【世にも奇妙なログイン:葬と千怨の除霊記】

異灯(IT-o)

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霊体09:『錬金術の偽ログと、空虚な口座(キャッシュ)』

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​ 古民家の四隅には、もはや実体を持たない「ノイズの柱」が立ち昇っている。葬の身体は半透明になり、時折画面が乱れるようにその存在が明滅していた。


​「葬! 目を離さないで! 貴方のOSが完全に上書きされたら、僕が占う相手もいなくなっちゃうじゃない!」


​ 栄花 千怨(えいか ちおん)は、なりふり構わず葬の体を支えている。その瞳は、獲物を狙う「男」の鋭さと、友を失うことを恐れる「オネエ」の哀切が入り混じっていた。


​ 今回の客は、ネットビジネスで一攫千金を狙う進(34歳)。


 彼はAIを使って「絶対に稼げる副業スクリプト」を生成し、嘘の投資実績をSNSにバラ撒いてカネを集めていた。だが、ある時から、自分の銀行口座の数字が「増え続けているのに、一円も引き出せない」という怪奇現象に見舞われた。



​「先生! 数字は増えてるんです! 億を超えたんです! なのに、ATMに入れるとカードが焼けて、家の中には札束の形をした『黒い灰』が溜まっていくんだ……!」



​ 進の背後には、彼に騙された無数の「損をした人間」の怨嗟が、0と1の数字が刻まれた巨大なムカデとなって這い回っていた。



​「……。お前が手に入れたのは資産じゃない。他人の欲望と絶望をロンダリングして積み上げた『呪いのデータパケット』だ」


​ 
実兼 葬(じつかね そう)の声は、もはやスピーカー越しのようなノイズを伴っていた。彼は血の代わりに、黒い文字列を口から零しながらも、指先を十円玉に掛ける。


​「占いで『金運が上がる』と未来を予約したか、千怨。……こいつは金という名のシステムに、自分の魂を『質入れ』したんだ。……引き出し(アウトプット)不能な虚像に、命をログインさせてな」


​ 葬が十円玉を、進のスマホに表示された「億単位の偽残高」に向けて弾く。


 その瞬間、家全体がシステムエラーを起こしたかのように激しく揺れ、進の背後のムカデが数字の悲鳴を上げながら、進の体内に潜り込もうとした。


​「未完了の強欲を強制清算(リセット)。――数字の鎖で、自分のOSを縛り付けるな……!」



​ 葬の絶叫と共に、放たれた十円玉が青白い回路の網を展開し、進の「偽りの富」をすべて消去した。


 進の口座は0(ゼロ)に戻り、彼が積み上げた灰の山は、一瞬で電子の塵となって消え去った。



​ 廃人のようになった進を、千怨は氷のような眼差しで一瞥する。



​「やだぁ。0円になっちゃったわね。……でも、命だけはデリートされなくて済んだんだから、高い勉強代だと思って諦めなさいな」



​ 千怨が冷たく言い放ったその時。



 葬のメインモニターに、巨大な『 10 』の数字が浮かび上がった。

​ それと同時に、葬の全身から光が消え、彼に届いていた「自分名義のお祈りメール」が、勝手に開封(オープン)された。



​「……。千怨。……ログイン、完了だ」



​ 葬の瞳が完全に白く染まり、彼はそのまま事切れたように動かなくなった。

​【霊体09 completed】
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