異世界のガラス都市 〜戦争をしたく無いから金の力で重武装国家を創る!!〜

シァンルル

文字の大きさ
22 / 27
第一章

第21話 開戦

しおりを挟む
「まさに断崖絶壁だな」
盆地に入り、周囲にある山を見ながら、思わずそう呟く。
ニタとの国境にある盆地を囲む山々は山と言うよりも崖に近いかもしれない。
盆地がある事、その盆地の西に我々の進路がある事、そして南にニタへの侵攻路がある事は奇跡と言って良い。
その二つ以外に道はないが、この盆地はそれなりの広さがある。
ここに都市と畑を作れば5万人程度が住めそうな大きさだ。

南の山間部とは軍が移動するには半日かかり、隘路の一本道で奇襲も受けにくく、おまけに増援に向かうにはそれほど時間がかからない。
隘路に入りきらない軍の野営場所として、ここ以外に適当な場所はないだろう。
この戦争のために神が悪戯に用意したのではないか、そう思える程、完璧な位置にある。

「これまた難儀な場所だなぁ…」
リッツの気の抜ける様な声が隣から聞こえる。
「難儀な場所か?私にはかなり良い場所に思えるが。大軍が野営、展開できる広さがある。下手に打って出でくれば大軍で簡単に叩き潰せる」
「そうじゃなくてなぁ…。こんな地形じゃ相手を効率よく叩けない。敵兵が守れなくなるまで防御陣地に正面から突撃するしか無いぜ」
それは確かにそうだ。
迂回路もなければ決戦をする場所もない。
愚直に突撃をしてどちらかが力尽きるまでやるしかない。
「それで良いだろう。こちらは数が多い。確実に防御陣地に突っ込むとは言え、あちらの方が確実に根をあげるのが早い」
「それ、雪が降るより早いかね」
「ならば来年もまた同じ事をすれば良い。いつかは相手が徴兵できなくなる」
「うわ…、えげつない」
リッツは苦虫を噛み潰した様な顔をしているが、これは戦争なのだ。
えげつない手段をとって勝てるなら使うべきだし、その手段を放棄して正々堂々と負ければ笑い者だ。

そんな事を話していると伝令が来た。
準備が整った先陣が進軍の許可を求めている。
本陣でどっしりと構える指揮官もいるが、私はそんなタチではない。
「リッツ、私は前線に出る。本陣は任せたぞ」
「またかよ。そう指揮官が前線にでると指揮系統がメチャクチャになるからやめて欲しいんだけどなぁ…」
「なに、一兵士として戦うだけだ。前線指揮官の指示には従うさ」
「そういう事じゃ無いだけどなぁ…。まあ良いや、どうせ止めても無駄なんだろ。本陣はやる事がなくて楽だしなぁ」
苦笑いをするリッツには悪いがこれが私のやり方だ。
伝令の横を全力で走り、前線部隊へ合流した。

✴︎

最前線の兵に紛れて行軍していると、遠くの方に敵の防衛陣地の様なものが見えて来た。
…妙だな。
空堀を掘っているのだろうが、そこから槍の先端が見えるだけで、普通は軍が居るはずの堀の後方に軍がほとんどいない。
ちらほら小さな部隊があるだけだ。それもかなり堀から離れている。
それどころか、かなり遠くの方に敵の本陣だと思われる軍以外の場所に兵士が少なすぎる。
地上に兵が見えないとなると、いる場所は一つしかない。
「空堀の中に兵を入れたのか?」
そう考えれば納得はできる。
堀の中の兵に、状況が見える上から指示を出すのだろう。
離れているのはこちらに弓で射掛けられない様にする為だろう。
「…なるほど、かなり面倒な種類の陣地だ」
たしか、かつてこの世界に来た異世界人が広めたものだ。
『塹壕』と言っただろうか。
空堀を直線的に掘り、その中に弓兵を配置するモノだった。
しかし、私の知る限り、種類の陣地は他の策と併用してこの時間稼ぎが主な使い方だ。
何せ、穴の中に籠る訳だから攻撃をする手段が無い。
防衛しているだけでは相手を撃滅は出来ないから、自主的に撤退するのを待つのみになる。
そんな防衛は普通行わない。
こちらの侵攻を予期していたのなら、なおのことだ。

