【R18】VRMMO 最強を目指す鍛錬記

市村 いっち

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ローズガーデン姉妹

盗賊 ルナロッサ・ローズガーデン(1)

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 一歩後ろに下がったアジムと、逆に一歩踏み込んだソフィアに、クラウスとは違う声がかかる。

「姉さん」

 声に振り返ったソフィアが、そう言葉を洩らした。

 アジムもソフィアの視線を追って目を向けると、にやにやと笑みを浮かべた女性が腰に手を当ててこちらを見ている。

「ソフィアがそんなに御執心なのは珍しいな。
 ま、気持ちはわかるけどさ!」

 その言葉にはっとなったソフィアが赤くなるのを見て、女性がけらけらと笑い声を上げる。

 ソフィアが姉と呼んだその女性はソフィアとよく似た青みがかった銀髪と、ソフィアとは色合いの違う抜けるような空色の瞳をしていた。顔立ちもソフィアとよく似ているが、たおやかなソフィアの気配とは対照的に蓮っ葉な雰囲気を漂わせている。肌の露出が多い黒のチューブトップとデニムの短パンという服装の印象もあるのだろうが、にやにやと笑うその表情が、なおさらソフィアとは違った印象を強くしている。髪型も前髪の辺りは妹とよく似ているが、後ろをふんわりと広がらせているソフィアとは違い、短くしてうなじが見えているせいか、快活に見えた。
 身長はソフィアと同じくらいだが、露出している肩などを見るとソフィアよりもかなり華奢に見える。だが、チューブトップに包まれた胸は妹よりずいぶん豊かに実っていて、身長差のあるアジムからは谷間がしっかり見えてしまうほどだ。それでいて腹回りはしっかりくびれがあって、デニムに包まれた尻はむっちりと張りがある。

「アタシはルナロッサ・ローズガーデン。
 アンタを食っちまおうとしていたソフィアの姉だよ」
「姉さん!」

 にやにやしたまま近づいてきたルナロッサに、ソフィアが怒って声を上げる。
 ソフィアの抗議に目を向けて、ルナロッサの顔からわざとらしいにやにやが消えて笑みが深くなると、ソフィアと同じように声をかけやすい印象になった。

「アジムです。よろしく、ルナロッサさん」
「ルナでいいよ。呼び捨てにしとくれ。
 アタシもアジムって呼ばせてもらうから」
「わかったよ、ルナ」

 アジムが言われたとおりに呼びかけると、ルナロッサはにっと歯を見せて笑ってアジムの腹にぽすんと拳をぶつけた。

「うわ、かった!
 何したらこんなバキバキの腹筋になんのよ!?」

 拳に返ってきた感触に驚いたルナロッサがアジムの腹筋を撫で回す。

「ものすごいでしょう!?
 そりゃ私も虜にされますよ!」
「いやー、それと発情してたのは別の話じゃない?」

 勢い込んで同意したソフィアだが、話を蒸し返されてまた顔を赤くする。

「さ、最初は本当にいい筋肉だから、
 美術品とか工芸品みたいに思って堪能してたんですよ。
 でも、アジムさんの首もとのキスマークを見たら、
 あ、そういう風な欲をぶつけてもいいんだって思っちゃって……」

 恥ずかしそうに言い募るソフィアの言葉を聞いて、クラウスとルナロッサの視線が何となくアジムの首元に集まる。アジムは視線に居心地の悪さを感じて、シャツの襟をひっぱって首もとを隠した。

「隠さないでもいいじゃないですか。
 女の子につけられたキスマークなんて、
 男の勲章でしょう?」
「そうそう。
 それに、そのキスマークをつけたのメルフィナだろ?
 イイ女につけられたキスマークを隠すのは野暮だぜ」

 その言葉に諦めてシャツの襟を手放したアジムを見て、クラウスとルナロッサがにやにや笑う。

「んで?
 なんでアジムは鎧はずしてたんだ?」
「え……ああ、鎧のサイズを見てもらってるんだった!」

 いまさらのようにアジムが声を上げる。

「あ、鎧のサイズはチェック終わってます。
 今の鎧と私が見つけた腕の鎧を使ってもらえそうです。
 ただ、硬くはなるでしょうが、腋が少し露出するのをどう考えるかですね」

