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二年生へん
昔の夢
しおりを挟む「設定資料集?」
「そう、攻略は乗ってないけど裏設定とか没シナリオ乗ってんの。攻略はないけど」
「二回も言うな」
視界が揺れ、ローテーブルに乗った分厚い本を手に取る。
ずっしりとしたそれは、まさに鈍器。ぱらぱら捲ろうにも重さで上手く捲れない。視界の主はソファに腰掛けると、興味のないそれを流し読みし始めた。
これは悠太の記憶だな。妹はリビングの大型テレビでスタジュエを進めているところだ。兄の真似をして、レベル1クリアを試みているそうだ。
初期レベルクリアは、隠しキャラの神様を解放しないと厳しいのだが、アイテムと装備などを駆使するとなんとかなる。
「お前の推し誰だっけ」
「ヴィル、アル、ユーリ」
「多いな、ユーリ敵じゃん」
「ビジュと設定が好みだし、何より関係性が良くて設定見ると分かるけど、生存ルートもあったんだよね。後半から攻略キャラになるの。だけどその場合、ヴィルがどうしても敵対してくるし制作コスト的にも加入タイミング的にもいろいろきつくて無しになったんだって」
特有の早口に、俺は、いや悠太は「ああ、そう……」としか返せなかった。
生存ねぇ。愛すべき雑魚キャラ的なやつだろうか、ぱらぱら捲っているとユーリの設定ページにたどり着く。
メインキャラ、隠しキャラは数ページあるがこいつは二ページ。サブキャラでこれだけ貰っていれば十分か、と悠太は文字に目を走らせる。
生存ルートに行くには、悪魔形態の胸についている石の破壊をすると記載がある。採用のストーリー上では心臓と一体化して取れないから殺すしかない、石を壊すとユーリも死ぬ。というものだった。
蝙蝠の羽に、人間とは思えない肥大化した両腕。肌の色は黒く染まり、頭には角。ヤギをイメージしたであろう頭部。まさに悪魔といった風貌だ。
ぺらぺらページを行ったり来たりして、クロエの没デザインを見つけた。黒髪ではないが、長髪なところが今のクロエに似てなくもない。俺の知る彼とは性格が全然違うのか、攻略本のクロエは爽やかに笑っていた。
「乙女ゲーなのに、どうして男同士くっついてる薄い本買ってんの?」
「そっちのが萌えたから、ヒロインはカイルが一番幸せになれると思う。てか、その話題やめて忘れて」
無茶だ。衝撃だった。ギャルゲ―と一緒で、主人公イコール自分として進めるものだろうに、他の女ならぬ男に、イケメンを奪われて良いのかっていう感情。
サブキャラたち詰め合わせのページに到達して、俺はあれ? と首を傾げたくなった。
もっとよく見たい、なのに視界が白んでいく。悠太、もっと頑張れ、知ってる顔がいくつかある。その中でも、気になるのが――
「ユーリ! 朝!」
やかましい声に、頭痛を覚える。
まぶたを開けると、すでに室内は朝日でいっぱいになっていた。カーテンを全開にしたのは、当然アルだ。エプロン姿で手を腰に当て、俺を見下ろしていた。
「……今日は、休日だろうが」
「寝坊したいなんて珍しいね。起きたなら顔洗って歯磨いて、ごはんできたから」
お前は俺のおかんか、良いところで目が覚めてしまった。
妹よ、結婚するならこういう男のが良いぞ。飯を作ってくれて掃除をしてくれて洗濯もしてくれる。生活のサポートをしてくれる素晴らしい夫になるだろう。
などと前世の家族へ思いを馳せていると、アルに名を呼ばれる。うるさいなぁとぼやく俺に、深々としたため息が届く。休みの日ぐらい昼まで寝ていたい。最近そんな気分が分かるようになった。
試験の疲労感がまだ残っている気がする。ベッドから出ると、窓の外はいらっとするくらいの青空が広がっていた。
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