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第一章
第23話 攻略の光明
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失敗して帰還する事は、何度体験しても気が重い事には変わりが無い。
開戦から20日、度重なる攻撃を加えたが、有効打を与える事はまるで出来なかった。
敵の兵士も多少削れて、矢の雨の密度は多少落ちたが、それだけだ。
いつになれば塹壕の中に進入して制圧できるか、と問われれば、目処は立っていない、としか答えられない状態だ。
満足な戦闘も無く、挙句に敗戦とは…。
いや、前線指揮官が指揮をして、一度も命令無視をせずに兵士として戦ったのだから、軍隊的な考えをすれば、その責任は前線指揮官にあり、私が負けた訳ではないかもしれない。
それでも、敗北の苦渋を感じているし、何よりも、あんなに意気揚々と出て行ったのだ。
負けて帰ってくれば嫌味やからかいの一つでも言われるかと思っていたが、状況と前線の様子を伝えると、リッツは意外な反応をする。
「なるほどね…。わかっちゃいたが、敵も侮れない奴だなぁ」
「かなり面倒な防衛陣地を作っている。力技で落とせなくも無いが、こっちの出血がで過ぎる上に時間もかかる」
リッツの真面目な反応に拍子抜けしつつも、どう攻略するべきか戦術を練る。
攻略自体は難しく無い。
歩兵にひたすら突撃させれば、いつかは落ちる。
敵の矢は無限ではないし、塹壕の中の兵も無限では無い。
しかも、時間を稼ぐ事に重きを置いている奴らは前線に援軍を送る様な道や仕組みが見つけられなかった。
最前線を完全に使い捨てにするつもりだ。
こちらの方には圧倒的な数的有利があるのだから、死体の山を積み上げる事を前提として、強引に攻めることはかなり効果的ではある。
しかしだな…。
頭を悩ませる私に対して、リッツがニヤリと邪悪な笑みをうけべながら話しかけてくる。
「リーヤ様、リーヤ様が今考えている事を俺は当てられるぜ」
何やらかなり嫌な予感がするが…。
有用な意見があるかもしれない。
「…言ってみろ」
「歩兵に突撃させれば確実にかてるどぉ、それじゃあ、無能な指揮官と同じになっちゃう!もっと良い作戦を考えないとぉ!」
……
「…なんで怒らないだ?…なんで無言で近づいてくるんです!?」
…抜刀。
「ちょ!それは深紅の石の方の剣じゃねねか!シャレにならないぜ!!」
このふざけた野郎は何なんだ!
日頃の恨みもある、殺しても構わないだろう。
本気の殺意を込めて、殺す気で奴に切り掛かった。
ところが残念なことに、このクソ野郎は良く訓練されている。
殺す気で振るう刀を右に左にと避けながら私の言葉に返事をする余裕がある程だ。
「貴様、私は真面目に考えている!深刻な状態で何をふざけているんだ!!」
「真面目、なんてセリフ戦争を楽しむ戦争狂が言っても説得力ないぜ」
「それとこれとは話が別だろう!戦争を楽しむ狂人よりもふざけるアホの方が害悪だ!!」
罵声を浴びせつつ顔に向かって突きをした瞬間、奴がそれを避けようと顔を上方にむける。
好機だ、下の方は見えていない。
踏み込んだ方の足とは別の足に力を込めて蹴り上げると、それは見事『急所』に当たった。
リッツが顔色を悪くして短く強く空気を吸った後、無言で地面に倒れてしまった。
泡を吹きながら手で急所を押さえる様子は流石に哀れに思えてしまった。
「…えぇっと、その…。…流石にすまないと思っている」
「…俺の家は、俺の代で終わりだ。一応、7代前から続く由緒ある男爵家だったんだがなぁ…」
虫の息とはまさにこの事だろう。
今にも死にそうな声をしている。
「…さて、そんな事より」
リッツの声が急に元の声に戻ると、背筋を使い跳ねる様に飛び起き、話の続きを始める。
「負け戦で暴れられずに溜まっていた鬱憤は晴れたか?俺の子孫と引き換えに」
…腐っても副官であると言う訳だ。