 改めてソフィアから鎧についての説明を受けて、アジムは少し考え込む。

「露出が増えているのは怖いですね。
 俺は避けることはできないですし」
「ただ、本当にいい腕鎧なので、
 見えている攻撃をどうしても剣で受けられないときに、
 腕鎧で受けるという選択ができるようになると思いますよ」
「なるほど……」

 アジムは床においてある自分の鎧に目を向ける。

「あんまり難しく考えることもないんじゃないかな?
 どうせ洞窟探検とかで全滅したら装備なんて全部なくなるんだから、
 予備の鎧として確保しておくという意味でも
 買っておいたほうがいいと思うけど」

 アジムがさらに考え込んでいるのを見て、クラウスが口を挟んだ。

「あ、そうなんですか」
「うん? アジムさんは全損したことないの?
 モンスターとやりあって死んだら、
 たいてい装備はすべて諦めることになるよね?」

 アジムの返事に違和感を感じたらしいクラウスが問い返す。

「まだ装備をなくしたことはないですね」
「そりゃすごいなぁ。
 まあ、でも、武器や鎧は何セットか持ってるほうがいいよ。
 最低でも最高品質の対人用セットと、
 なくしても泣かないで済む対モンスター用セットは使い分けたほうがいい。
 対人なら決闘で装備を賭けて
 戦ったりしなければなくしてしまうことはないから」

 クラウスのアドバイスにアジムは礼を言って、ソフィアに向き直った。

「それじゃ、その腕鎧の入手をお願いできますか」
「わかりました。金貨1000枚ですね。
 サイズが合う人がいないので、
 交渉次第でもう少しだけお安く手に入りそうですけど」

 にこやかなソフィアの言葉に、アジムは固まった。

「金貨……1000枚?」
「はい。
 あの、どうかしましたか?」

 顔を青くするアジムを、ソフィアが不思議そうに見上げている。
 他の二人も怪訝そうだ。

「あの……すみません、
 俺、預かり所に預けてる分を合わせても、
 金貨150枚にも満たないんですが……」
「何か大きな買い物でもしたんですか?」
「いや、そもそもこれが全財産なんです……」
「うん? なんでそんなに貧乏なの?」
「なんでといわれても……
 クエストあんまりやってないからでしょうか」
「いや、システムで通知してくるクエストより普通にモンスター狩ったり
 ダンジョン潜ったほうが稼げるでしょうが」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって……アンタ普段何をやって金稼いでるのさ」
「え、普通にクエストをこなしてるんですけど」
「なんでそんな初心者みたいなことやってんのよ」
「俺、初心者ですよ?」
「えっ?」
「えっ?」

 四人がそれぞれに怪訝な顔になったところに、リリィが戻ってきた。

「やー、やっと抜け出してきたよー。
 あれ、なにこの空気」

 アジムを除いたほかの三人がリリィに食って掛かる。

「ちょっとリリィさん、
 アジムさんが初心者って本当なんですか?」
「え? うん、そうみたい。
 最近まであんまり冒険とかせずに、スキルとステータスあげてたみたい」
「おいおい。それじゃ、金稼ぎとかロクにやってきてねーんじゃねーの?」
「あー。それはそうかも」
「決闘もまだあんまりやってないんですよね?」
「そこはよく知らないけど……アジムくん、どうなの?」
「リリィさんが初めてですよ。
 まだ他の人とはやってないですね」
「え、私が初めての女なんだ……」
「いや、わざとらしく喜んでる場合かよ。
 リリィと戦りあえる戦闘力あるのに、ガチ初心者なのかよ……」
「戦闘力とプレイヤー知識のアンバランスさが酷いですねぇ……。
 金貨1000枚くらいなら1日で稼げる金額なのにドン引きしてるあたり、
 お金の稼ぎ方をまったく知らないのに
 傭兵に出れるレベルの戦闘力あるんですもんねぇ」

 ソフィアとルナロッサが交互に質問して返ってきた答えに、あきれたように顔を見合わせた。

「リリィさん、アジムさんが身に付けている装備は
 メルフィナさんの強化が入ってるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「お金はどうしたんです?」
「アジムくんがメルフィナに身体で払った」

