悪役令息さん総受けルートに入る

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二年生へん

おそうじ

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「今年の特進生はジェイだけだ。というわけで悪しき伝統だが、大掃除は俺とジェイと、二年の誰か」
 カイル先輩が腰に手をあてて、悪しき伝統入寮記念大掃除の開催を発表する。
 初級、中級、上級と全ての試験結果が出て俺たちは無事合格。去年特進候補として上がった何名かが、二年の特進生としてくるかと思いきや現状維持となった。

 試験結果を受け、エドガー先生に感想を聞きに行きたいのだが、今のところ捕まえられていない。何かと忙しいらしい。
 試験合格しましたが他の二人より劣ってますか? どうですか? と質問したり、お前絶対性格悪いよな。裏の顔出せよ、と煽ってみたい。これをアルたちに言うと止められるので、それとなく誰にもばれないようにやりたいのだがなかなか難しい。
 いや、今はそれより。
「はい」
「ユーリくん、発言をどうぞ」
「ここ俺の部屋なので、談話室か応接室に行きませんか」
「聖女くんの部屋様子おかしくない? 家具ここだけ豪華ぁ」
「おかしいよな」
 間延びした口調でジェイが言う。こいつやっぱり王子らしくないな。カイル先輩のがまだ王子力ある。
 堂々としていて物おじしないところは良いが、全体的な立ち振る舞いがどことなく気だるげでやる気が無い。これも個性と言われたら、それはそう。こういう王子が居るのもまた現実、悪くはないだろう。

 俺の部屋、各々好きな物を設置するせいで統一感が無い。俺はシンプルな方が好きで、物をあまり置きたくないのだが、気が付くと増えている。
 男が六人、圧迫感がすごい。一般寮より部屋が広いといえ、さすがに勘弁してくれ。
 俺の部屋、確かにソファもテーブルもでかいし集まりやすいのだろうが、今回は全員いる必要ないだろう。
 現寮長のカイル先輩と、二年は掃除担当選出のため必要だろうが、ヴィルは要らんだろ。副寮長だからいるのか? でもこいつ、こういう仕事しないぞ。今も俺の隣を陣取っているだけだ。
 俺の隣にヴィル、向かいのソファにクロエ、誕生席にジェイ、カイル先輩が立っているからか、アルもとりあえず隣に立っていた。先輩に気を使える真面目なやつだ。
「聖女くんがいいでーす」
「は? 嫌でーす」
 掃除は嫌いではないが、汚れるのは嫌だ。場所によっては気絶するかもしれない。
 というより、今ここに生徒会メンバーが三人いる。カイルヴィルアル、皆ルがつくな。というのは置いといて、アルは人当たりが良い。クロエはなんとなく、ジェイの緩い感じに合いそう。よって俺は除外だ。
 先輩に囲まれているのに、シーグレイブの第二王子は堂々としたものだ。相変わらずのにやけ面で、やたらこっちを見てくる。ヴィルとジェイの視線で俺は穴だらけになりそうだ。
「はーい、おれ掃除いやでーす」
「クロエは最初から除外だ。俺一人で掃除やってる未来が見える」
「じゃ、アルか」
「そうだね、ユーリである必要は無いからね」
「えー、聖女くんがいいでーす。あの人なんかキラキラしてて嫌」
「き、きらきら?」
「じゃあユーリ」
「異論しかないです」
「異論しかないよ」
「アーヴィン兄弟はそこで息を合わせるな、話は終わり! 予定は後で伝える。以上!」
 隣のヴィルが舌打ちをする。不満を隠さないやつだ。まあ、嫌なことは嫌と言って損はない。
 話は終わりなら、とヴィルがぱちんと指を鳴らす。するとソファに座っていたジェイがぱっと消えた。突然転移魔法使うのは、マナー違反というかさすがの俺でもやらんぞ。
「こら! お前さすがに新入生にそういうことするのはどうかと思うぞ!」
「彼をここに入れること自体おかしいと思っていたからつい」
「いや、俺の部屋をたまり場にしないでもらいたい」
「全部カイルが悪いということで」
「なんでだよ」
 でかいソファ持ち込んだカイル先輩が悪いのは、そうかもしれないがこの部屋に来るか来ないかは、当人の判断によるだろう。よって、みんなが悪いです。


