【R18】VRMMO 最強を目指す鍛錬記

市村 いっち

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ローズガーデン姉妹

ローズガーデン姉妹(2)

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 ソフィアは自警組織を訪ねて話を通し、取って返して宿で傭兵を雇うと、宿の主人からアジムの部屋を聞き出して男たちを案内していた。
 宿の2階にあるその部屋の前で、男たちが顔を見合わせる。

「ここが山賊の引き込み役がいる部屋ですか」

 自警組織……村の自警団は、騎士団を引退した老騎士が一人だけの組織だった。
 普段から平和そのものの村ではもめ事など起こらないため、老騎士が住民たちの仲裁役をやっているだけの自警団だ。老騎士に戦闘力など期待できそうもないが、賄賂など使わなくとも「山賊の引き込み役」という情報を無視せず調査に腰を上げてくれた。
 老騎士がいてくれたおかげで宿の主人からアジムの情報を容易く得られたし、部屋の鍵まで貸してもらえた。傭兵たちも自警団が動いているのなら、とスムーズに雇うことができた。ソフィアは白髪の髪を丁寧に撫でつけた紳士然とした老騎士を、壁として使い捨てるのは気が引けるようになりつつあった。

「よし、じゃあ中にいるやつをぶっ殺せばいいんだよな!」
「早くやろうぜ! 俺の剣を見せてやる!」

 逆に、若い男二人は積極的に壁として使い捨てたい。
 にきび面と垂れ目の若い男二人はわかりやすく自分を英雄だと思い込んでいるタイプの傭兵らしく、注意や警戒などまったくない。今も廊下で大声で言葉を交わしあっている。中のアジムに聞こえて警戒されてしまっているだろう。
 敵は自分より弱くて当たり前。根拠もなくそう信じられる馬鹿さ加減がソフィアには信じられない。付き添いのベテランの男が眉間にしわを寄せて何度となく舌打ちしているが、あえて注意を言葉にするつもりはないようだ。痛い目にあえばいいとでも思っているのだろうか。まあ、痛い目にあって体で覚えなければ反省もしそうにないのはソフィアも賛成だ。

 極端に無口なベテランの男は、ソフィアとの雇用交渉のときにもほとんど口を出してこなかった。

 二人がろくな情報を聞かないまま、剣をふるう機会を得られると雇われようとしているのに、それに対して異を唱えることもなく、黙ってついてくるだけだ。さすがに違和感を感じたソフィアが声をかけようとしたが、血気に逸る若手二人に急かされて、ろくな会話もないまま、アジムの部屋の前に来てしまっている。

「まずは本当に山賊の仲間なのか、確認が先ですよ。
 戦ってしまった後に実は普通の旅人でした、では困るのです」
「殺してから調べりゃいいんじゃねぇの」
「違ってたらでっちあげりゃいいんだろ」

 穏やかに諭そうとする老騎士がさすがに困った顔になっているのを見て、ソフィアはため息をついた。ベテランの男は苦り切った顔をしている。

「こんなところでだらだらしていても意味ねーし、
 なんでもいいから早くドア開けようぜ」

 中に居るアジムに訪問がばれてしまっているだろうから、ここで会話をしていても仕方がないのは間違ってはいない。だが、警戒心のないにきび面に指摘されると腹立たしさを覚える。ベテランの男もそうらしく、イライラした顔の眉間のしわがいっそう深くなった。

「それでは、いきましょうか」

 老騎士はそういって各人の顔を見回し、心の準備ができていることを確認して宿の主人から借りたマスターキーで部屋の鍵を開ける。老騎士がドアノブに手をかけようとする前に、若手が割り込むようにドアを開けて中に入った。
 さすがにため息をついた老騎士がそれに続き、ソフィアは老騎士を追って部屋に入った。

「何だ、おまえら」

 ソフィアでも部屋の端まで3歩ほどで届いてしまうだろう狭い宿の部屋は、ベッドと椅子がひとつのテーブルがあるだけの簡素な部屋だったが、窓だけは大きく取られていて、陽光がよく入って明るい部屋でもあった。その部屋のドアから離れた窓側の壁を背にして、警戒も露なアジムが立っていた。
 
 狭い部屋に5人も人が居るとお互いの距離が近い。

 近くで見る立ち上がったアジムは、やはり大きな男だ。普通に立っているだけで天井に頭がつきそうだ。若手の二人やソフィアの後に部屋に入ってきたベテランの男はソフィアよりも頭一つくらいは大きな身体だが、その男たちでさえ、アジムの肩よりも背が低く、完全に見下ろされてしまっている。アジムはデニムのズボンだけをはいて上半身は裸だったので、そのすさまじいまでの筋肉の厚みもよくわかる。衣類を身に付け、鎧を身に付けている男たちよりも、裸のアジムのほうがはるかに分厚い。