 クラウスはリリィの回答に顔を顰める。

「うーん。メルフィナさん強化の装備一式って、
 金貨10000枚くらいの価値はあるんですよね……。
 アジムさん、それだけのお金を稼げます?」

 クラウスに問われたアジムは全力で首を横に振る。

「ですよね。
 うーん……ソフィアさんの言うように、
 本当に戦闘力とプレイヤー知識の差がなぁ……」
「強いのはいいことじゃない?」
「強いことはいいことなんですけど、
 プレイヤー知識がついてきていないと、いらない揉め事引き起こすんですよ。
 アジムさんは決闘メインでやるんですよね?」
「はあ、まあ、そのつもりをしています」
「今のまま同じくらいのランクとガンガン決闘やりだしたら、
 まず間違いなく初心者狩りだと思われますよ」
「あー」

 クラウスの言葉にアジムは首を傾げたが、リリィが納得した声を出した。

「それはそうかも……。
 ごめん、アジムくん。私、そこまで考えてなかった」
「ランキング下位だと、
 今のアジムさんなら100戦やって95勝くらいできるでしょう。
 だからこそ、間違いなく初心者狩り扱いされるでしょうね」
「うわー。本当にごめん、アジムくん」

 ランキング上位の壁に阻まれて勝てなくなり、初心者プレイヤーを相手に憂さ晴らしをする『初心者プレイヤーを装った中堅プレイヤー』……通称、初心者狩りがいる。初心者プレイヤーにわかりにくい条件で決闘をふっかけ、負けた初心者プレイヤーが金銭や装備を奪われたり、場合によっては負けた相手の奴隷にされたりすることもある。

 中途半端なプレイヤースキルで初心者プレイヤーいじめをする初心者狩りは嫌われ者だ。
 だからこそ、初心者狩りを狙って狩ろうとする初心者狩り狩り、などという、カウンター存在が出てきたりもする。
 初心者狩りプレイヤーとレッテルを貼られてしまうと、面倒なことになるのは間違いない。

「いえ、リリィさんが俺のためを思って
 メルフィナさんを紹介してくれたりしたんですし、
 そんなに気にしないでください」
「うん……」

 落ち込むリリィを気遣ってそう言ったものの、根本的な問題解決になっていない。

「もう一式、鎧を用意するかな……」

 せっかくメルフィナが強化してくれた鎧だが、しばらくは預かり所に眠っていてもらって、普通の鉄鎧で決闘をやるか。
 アジムがそんな風に考えを巡らせていると、

「アジムさん、ウチのギルドに所属しない?」

 クラウスにそう声をかけられた。

「ギルドに……ですか?」
「うん。ウチのメンバーはみんなアジムさんに興味津々だから、
 決闘相手には不自由しなさそうだし、
 みんなランキング中位くらいにいるから、
 みんなと一通り戦えばアジムさんも適正ランクにいけるんじゃないかな」

 落ち込んで項垂れていたリリィもその話を聞いて顔を上げる。

「私もギルドに入ってくれると嬉しいな!
 ギルドチャットでやりとりできると連絡しやすいし!」

 リリィが声を上げたのに、ルナロッサとソフィアも顔を合わせて頷く。

「そうだなぁ。アタシもアジムがギルドに居てくれるとありがたいな。
 盗賊としてはダンジョンに潜るときに、
 咄嗟に前に出てくれる信頼できる壁役が居ると斥候やりやすいし」
「私なんかは隊商組んでますから、
 その護衛にアジムさんのような重装の方がいてくれると助かります。
 装甲の薄い人だと避けた魔法の流れ弾で積荷が痛むこともあるし、
 見た目の威圧感だけでNPC山賊は交渉で退けられそうですし」

 アジムはクラウスとリリィが誘ってくれた時点でギルドに参加する意思を固めていたのだが、ルナロッサとソフィアが自分が参加するギルドメンバー側のメリットを口に出して誘ってくれるのを聞いて、自分が一方的にありがたいだけの話でなくて、少し気が楽になった。

「ありがとうございます。
 それじゃあ、ギルドに参加させてください」
「うん! ようこそ、私たちのギルド
 <明日見る風景>へ!」

 アジムは差し出されたリリィの手を取った。

「あれ? ギルドマスターは僕なんだけどな?」

 そう呟いたクラウスは「まあまあまあまあ」と、ローズガーデン姉妹にあやされていた。
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