに、自分の存在権限(パーミッション)を完全に明け渡した結果の『実体消失エラー』だ」
実兼 葬(じつかね そう)は、冷徹な瞳でリカをモニター越しにスキャンする。
だが、葬の指先が、わずかに震えていた。彼のメインサーバーには、いまだ「自分名義のお祈りメール」が未読のまま居座り、彼の精神OSに微かな負荷をかけ続けている。
それは、デバッガー自身がシステムの一部を奪われているという、かつてない異常事態の兆候だった。
「占いで『あなたは美しい』と肯定してもらう時間は、千怨のチャンネルで終わったはずだ。……こい、お前の消失した輪郭を、強制的に再構築(ビルド)してやる」
葬は己の異変を精神の奥底へ押し込み、一枚の十円玉を、リカの顔の「中心」だった場所に叩きつける。
その瞬間、部屋中のモニターが彼女の過去の「加工ログ」を映し出し、数万枚の自撮り写真が悲鳴のようなノイズとなって霧散した。
「未完了の自己否定を全削除。――他人のフィルターで、自分をログインさせるな」
葬の論理(コード)が、リカの実体を強引に現実世界へと繋ぎ止める。
断末魔のノイズが消えたとき、そこには「加工」を失った、けれど確かに血の通った、一人の少女の顔が戻っていた。
泣き崩れるリカ。
千怨はその背中を見つめ、いつものように「更新料」を決済させる。
「良かったわね、リカちゃん。……でも、一度消えかけた輪郭は、またすぐにボヤけちゃうから。気をつけなさいな?」
千怨はふわりと微笑んだまま、チラリと葬の横顔に視線を走らせた。その瞳は、いつになく鋭い。
「……。千怨、次は『美しさ』という名のバグを撒き散らすな。……処理が追いつかない」
葬は吐き捨て、再びモニターに向かう。だが、その画面の隅には、いまだ消えない一通のメールが、心臓のように脈打っていた。
【霊体05 completed】
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