この男なりに、敗北を喫して苛立ちが募っている私を気遣ってくれたのだろう。
「…あぁ、おかげ様でな。それで話を戻すぞ。…歩兵による突撃は無しだ。だが、無能な指揮官と同列になるとか、そう言う話ではない」
「本当にそうか?」
…前言撤回。
この私をからかう様な顔。
気遣いなどしていない。
そうやって気遣いをしている様に見せて、私からの制裁を免れているだけだな。
あとでキッツい戦線に送ってやる。
「…最大の理由ではない。ここで歩兵を派手に消耗したら、ニタ侵攻の戦力が残らない。上は水源まで良いとは言っているが、私はそこで止まる気は無い」
「ちょっと待て」
素早く手で私を制した副官は言葉を遮り話出す。
「水源よりも奥に進む気か?何でだよ、水源を奪えって上は言っているのに…。立派な軍令違反だぜ?」
「水源周辺には平野がない。それでどうやって水源に駐屯する兵士の食料を賄う?」
「ここまで来た時と同じ様に食料庫を作りゃ良いじゃないか」
「神聖同盟領から運んでくる事が、どれだけ効率が悪いかわかって言っているのか?それこそ、派閥の財源を傾かせるぞ。…それこそ、お前の方が詳しいんじゃないのか?」
リッツは一本取られたと言わんばかりの表情を浮かべたあと、小さく呻いた。
「確かにそうだが…」
「食料庫の建築、物資の集積、これが終わる前に奪還の兵を挙げられたら、どうやって物資がない状態で戦うんだ。だが、先にハゼール全域を落としてしまえば反撃も食らわず、食料、物資の問題も解決する」
差し込まれたところに追撃を加えられたリッツは、短く息を吐いた後、やれやれと言わんばかりの表情を浮かべた。
「流石は戦争狂、戦争のことに関してはよく考えてらっしゃる」
一言余計だ、このからかう事しか能の無いクソ野郎め。
無言の圧力を無視してアイツは口を開く。
「それで、あの陣地の最大の難点は何だ?」
「塹壕…と言いたいがあの穴の方が厄介だな。速度が落とされる上に戦列が乱れる。機械科歩兵の最大の攻撃方、集団での突撃を出来なくする代物だ」
機械科歩兵の最も効率的な運用法は、軽騎兵の様に広い場所での遊撃戦、あるいは重騎兵の様に一ヶ所に集まり突撃する事。
しかし、あの不規則に掘られた穴では固まることも出来ない上に、穴を避けようとすればルートは自然と固定される。
挙句に狭い一本道と来た。
「あの穴さえどうにかできれば、その後の作戦は考えている」
「へぇ、流石はリーヤ様だなぁ。…鉄の板でも持ってくれば穴を塞げるかもしれないぜ?」
「却下だ。穴の数が多すぎる。それに、矢の雨が降る中で板を置いている時間があると思うか?」
「まぁ、そうだよなぁ…。大体、深紅の石でぶっ叩いたら見事なぐらいに板がひん曲がるからなぁ…」
ひん曲がるとは随分控えめな表現だ。
矢にしても、機械科歩兵装備にしても、深紅の石で地面を叩いても抉れないのは、どこの地面にも少量ではあるが深紅の石が入っているからだ。
高エネルギー体の深紅の石の直撃を受ければ、鉄しか入っていない板なんぞ簡単に砕ける。
「深紅の石に打たれても壊れない代物で塞がなくてはならない。…できれば埋め立てたい物だが」
「リーヤ様何言ってんだ。板も無理なのに埋め立てるなんて余計無理に決まっているだろ」
その通りだ。
結局のところ、矢を打たれながら穴を埋めることになる訳だ。
非現実的すぎる。
なかなか光明が見えない中、リッツがかったるそうに話をまとめた。
「つまりは、あの穴をどうにかするには、深紅の石を受けても壊れない代物を、矢が降る中でも大丈夫なくらい早く展開しなくてはならん訳だ。……リーヤ様、やっぱり歩兵に突撃させないか?」
「黙れ。真面目に考えろ」
「あーハイハイ。板を壊れない物で作るのはどうだ?オリハルコンとか。…あぁ、あとは深紅の石だなぁ。それで板を作ればイケると思うぜ」
リッツはいかにも面倒臭いと言わんばかりの口調で適当なことを抜かし始める。
「板は先ほど却下した。それに、オリハルコンも深紅の石もそんなに大量に…」
待てよ、深紅の石…!
そうだ、その手があるじゃ無いか!!