他の作戦をこの隘路でどうやって行う?
冬までこれで粘るつもりだろうか。
この兵力差を鑑みるに、不可能とは言い切れないが、かなり厳しいと言わざる得ない。
…敵の意図がほとんど掴めない。
全く敵の意図が読めない戦場はほとんどない。
複数の選択肢が予想され、その中で裏をかかれる事があっても、まるで分からないことはほとんど無いと言って良い。
そして、経験上の話になるが、敵の意図がわからない時ほど致命的な打撃を受ける。
理由は至ってシンプル。
敵の掌の上で踊るしか無いからだ。
敵の計画通りに動かされ、敵の計画通りに壊滅する。
いっそ気持ちの良いくらいの負けっぷりになる事すらある。

そんな事を考えていると、間も無く弓兵同士の弓の打ち合いが始まろうか、と言う距離まで進軍していた。
このまま交戦するのだろうか、と思ったところで前線指揮官が大声を張り上げ、部隊に指示を出す。
「機械科歩兵、前に並べ!歩兵が後に続き、弓兵は最後だ!」
…相変わらず神聖同盟の貴族連中の指揮は、なんともお粗末なものだ。
真正面にいきなり機械科歩兵を出すとはな。
最初に歩兵を打つけて戦闘を行い、陣が乱れた所を機械科歩兵で止めを刺す。
これが基本だろう。
敵の出方がわからない以上、尚更失っても痛くない歩兵を前に出すべきだ。
そもそも、敵との交戦直前に陣形を変えるとは何事であろうか。
敵に遊撃隊の一つや二つがあるだけで混乱に陥るぞ。
…まぁ、まだ、弓兵の射程圏で陣形を変え始めないだけこの貴族はマシか。
遺憾な事に、それくらいの指揮官も我が祖国には数多くいる。
国力がありすぎるのも困りものだな。
お粗末な作戦でも数を頼みに勝利できてしまい、戦い方を改めようとしない。
おまけに、そんな戦い方をするものだから兵も育つ前に死んでしまう。
優秀な指揮官と屈強な兵士を併せ持つ北方連邦がなんとも羨ましいものだ。

…さりとて私はこの戦場の神聖同盟軍総指揮官であり、同盟軍人であり、すなわち兵である。
一般の兵として戦う以上、指揮官の命令は絶対である。
配置転換の結果、前方三列目。
危険すぎないが、戦闘は必ず行う事になる位置、悪くない。
「突撃!!!」
勢いある命令が戦場にこだまする。
開戦だ。
矢が行き交う中、先頭部隊が加速する。
その後列も後を追って走りだす。

さぁ、私たちの番だ。
足にわずかに力を込めて走り出す。
しばらく走れば目で追えないほどの高速になり、私は風を切れるだろう。
無数の矢が降り地面に当たる。
硬い地面と深紅の石がぶつかって凄まじい音が鳴っている。
血肉が爆ぜる音、兵士の悲鳴、深紅の音、そして怒号。
あぁ、素晴らしい!
これこそが私の求めていたモノだ。
勝利の美酒と栄光の前、絶望と悲痛の声が響き渡る。
これこそが私の音楽だ!!

不意に目の前の部隊の速度が落ちた。
隊列も乱れ、完全に戦列の体をなしていない。
「何があった!?」
そんな疑問を叫びつつも、前列の部隊とぶつからない様、こちらも急いて減速する。
足の骨が悲鳴を上げているが、知ったことではない。

誰かに答えられることがなかった、その疑問の答えは間も無く目の前に現れた。
敵の意図もはっきりした。
「なるほど、この陣地ならば冬まで粘る事もできるかもしれないな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...