「あなたが山賊の一員だという情報があって、お話を聞きに伺ったのです」

 そのアジムの肉体的な圧力を前にしても、老騎士は穏やかな気配を変えず、アジムに話を切り出す。

「はぁ?」

 アジムが窓際から近づいてくると、老騎士より先に部屋に入っていた癖に、老騎士の左右に分かれて足を止めていた若手二人が、一歩後に下がる。アジムの圧力に完全に腰が引けてしまっている。
 アジムは老騎士の前まで移動してから、視線を若手二人に目を向けた。

「誰だよ、そんな与太話を言い出したのは」

 若手二人が何となく顔を見合わせてから、後にいたソフィアに視線を動かす。

「馬鹿が!」

 ベテランの男が剣の柄に手をかけながら焦ったように叫んだが、若手二人の視線が逸れた瞬間にアジムは動き出していた。
 最初にアジムに襲われたのは正面で相対していた老騎士だ。だらりと垂らされていたアジムの右手が、拳になって下から突き上げるように飛んでくる。咄嗟に左腕で受けようとできたのは、若いころの鍛錬の賜物だった。だが、老いにより筋力が萎えた腕では、アジムの拳を受け止めるにはあまりに非力だった。
 アジムの拳を止めきれず衝撃を胸に受けた老騎士は吹き飛ばされ、若手二人とソフィアの横を通り過ぎ、ベテランの男を巻き込んで部屋のドアに叩きつけられた。

 突然のことに驚いて呆然となった若手二人にも、アジムが容赦なく襲い掛かる。

 大きく踏み込みながら放たれたアジムの拳は、垂れ目の男の鼻下の急所に叩き込まれた。垂れ目の男は血しぶきと白いものを撒き散らしながら、悲鳴も上げられずにソフィアの横を吹っ飛んでいき、老騎士の身体を押しのけて立ち上がろうとしていたベテランの男にぶつかって、床に転がった。

 アジムは拳に刺さった垂れ目の男の歯を払いながら、残ったにきび面に目を向ける。

 ようやく気を取り直したにきび面が剣の柄に手をかけたが、無造作に近づいたアジムがその腕を押さえると剣を抜くことすらできなくなった。「離せ」などと罵りながら振りほどこうとするが万力のようなアジムの手が振りほどけるはずもなく、振りほどくことに躍起になっているうちに、にきび面の顔面にアジムの肘が振り落とされた。

 相棒と同じように顔面を破壊されて、にきび面も床に転がった。うつ伏せに倒れたので顔を見ることはできないが、顔の下から血だまりが広がっていく。

 あっという間の惨劇に唖然としていたソフィアは、血だまりが広がっていくのを見てようやく何が行われたかを悟り、身体が震えだすのを感じた。

 寒気がするほどの人体破壊をやってのけた当人は、今度は肘についた歯を払いながら、ようやく立ち上がって剣を抜き、ソフィアの前で身構えたベテランの男に向かって親しげにさえ聞こえるような声を出す。

「雇い主はそっちの嬢ちゃんか?」

 ベテランの男はアジムの言葉には反応を返さなかったが、ソフィアがびくりと身体をはねさせたのを見て、アジムはにやりと笑みを浮かべた。

「なんで俺を狙ったのかは、説明を聞いたか?」
「あんたが、山賊を案内する引き込み役だと聞いた」

 ベテランの男が言葉を返したので、アジムは笑みを深くした。

「俺はそんなのじゃねぇぞ」
「そんなはず……ない。貴方は、山賊の引き込み役」
「違うっつってんだろうが!!」

 アジムの否定の言葉にソフィアが言葉を被せたが、即座に返されたアジムの怒号に、ソフィアは身を竦ませる。

「まあ、俺が山賊の引き込み役かどうかはもうどうでもいいな。
 もうお前らに俺とやり合える力がないってことだけが重要だ」
「俺を侮るなよ」
「白々しいぜ。事実だろ」

 ベテランの男は怒ったような声を出したが、続いたアジムの言葉には舌打ちだけを返した。

 戦力差を認めたようなベテランの男のその仕草に、ソフィアは頭を逃亡に切り替える。
 恐怖にこわばった身体を鼓舞して、じりじりとドアに向かって後退を始めた。

 アジムはベテランの男に顔を向けたまま、目の端でソフィアの動きを追っていた。

「それで? あんたはどうしたいんだ?」
「全員このまま見逃してもらえたらありがたいんだが……無理だろうな」
「そりゃそうだ。こっちはいきなり部屋に踏み込まれてんだ。
 ……俺のことを山賊だ、
 なんて与太話を吹き込んでくれた当人くらいは置いていってもらわないとな」