「リーヤ様?急に黙ったと思ったらニヤニヤし始めて…。怖いぜ?」
「リッツ、良くやった。お前の戯言のおかげであの穴を抜ける方法を考えついたぞ」
その方策を話した後、たった一言だけ
「流石戦争狂。狂ってるなぁ」
と揶揄われた。
開戦から20日、度重なる攻撃を加えたが、有効打を与える事はまるで出来なかった。
敵の兵士も多少削れて、矢の雨の密度は多少落ちたが、それだけだ。
いつになれば塹壕の中に進入して制圧できるか、と問われれば、目処は立っていない、としか答えられない状態だ。
満足な戦闘も無く、挙句に敗戦とは…。
いや、前線指揮官が指揮をして、一度も命令無視をせずに兵士として戦ったのだから、軍隊的な考えをすれば、その責任は前線指揮官にあり、私が負けた訳ではないかもしれない。
それでも、敗北の苦渋を感じているし、何よりも、あんなに意気揚々と出て行ったのだ。
負けて帰ってくれば嫌味やからかいの一つでも言われるかと思っていたが、状況と前線の様子を伝えると、リッツは意外な反応をする。
「なるほどね…。わかっちゃいたが、敵も侮れない奴だなぁ」
「かなり面倒な防衛陣地を作っている。力技で落とせなくも無いが、こっちの出血がで過ぎる上に時間もかかる」
リッツの真面目な反応に拍子抜けしつつも、どう攻略するべきか戦術を練る。
攻略自体は難しく無い。
歩兵にひたすら突撃させれば、いつかは落ちる。
敵の矢は無限ではないし、塹壕の中の兵も無限では無い。
しかも、時間を稼ぐ事に重きを置いている奴らは前線に援軍を送る様な道や仕組みが見つけられなかった。
最前線を完全に使い捨てにするつもりだ。
こちらの方には圧倒的な数的有利があるのだから、死体の山を積み上げる事を前提として、強引に攻めることはかなり効果的ではある。
しかしだな…。
頭を悩ませる私に対して、リッツがニヤリと邪悪な笑みをうけべながら話しかけてくる。
「リーヤ様、リーヤ様が今考えている事を俺は当てられるぜ」
何やらかなり嫌な予感がするが…。
有用な意見があるかもしれない。
「…言ってみろ」
「歩兵に突撃させれば確実にかてるどぉ、それじゃあ、無能な指揮官と同じになっちゃう!もっと良い作戦を考えないとぉ!」
……
「…なんで怒らないだ?…なんで無言で近づいてくるんです!?」
…抜刀。
「ちょ!それは深紅の石の方の剣じゃねねか!シャレにならないぜ!!」
このふざけた野郎は何なんだ!
日頃の恨みもある、殺しても構わないだろう。
本気の殺意を込めて、殺す気で奴に切り掛かった。
ところが残念なことに、このクソ野郎は良く訓練されている。
殺す気で振るう刀を右に左にと避けながら私の言葉に返事をする余裕がある程だ。
「貴様、私は真面目に考えている!深刻な状態で何をふざけているんだ!!」
「真面目、なんてセリフ戦争を楽しむ戦争狂が言っても説得力ないぜ」
「それとこれとは話が別だろう!戦争を楽しむ狂人よりもふざけるアホの方が害悪だ!!」
罵声を浴びせつつ顔に向かって突きをした瞬間、奴がそれを避けようと顔を上方にむける。
好機だ、下の方は見えていない。
踏み込んだ方の足とは別の足に力を込めて蹴り上げると、それは見事『急所』に当たった。
リッツが顔色を悪くして短く強く空気を吸った後、無言で地面に倒れてしまった。
泡を吹きながら手で急所を押さえる様子は流石に哀れに思えてしまった。
「…えぇっと、その…。…流石にすまないと思っている」
「…俺の家は、俺の代で終わりだ。一応、7代前から続く由緒ある男爵家だったんだがなぁ…」
虫の息とはまさにこの事だろう。
今にも死にそうな声をしている。
「…さて、そんな事より」
リッツの声が急に元の声に戻ると、背筋を使い跳ねる様に飛び起き、話の続きを始める。
「負け戦で暴れられずに溜まっていた鬱憤は晴れたか?俺の子孫と引き換えに」
…腐っても副官であると言う訳だ。
この男なりに、敗北を喫して苛立ちが募っている私を気遣ってくれたのだろう。
「…あぁ、おかげ様でな。それで話を戻すぞ。…歩兵による突撃は無しだ。だが、無能な指揮官と同列になるとか、そう言う話ではない」
「本当にそうか?」
…前言撤回。