 掃除が行われたのは、週末だった。休みにやらせるのやめてくれませんか休ませろ。
 場所は地下懲罰房。かつては素行の悪い生徒や、侵入者、魔獣などを放り込んでいたそうだ。
 じめじめした湿っぽくて黴臭い最悪な環境。石造りの壁に鉄格子の部屋が二つ。トイレすらないじゃないか、この学園の闇を見た気がする。
 換気用の小窓が牢屋内の高い位置についていて、そこからうっすら外の光が入っている。大きさからして、脱走もできなそうだ。
「苔生えてます」
「燃やすか」
「聖女くん何その格好」
「装備だ。防御は大事だろう」
「普通の服で良くね?」
「だめだ」
 口布に手袋、そして三角巾に長靴。場所を聞いてから、俺は完全装備でなくてはならないと確信した。防御をしても体が痒い。最悪だ。
 複数の牢屋が並んだ石造りの広間を、モップを持ったカイル先輩がずかずかと進む。
 二年連続でこの人とお掃除か、もうカイル先輩イコール掃除になりそうだ。
「燃やします?」
「掃除は燃やして終わるもんじゃないからな」
「いえ、じめじめしてるし乾燥させましょう。苔とか生えてますし。火は消毒のようなものです」
「ちょっと納得しかけちまった! 駄目だからな、楽しようとするな」
 納得してくれよ。しぶしぶカイル先輩の後を追おうとすると、ジェイに手首を掴まれた。
 振り返ると、にや、と微笑まれた。こいつの笑顔、なんとも苦手だ。ヴィルと似たものを感じる。笑っているのに、笑っていないという感じだ。
「こーいうのは面倒だから一気に洗浄でしょ?」
 ジェイが手をひらひらと振ると、ブレスレットがシャツの袖下で光っているのが見えた。深い青の石が付いたシンプルなものだ。
 部屋全体が水底のような青く淡い光に包まれる。そして、牢屋前の廊下に水が集まっていく。
「な、何かやな予感する!」
 カイル先輩が、掃除道具と一緒に懲罰房の入り口まで戻ってくる。それと同時に水の玉が一気に膨れ上がり懲罰房全体を飲み込んだ。
 水気が多いところに水分をさらに追加って、逆効果では、だが洗濯機の中のように水が暴れまわるのを見ていると、水流で汚れが落ちるかもと期待してしまう。
 スライムのように蠢く水は、ジェイが手をぐっと握りしめると再び一つの塊に戻った。
「おーわりぃ」
 最後に指を鳴らせば、汚れを流しただろう水がぱっと消え去る。
 湿気がさらにひどいことになるかと思いきや、さっきよりも爽やかな空気に変わっている。
「ぼくのお仕事終わりで良い? どうどう? 聖女くん結構すごいっしょ」
「そうだな」
「もっと褒めな? そこのぼんくらにはぜぇったい出来ないことなのでー」
 ぼんくら、と指さしたのはカイル先輩だ。
 カイル先輩は、目を丸くした後むっとした様子で眉を顰める。
「いちいち突っかかんな、めんどくせーな」
 パーティで会った時から、カイル先輩をちくちくしているような。
 もとから嫌味な奴というのもしっくりくるが、先輩が嫌う言葉を的確に選んでいる気がする。カイル先輩の反応的にそう感じた。
 じろ、とカイル先輩に睨まれたジェイは気に留めた様子もなく、首を傾げる。
「今日はぁ、二人とここにこれて良かったなぁ」
「牢屋が好きなのか? 変わってるな。入って良いぞ」
「違いますぅ。聖女くん入っても良いよ」
「馬鹿! ここを掃除したのは生徒を入れるためじゃねーの!」
 そうなのか、エドガーの方針で駄目な生徒を押し込んで勉強させるのかと思った。
「最近物騒だろ、もし万が一、学園内に不審者がいたらここに一旦入れることがあるかもしれない」
 なるほど、俺が関わっている案件だな。襲われる想定というわけだ。最悪の前に最善を尽くしてくれ。
 カイル先輩の言葉に納得していると、ジェイが平和だね、と呟く。今、平和とは逆の会話をしていた気がするのだが、こいつはそう思うのか。
「物騒って言っても、別に世界が滅びるもんでもない。たとえばこの国の世界樹が消えても、世界は続く」
 ジェイの言葉に、確かに、と心の中で頷く。
 一国の神様のようなものが滅んでも、どこか遠い国の誰かには関係はない。だが、この国からしたら一大事だ。そして、最近の物騒さは俺に関係あるため俺としては平和とは言い難い。
「平和じゃないな、俺としては、だが」
「そっかぁ、じゃ、問題解決するまでうち来る?」
 非常に魅力的な提案だが、隣のカイル先輩が腕を小突いてきたので首を横に振っておいた。
「ふーん、つまんないなぁ。今回もそんな感じ?」
「今回?」
 ジェイは、牢屋の手前まで歩くとそこで足を止める。
「面白い話をしてやろうか」
 ジェイの口調が、先ほどまでの緩いものから低く地の底から響くようなものへと、変わっていく。
 これ、話聞かないで帰ったらどう反応するかな。なんとなく聞きたくない。こういう直感は大体当たる。
 実行しようと階段に向かおうとしたところ、足に何かがまとわりついて盛大に転んだ。肩からいったおかげで顔は無事だが、腕が痛い。
「何してんだお前」
「足になにか」
 呆れ顔のカイル先輩に助けられ、何とか立ち上がる。足を見ると、そこには水に濡れた長靴があるだけだった。もしかして、ジェイの魔法か。
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