 アジムの言葉が放たれた後、わずかな空白の時間があった。
 放たれた言葉を理解するまでと、それを受けて決断するまでの、ほんの少しの空白の時間。

 ソフィアが身を翻してドアに向かって走り出そうとするのと、ベテランの男がソフィアに向かって手を伸ばしたのはほぼ同時だった。

 動き出したのは同時だったが、ソフィアからドアまでよりも、ベテランの男からソフィアまでのほうが距離が近かった。ソフィアがドアにたどり着くよりも早く、ベテランの男の手がソフィアを捉える。

「離し……きゃっ!」

 ベテランの男はソフィアの腕を掴むと、身体を回転させてそのままアジムに向かって投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたソフィアは背中をアジムの腹で受け止められて、そのままアジムに抱き込まれてしまった。アジムの左腕が身体を、アジムの右手が口元を押さえつけ、抵抗どころか言葉を出すことさえ封じられてしまう。

 それでも必死にもがくソフィアの抵抗をまったく意に介した風もなく、アジムはベテランの男に向かって首をかしげる。

「ずいぶんと決断が早かったな?」
「あんたみたいなのと戦うなんてのは、最初に説明されてなかったからな」
「なるほど」

 若手がでしゃばっていたせいで、情報が伝えきれなかったのだ。こんな風に裏切られてしまうほどのことでもないはずだ。ソフィアは非難がましい目をベテランの男に向けるが、目を向けられたベテランの男は軽く肩をすくめただけだった。

 ベテランの男は若手の二人を担いで、ドアの外へと雑に転がした。若手二人は変な痙攣を始めているのだが、ベテランの男は面倒くさそうに舌打ちしただけだった。

「そっちの二人、まずくないか?」
「まずいな。だからって薬もないしな」

 最後に老騎士を担いでドアに向かうベテランの男に声をかけたアジムは、返事を聞いてテーブルに置きっぱなしだった自分のポーションバックから回復薬を取り出すと、ベテランの男に投げて渡した。

「サービスだ」
「悪いな」
「護衛契約不履行でしょう?! 助けてくださいよ!!」

 アジムが右手を使ったことで声を出せるようになったソフィアがベテランの男に必死に声をかける。

「嫌だね。
 護衛料は安いし前金も普通は半額のところを3分の1しか払ってもらってない。
 はした金で命を売るのが俺たちの家業だが、それにしたって安すぎる。
 こんな男とやりあうなら、倍もらっても足りねぇや」
「それなら、見合う金額を払いますから!」
「最初にこんな男の情報を出してなかったあんたは信用ならねぇ。
 お断りだ」
「それでも、
 前金を受け取っているんですから契約不履行を商人仲間に広げますよ!
 お仕事が入ってこなくなりますよ!」

 老騎士を担いで廊下に出たベテランの男が振り返る。
 わずかな希望にすがりつくように自分を見つめるソフィアを、ベテランの男は嘲笑った。

「あんた、この部屋を人間のまま出られるつもりか?」
「え……?」
愛玩奴ペット肉奴隷べんきか、それとも死体か。
 人間やめたあんたの言葉なんて、商人仲間が耳を貸すわけないだろ」

 これからの自分の運命を明確に言葉にされたソフィアは顔を青くして足掻く。

「お願いします! 助けてください!
 お願いします!!」

 涙さえ浮かべて必死に懇願するソフィアを無視して、ベテランの男はアジムに視線を向ける。

「薬をサービスしてもらったんだ。
 宿の主人と騎士の爺さんには適当に言い含めておいてやるよ。
 実はあんたが街から来た警邏隊で、
 嬢ちゃんのほうが山賊の引き込み役だった、とかでいいか?」
「ああ、助かるな。
 尋問するから悲鳴が上がるってのもあわせて言っておいてくれ」
「わかった」

 ベテランの男はアジムの言葉に頷いて、助けを求め続けるソフィアに向かって苦笑してみせた。

「と、言うわけだ。諦めてくれや」

 ベテランの男がドアを閉めていく。

「いや! いやぁ! 助けて! 置いていかないで!!」
「まあ、あんたが人間をやめずに済んだら、また会おうぜ?」

 ベテランの男の言葉だけが部屋に残り、ドアが閉じられた。

「ああ……」

 絶望のあまりにソフィアは足から力が抜けて、その場に跪きそうになるが、身体にしっかりと巻きついた太い腕がそれを許さない。それどころかさらに強くソフィアの身体を押さえつけると、空いた右手がソフィアの顎を掴み、無理やり顔を上げさせてにやにやと嗤うアジムへと強引に目を向けさせた。

「さて、それじゃあ楽しませてもらおうか?」
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