この私をからかう様な顔。
気遣いなどしていない。
そうやって気遣いをしている様に見せて、私からの制裁を免れているだけだな。
あとでキッツい戦線に送ってやる。
「…最大の理由ではない。ここで歩兵を派手に消耗したら、ニタ侵攻の戦力が残らない。上は水源まで良いとは言っているが、私はそこで止まる気は無い」
「ちょっと待て」
素早く手で私を制した副官は言葉を遮り話出す。
「水源よりも奥に進む気か?何でだよ、水源を奪えって上は言っているのに…。立派な軍令違反だぜ?」
「水源周辺には平野がない。それでどうやって水源に駐屯する兵士の食料を賄う?」
「ここまで来た時と同じ様に食料庫を作りゃ良いじゃないか」
「神聖同盟領から運んでくる事が、どれだけ効率が悪いかわかって言っているのか?それこそ、派閥の財源を傾かせるぞ。…それこそ、お前の方が詳しいんじゃないのか?」
リッツは一本取られたと言わんばかりの表情を浮かべたあと、小さく呻いた。
「確かにそうだが…」
「食料庫の建築、物資の集積、これが終わる前に奪還の兵を挙げられたら、どうやって物資がない状態で戦うんだ。だが、先にハゼール全域を落としてしまえば反撃も食らわず、食料、物資の問題も解決する」
差し込まれたところに追撃を加えられたリッツは、短く息を吐いた後、やれやれと言わんばかりの表情を浮かべた。
「流石は戦争狂、戦争のことに関してはよく考えてらっしゃる」
一言余計だ、このからかう事しか能の無いクソ野郎め。
無言の圧力を無視してアイツは口を開く。
「それで、あの陣地の最大の難点は何だ?」
「塹壕…と言いたいがあの穴の方が厄介だな。速度が落とされる上に戦列が乱れる。機械科歩兵の最大の攻撃方、集団での突撃を出来なくする代物だ」
機械科歩兵の最も効率的な運用法は、軽騎兵の様に広い場所での遊撃戦、あるいは重騎兵の様に一ヶ所に集まり突撃する事。
しかし、あの不規則に掘られた穴では固まることも出来ない上に、穴を避けようとすればルートは自然と固定される。
挙句に狭い一本道と来た。
「あの穴さえどうにかできれば、その後の作戦は考えている」
「へぇ、流石はリーヤ様だなぁ。…鉄の板でも持ってくれば穴を塞げるかもしれないぜ?」
「却下だ。穴の数が多すぎる。それに、矢の雨が降る中で板を置いている時間があると思うか?」
「まぁ、そうだよなぁ…。大体、深紅の石でぶっ叩いたら見事なぐらいに板がひん曲がるからなぁ…」
ひん曲がるとは随分控えめな表現だ。
矢にしても、機械科歩兵装備にしても、深紅の石で地面を叩いても抉れないのは、どこの地面にも少量ではあるが深紅の石が入っているからだ。
高エネルギー体の深紅の石の直撃を受ければ、鉄しか入っていない板なんぞ簡単に砕ける。
「深紅の石に打たれても壊れない代物で塞がなくてはならない。…できれば埋め立てたい物だが」
「リーヤ様何言ってんだ。板も無理なのに埋め立てるなんて余計無理に決まっているだろ」
その通りだ。
結局のところ、矢を打たれながら穴を埋めることになる訳だ。
非現実的すぎる。
なかなか光明が見えない中、リッツがかったるそうに話をまとめた。
「つまりは、あの穴をどうにかするには、深紅の石を受けても壊れない代物を、矢が降る中でも大丈夫なくらい早く展開しなくてはならん訳だ。……リーヤ様、やっぱり歩兵に突撃させないか?」
「黙れ。真面目に考えろ」
「あーハイハイ。板を壊れない物で作るのはどうだ?オリハルコンとか。…あぁ、あとは深紅の石だなぁ。それで板を作ればイケると思うぜ」
リッツはいかにも面倒臭いと言わんばかりの口調で適当なことを抜かし始める。
「板は先ほど却下した。それに、オリハルコンも深紅の石もそんなに大量に…」
待てよ、深紅の石…!
そうだ、その手があるじゃ無いか!!
「リーヤ様?急に黙ったと思ったらニヤニヤし始めて…。怖いぜ?」
「リッツ、良くやった。お前の戯言のおかげであの穴を抜ける方法を考えついたぞ」
その方策を話した後、たった一言だけ
「流石戦争狂。狂ってるなぁ」
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